抄録
吸啜あるいは咀嚼運動が正常に行われるには口腔領域からの感覚情報が脳幹を経由して大脳皮質まで正しく伝達されること,また脳幹に存在する運動ニューロンが協調して筋活動を制御することが必須とされている。吸啜期から成熟期にかけて摂食に伴い活動する神経細胞の局在や機能の解明は,哺乳行動とその中枢メカニズムを理解する上で重要である。
本研究ではラットの新生仔について,哺乳により脳幹に発現するc-fos蛋白(Fos)の局在と成長発達過程との関連を免疫組織化学的方法によって検討し,成熟ラットについても摂食後の脳幹でのFosの発現を同様の方法で調べ,新生仔と比較した。
ラットの脳幹冠状断凍結切片を作製し,抗Fos抗体を用いてFosの局在と陽性細胞数を組織学的に検索した。仔ラットを,常に母ラットとともに飼育する対照群,絶食後母ラットに授乳させてから灌流固定に供する摂食群,絶食後哺乳することなく灌流固定に供する絶食群に分け,生後3,7,14日目の各群間でのFosの発現を比較検討し,次のような結果を得た。
摂食群ではFosが孤束核(NST)および延髄網様体背側部(dRF)において著明に発現し,絶食群に比べ有意な増加が認められた。対照群においても同部位でFosの発現がみられたが,摂食群と比べ陽性細胞数は少なかった。成熟ラットでも,NSTおよびdRFのFos発現について新生仔ラットと同様の傾向を示した。以上の結果から,哺乳を含むラットの摂食行動にはNSTならびにdRFニューロンの活動が深く関与していることが示唆された。