小児歯科学雑誌
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近交系マウスにおける眼瞼開存の発症率ならびに口唇裂・口蓋裂発症との関連
田中 眞理韓 娟
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2006 年 44 巻 3 号 p. 371-378

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抄録
哺乳類胎児(仔)の発育中,眼瞼は成長過程において,上下原始眼瞼が眼球の表面を被うように癒合し,一時的に閉眼する。マウスにおいては生後約12日に眼瞼の表皮癒合部分が角質化により開眼する。マウス眼瞼の正常な発育が障害されると眼瞼開存している状態で出産し,眼瞼の奇形が生じる。本研究の目的は,眼瞼開存の遺伝学的研究のために,眼瞼開存の近交系モデルマウスを確立することである。著者は,近交系A/WySnマウスとC3H/Heマウスを用い,各系統の胎生18日マウス胎仔において,自然発症およびコルチゾン投与による発症の眼瞼開存の発症率ならびに眼瞼開存と口唇裂,唇顎口蓋裂,口蓋裂の合併発症の発症率を観察した。結果は,A/WySnマウスにおいて,自然発症の眼瞼開存の発症率は11.6%であり,コルチゾン投与による眼瞼開存の発症率は21.9%であった。C3H/Heマウスにおいては,自然発症ならびにコルチゾン投与による眼瞼開存は共に認められなかった。また,A/WySnマウスにおいて,自然発症の眼瞼開存の単独発症の発症率は10.8%であり,コルチゾン投与による眼瞼開存の単独発症の発症率は8.1%であり,有意差は認められなかった。なお,コルチゾン投与による眼瞼開存と口蓋裂の合併発症の発症率は13.8%であり,自然発症の眼瞼開存と口蓋裂の合併発症の発症率(0.0%)より有意に高かった。本研究の結果から,眼瞼開存の発症は複雑な遺伝学性であることが示唆されたと同時に胎仔期でのコルチゾン投与は眼瞼開存と口蓋裂の合併発症を引き起こす強い要因であった。また,A/WySnマウスは眼瞼開存のモデルマウスとして有用であり,A/WySnマウスと眼瞼開存がまったく認められなかったC3H/Heマウスとの遺伝学的交配により眼瞼開存単独発症および眼瞼開存と口蓋裂の合併発症の原因遺伝子の解明が可能となった。
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© 一般社団法人 日本小児歯科学会
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