抄録
本研究は,幼少期(就学前)に受けた歯科治療時の抑制治療の記憶が,その後の治療態度にどの程度関連しているかについて,質問調査法により比較,検討したものである。調査対象は,本学歯学部の4年生から6年生の350名である。その結果は,以下のようであった。
1)幼少期(就学前)の歯科治療経験の有無について,明確に記憶している者は全体の61%であった。さらに自分の受診態度について,はっきり覚えている者は全体の10%のみであった。以上のことから,大多数の者は過去の歯科治療時の記憶が明確ではなく,極めて曖昧な傾向にあることが示唆された。
2)抑制的対応経験を持つ者の中で,現在でも歯科治療に対して明確に恐怖や不安を感じる者は全体の18%であった。しかし抑制経験を持たない者の中で現在でも恐怖,不安を感じる者は5%を占めたのみであり,両群には10%以上の差が認められた。一方,抑制経験のある者の中で,現在も歯科治療に対して明確に恐怖や不安を感じない者は16%を,抑制経験を持たない者の中で,現在でも恐怖を感じない者は28%を占め,両群においても10%以上の差が認められた。X2検定では,いずれも有意差は認められなかったが,何らかの抑制経験のある者は,抑制経験の無い者よりも歯科治療に対して恐怖や不安を感じる傾向にあることが示唆された。