抄録
もやもや病(Willis動脈輪閉塞症)は,脳血管写上頭蓋内内頸動脈末端部から前および中大脳動脈の起始部にかけ狭窄ないし閉塞を認め,その近傍に異常血管網が動脈相で認められる疾患である。わが国では欧米に比べて発症率が高く,決して稀な病気ではないが,原因不明の脳血管疾患であり,病態を解明するには至っていない。小児例では,過呼吸を伴う動作によって誘発される脳虚血発作が典型的であるが,低年齢であるほど脳の発達に伴う旺盛な脳代謝を支えるために高い脳血流量が必要とされ,そのため要求される正常脳血流量と発作時脳血流量とのギャップが大きく,意識障害,脱力発作,感覚障害などが重症化しやすい。もやもや病患児では号泣が虚血発作の誘因となることが知られており,歯科治療時の号泣が患児の脳の発達を阻害する可能性がある。
今回著者らは,広範性に重度齲蝕を有するもやもや病患児に対して,患児の身体的心理的状態に応じて母親を交えた行動変容技法を用いて,全身麻酔導入および覚醒時には母親も一緒に入室させた全身麻酔下集中歯科治療を行った。その結果,重篤な合併症を回避することができた。しかし最も大切なことは,患児のカリエスリスクを下げることに努め,定期健診によって積極的な口腔疾患の予防に努めることであると考える。