抄録
下顎歯列の滑走運動中の咬合接触状態を観察するため新たなシステムを開発し,その有用性を検討した。
本システムの特徴は,三次元6自由度下顎運動データと歯列の三次元形態座標を同一座標系に変換し,運動データを用いて形態データの移動ができることである。これにより下顎運動中のあらゆる顎位における上下歯列形態の三次元的位置関係を再現することができた。
各顎位における上下歯列の咬合接触は上下歯列咬合面間の対合距離が0.2mm以下の部位と評価し,接触面積を算出した。
本システムを用いて,5歳6か月の男児について右側方滑走運動時の咬合状態をコンピュータグラフィックスにて表示した。さらに小児5名(男児3名,女児2名)について,側方滑走運動時の接触面積の観察を行った。全ての被験児は齲蝕のない正常乳歯列咬合を有する小児である。
その結果,以下の結論を得た。
1.コンピュータグラフィックスにより,乳歯列の側方滑走運動に伴う咬合面上の咬合接触の変化を視覚的にとらえることできた。
2.乳歯列の側方滑走運動中の咬合接触面積を歯種別に定量することができた。
3.乳歯列の側方滑走運動中に,作業側とともに非作業側の第二乳臼歯にも咬合接触が観察されたことより,小児の咬合接触の機能的な役割についてより詳細な検討が必要であると考えられた。以上より,小児における咬合機能を解析する上で新たに開発した本システムは有用であることが示された。