日本体育学会大会予稿集
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第67回(2016)
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ランチョンセミナー③
スマートフォンを用いた軽度認知障害のスクリーニングについて
クラウドサーバーを利用する新たなシステムの導入
三島 隆章
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p. 29

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抄録

 認知症を発症する前段階である軽度認知障害(mild cognitive impairment; MCI)とは、Petersenによって提唱された疾患であり、1)認知機能は正常とはいえないが、認知症の診断基準も満たさない、2)本人または情報提供者から認知機能低下の訴えがある、3)複雑な日常生活動作の障害は最小限にとどまり、基本的な日常生活機能は正常であるといった状態にあることをいう。MCIは重症まで進行していなければ可逆的であることから、認知症患者の増加を抑制するためには、MCIの早期発見が重要となる。MCIは記憶障害の有無と他の認知機能(言語、遂行機能、注意、視空間認知など)の障害の有無によって4つのサブタイプに分類されることから、MCIをスクリーニングするためには記憶障害の有無および認知機能を調べる方法がある。近年、MCIをスクリーニングする方法について、運動機能の側面からのアプローチの有効性について報告されている。機能的移動能力を示すTimed up and go testを、加速度計を用いて動作分析を行った結果、MCI群は歩行(ステップ)の規則性が低い、イスから立ち上るときの上体の動きが小さい、方向転換の速度が遅い、方向転換から歩き始めるまで時間を要するといった特徴を有することが明らかにされている。直線歩行よりも方向転換の方が神経系の関与が高いことから、加速度計を用いてTimed up and go testを詳細に分析することで、認知機能の低下と関連性のある運動機能の低下を検出できる可能性がある。したがって、MCIをスクリーニングする手段として、認知機能からのアプローチ、運動機能からのアプローチがあり、2つのアプローチを合わせると、精度高くMCIであるか否かを判別することができる可能性がある。

 多機能携帯電話であるスマートフォンは、日本において2人に1人が持つまで普及している。スマートフォンには加速度センサーが内蔵されているため、スマートフォンをベルト等で身体に固定した状態でTimed up and go testを行うと、加速度計を用いた動作分析と同じ分析が可能になる。また、スマートフォンはコンピューター及び通信機器としての機能も有することから、すでに数多く開発されているICT機器を用いた認知機能テストも、スマートフォンを用いて実施することができる。またクラウドサーバーを利用することで一斉に測定をすることができ、且つ測定データの一元管理をすることも可能となる。したがって、スマートフォンを使用すれば、運動機能、認知機能を時と場所を選ばずに測定することが可能となり、将来的にはクラウドサーバーで保管されたデータをビッグデータとして活用することでテスト結果の分析精度を高めることができることから、MCIを早期に発見することができる可能性がある。そこで今回は、スマートフォンを用いた認知機能および運動機能の測定、すなわちMCIのスクリーニングの可能性について、中高齢者を対象に実施した結果について報告する。

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© 2016 一般社団法人 日本体育学会
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