抄録
乳歯の埋伏,あるいは萌出遅延の発生頻度は永久歯に比較して低いといわれている1)。今回著者らは,歯冠の一部が口腔内に露出し,その後,萌出がみられなかった下顎左側第二乳臼歯の2例を経験したので報告する。
1)患児は初診時4歳0か月及び6歳8か月の女児で,2例とも全身疾患はなく,家族歴,既往歴に異常は認められなかった。
2)口腔内所見では,2例とも当該歯のみが歯冠の近心舌側咬頭の一部を口腔内に露出させていた。当該歯周囲歯肉に発赤,腫脹などの所見は認められなかった。
3)エックス線写真所見では,症例1で当該歯は下顎左側第一乳臼歯歯頸部と同じ高さにあり,歯冠形態は下顎右側第二乳臼歯とほぼ同様であった。歯軸傾斜は認められず,歯根が完成していた。下顎左側第二小臼歯の歯胚は確認できず,下顎左側第一大臼歯は当該歯と同じ高さで遠心に存在していた。症例2で当該歯はやや遠心傾斜し,遠心辺縁隆線は近心傾斜したΓ6の近心面下部に入り込んでいた。当該歯の歯根は短く,その近心下部にΓ5の歯胚を確認した。
4)治療は,症例1に対しては4歳1か月時に開窓し,術後1年5か月で萌出完了した。症例2に対しては6歳9か月時に開窓し,6の遠心移動と当該歯の牽引を行い,術後10か月時では挺出した上顎左側第二乳臼歯と接触するまでに萌出した。
5)開窓した歯肉の病理組織診断は2例とも歯冠周囲粘液線維性過形成症であった。