抄録
歯科臨床において唾液緩衝能に代表される唾液テストが種々行われている。本研究ではこれら唾液テストの結果を正しく評価するために,唾液分泌速度,pH,緩衝能および唾液中カルシウム,無機リン濃度の個人内変動について検討を行った。
唾液採取は5名の成人に対して1日4回(9:00,11:00,13:00,16:30),8名の小児(5歳児)に対して1日1回(13:30)それぞれ3日間行った。安静時唾液は被験者を座らせ,頭部を軽く前傾斜させ,予め計重した紙コップに吐き出させた。刺激唾液は3分間ガムベースを噛ませて採取した。計測項目はそれぞれの唾液の分泌速度,pH(pHメーター),緩衝能(CAT21®),カルシウム(吸光光度計)と無機リン(比色計)の濃度である。
その結果,各被験者の各測定値の変動は著しく大きいことが示された。さらに成人では分泌速度,pH,緩衝能の値,小児ではpHの値は,全被験者の変動範囲の50%以上を示した。唾液中カルシウム,無機リン濃度は安静時唾液より刺激時唾液の方が安定しており,採取する時間帯にそれほど影響を受けないことが示された。臨床において,個人の齲蝕感受性を評価する目的で唾液テストが行われているが,得られた値は必ずしもその個人の代表値を示すものではないことが明らかとなった。