1999 年 37 巻 3 号 p. 453-458
放射温度計は,サーモグラフ同様身体に非接触で,無侵襲,計測による身体的制限が少なく,さらに温度の計測と表示が同時に可能で,機動性に優れ,廉価である。今回の研究は,放射温度計を情動のモニターとして小児に応用する前段階として,成人へ応用し,その可能性を検討した。
方法は,岡山大学歯学部小児歯科診療室において,25-48歳の男女20名の鼻尖部皮膚表面温度を安静時にサーモグラフと放射温度計を用い計測した。鼻尖部皮膚表面温度の変化幅(Range)と変動係数(CV)を放射温度計の実測値,および平滑化した値から算出し,サーモグラフによる計測値のRange,CVと比較した。また,実際の症例における各計測値の変化を検討した。結果は実測値では有意な差が現れたが,平滑化した値では有意差はみられなかった。放射温度計の値を平滑化することによって,臨床上使用可能な計測精度を導くことが可能であることが示唆された。歯科臨床において放射温度計を使用し,情動変化の生理学的指標である鼻尖部皮膚表面温度変化を捉えることが可能で,放射温度計の情動のモニターとしての,歯科場面への応用の可能性が示唆された。