抄録
中心結節の破折に起因した歯根嚢胞と,下顎骨骨膜炎を各々1例経験した。後者は歯根未完成歯であったが感染後も歯根は形成され,歯根長の伸展がみられた。
症例1:患者は15歳5か月の女子で精神発達遅滞を有し,下顎右側部の腫脹を訴え来院した。エックス線検査にて下顎右側第二小臼歯の根尖病巣を認めた。原因歯の根管治療を行い,2週後に水酸化カルシウム糊剤で仮の根管充填を施行し経過観察を行った。臨床的には不快症状はなかったが,4か月後根尖の病変は拡大していたため病巣の摘出,歯根端切除術を行った。摘出物は病理組織学的に歯根嚢胞であった。術後,嚢胞腔には緻密骨が形成され治癒した。
症例2:患者は11歳の女児で右側頬部の腫脹を主訴に当科を紹介された。発熱と右側外頬部から下顎にかけて腫脹がみられ,中心結節破折による下顎骨骨膜炎と診断した。抗生物質,鎮痛剤による消炎をはかったところ急性炎症症状は速やかに消退した。若年者で歯髄腔は広いため歯髄の一部は生存していることを期待し,根管の開放を行わず経過観察を行ったところ歯根は伸展した。しかし,5か月後下顎右側第一,二小臼歯間頬側歯肉に肉芽を認め歯髄壊死の診断の下に根管処置を開始した。その後,1か月でガッタパーチャポイントを充填し,インレー修復を行った。その後,不快症状はなく良好な経過をとった。