抄録
本研究では,窩洞形成を目的にEr:YAGレーザーを小児歯科臨床に応用する際の有用性および安全性を検討するため,便宜抜去された根尖未完成なヒト幼若小臼歯を用いて,歯牙硬組織および歯髄への熱影響を検討した。実験試料は咬合面の象牙質を露出させ,象牙質厚径が1.0,15mmとなるよう作製した。照射条件は50,100,150mJ/pulse,10PPsと設定し,直径0.6mmのコンタクトチップで被験歯に接触させ注水下で照射した。照射時間を2,5,10sとし,1照射条件,1厚径で5試料ずつ(計90試料)レーザー照射し,照射前,照射時,照射後の温度変化をアルメルークロメル熱電対で測定し,平均値と標準偏差を求めた。この結果より,各照射条件ごとに象牙質の厚径の違いによる温度変化および照射時間の違いによる温度変化の比較検討を行った。
1.照射に伴う象牙質の温度上昇は照射エネルギー,照射時間,象牙質の厚径に影響され,照射エネルギーが高くなり,照射時間が長くなり,また象牙質の厚径が薄くなると上昇温度は高い値を示した。
2.レーザー照射に伴い,歯髄側象牙質の温度は上昇したが,十分な注水下での照射により全ての照射条件下での最高上昇温度平均値は5℃ 未満と抑制され,歯髄に対する影響はないことが示唆された。
3.照射条件150mJ/pulse,5s,10sにおいて,個体によっては5℃ 以上の最高上昇温度を示した場合もあり,歯髄に対する影響が危惧されたものも認められた。