日本体育学会大会予稿集
Online ISSN : 2424-1946
ISSN-L : 2424-1946
第67回(2016)
選択された号の論文の881件中1~50を表示しています
学会本部企画
基調講演
  • Angela Melo
    p. 6
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     In 1976, due to the educational and ethical dimensions of sport, as well as its multi-disciplinary nature, Member States entrusted the UN Educational, Scientific and Cultural Organization (UNESCO) with sport policy development.

     Indeed, at that time sport emerged as an international policy issue as a result of the boycott of South African Springboks' rugby team (1976-79). Nevertheless, it was shown that sport could be used as a positive policy tool - with ‘ping-pong’ diplomacy (1972). In this context, UNESCO responded by convening the first International Conference of Ministers and Senior Officials Responsible for Physical Education and Sport (MINEPS I).

     This Conference played a leading role in the development of the International Charter of Physical Education and Sport (1978), adopted by UNESCO General Conference. This Charter established most notably the practice of physical education and sport as a fundamental right for all, in doing so, placing emphasis on equality and grassroots sport. In this respect, cooperation between stakeholders was encouraged. Nonetheless, the need to protect the integrity of sport from doping, violence, manipulation and corruption had already become an important subject, as evidenced by the length of article 8 of the Charter.

     Since then, UNESCO has continued to strengthen its fight for the preservation of sport integrity. In this respect, the International Charter was amended in 1991 to highlight the health benefits of physical activity, and to promote the inclusion of persons with disabilities, the protection of children, and the role of sport for development and peace.

     The “Declaration of Berlin”, adopted in May 2013 by MINEPS V, invited “the Director-General of UNESCO to consider a revision of UNESCO's International Charter to reflect (their) findings and recommendations” in the three areas of this text: “Access to Sport as a Fundamental Right for All”; “Promoting Investment in Sport and Physical Education Programmes”; and “Preserving the Integrity of Sport”.

     In 2015, a new version of this text was adopted by the General Conference of UNESCO's Member States. In twelve brief articles, the revised Charter serves as a universal reference on the ethical and quality standards of physical education, physical activity and sport. It also represents a renewed commitment of the international sport community to actively promote sport as a catalyst for peace and development.

     The revised version of the Charter provides a framework that orients the stakeholders on certain themes: the recognition of physical education and physical activity as a public property, as well as their role in promoting gender equality, social inclusion, non-discrimination and sustained dialogue in our societies. The new Charter also supports broader policies in favour of grassroots sport, including the concepts of inclusivity, safety and sustainability, as well as the notion of 《civil society》 in accordance with the Sustainable Development Goals, as defined in the UN 2030 Agenda — Transforming Our World.

     Finally, the economic dimension has not been overlooked because it integrates the different Charter elements.

     This new global vision constitutes an essential step in the recognition of the role of sport in society assists the Member States to adopt a global approach in their sports policies and places UNESCO at the forefront of the promotion of values such as sustainable development and peace.

(日本体育学会&日本学術会議健康・生活科学委員会健康・スポーツ科学分科会 合同シンポジウム)
合同シンポジウム
  • 田原 淳子, 寒川 恒夫, Angela Melo
    p. 7_1
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     1978年に採択されたユネスコの「体育・スポーツ国際憲章」は、スポーツを行うことが人間の権利であることを最初に謳った国際憲章であり、長年にわたり世界各国で体育・スポーツのあるべき姿を示す指針として活用されてきた。その後、ドーピング問題にかかわって1991年に一部改訂が行われたが、このほど近年の国際的な動向を踏まえて全面的に改定され、2015年11月17日に「体育・身体活動・スポーツ国際憲章」としてユネスコ総会で採択された。

     基調講演では、ユネスコの同憲章担当部代表であるアンジェラ・メロ氏(倫理・若者・スポーツ部長)を講師に迎え、旧憲章改定の背景と意義について講演をしていただく。続くシンポジウムでは、新たな国際水準となった憲章に照らして、日本における現況と課題、展望について、森敏生氏には学校体育の立場から、宮地元彦氏には身体活動の立場から、菊幸一氏にはスポーツの立場から、今泉柔剛氏には担当行政の立場から報告をしていただく。2020年東京オリンピック・パラリンピックを数年後に控え、スポーツに関わる取り組みが活発化する中、新憲章の理念を十分に理解するとともに、日本の体育・スポーツの課題と展望について広く情報を共有し議論する機会としたい。

  • 森 敏生
    p. 7_2
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     78国際憲章から2015国際憲章への展開を念頭におきつつ、2015国際憲章が日本の学校体育にいかなる意義や可能性をもつか、その展望について論じたい。

     78国際憲章とも呼応してわが国で体育・スポーツを権利と捉える論議は70年代に集中的になされた。スポーツ権論は学校体育の目的・内容論の革新的提案につながったが、70年代以降の生涯スポーツを志向する指導要領は愛好的態度に傾斜した「楽しい体育」路線を取った。78国際憲章が学校体育の学習内容に位置づくには現行指導要領(2008)を待たなければならなかった。

     2015国際憲章は今日の学校体育をめぐる問題の解決方向を示唆する理念・理想を内在させている。子どもの貧困率の高さが社会問題となるなか子どもの身体活動能力の格差に対して、すべての子どもに対する質の高い学校体育の保障が切実な課題となっている。また部活指導における暴力や「指導死」、あるいは体育行事における組体操の安全性をめぐる問題など、基本的人権を視座とした学校体育の改革は不可避である。さらに2020東京五輪をひかえ五輪教育のあり方も問われる。こうした諸問題・諸課題の解決にむけ、わが国の学校体育改革に対して2015国際憲章がもつ意義や可能性、その展望を論じてみたい。

  • 宮地 元彦
    p. 8_1
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     このほど近年の国際的な動向を踏まえ、2015年11月17日に「体育・身体活動・スポーツ国際憲章」がユネスコ総会で採択された。日本学術会議健康スポーツ分科会では、田原淳子連携会員を中心として新憲章を邦訳し、新憲章の精神の普及・啓発に取り組んでいる。

     新憲章の一つの目玉として、「身体活動」という概念が含まれた点が挙げられる。身体活動:physical activityとは、世界保健機関(WHO)や米国疾病管理センターの定義に基づくと、エネルギー消費量の増大を伴う“ 全て”の身体を動かす行為とされている。公衆衛生の分野ではスポーツや体育は身体活動の一部であり、その他に活動的な遊び、家事や労働や移動に伴う活動(生活活動)などを含んでいる。多くの疫学研究が、身体活動不足:physical inactivityは死亡ならびに非感染性疾患発症の高いリスクと関連することを示しており、国連の示す「健康を享受する権利」を擁護する上で身体活動を奨励することが望まれる。

     新憲章では身体活動の定義が明確に宣言されていないが、文脈からWHOなどが定める定義と若干異なり、スポーツや体育の概念に“含まれない”健康づくりのための運動、こどもの遊び、家事や労働や移動に伴う活動(生活活動)を指すものと推察する。新憲章を有効に教育の現場で活用するためには、新憲章の身体活動の定義を明確にする必要がある。

     本シンポジウムにおける、筆者の役割は、我が国の身体活動の現状と、エビデンスに基づく身体活動の公衆衛生上の課題について紹介することである。ディスカッションでは、新憲章に身体活動の概念が盛り込まれた意義を検討するとともに、我が国における新憲章活用の展望について討論したい。

  • 菊 幸一
    p. 8_2
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     日本のスポーツは、近代体育の中で発展してきた。したがって、現状においても体育(教育)として発展してきた功罪と課題を背負っている。ヨーロッパ(イギリス)産まれの近代スポーツに対する解釈では、1968年の「スポーツ宣言(Declaration on Sport)」、1975年のヨーロッパ「みんなのスポーツ憲章(Charter of Sport for All)」に示されるように、スポーツをプレイとして規定した上で、その行使は人間の基本的権利であるとし、その社会的効果、効用を記した。これに対して、日本のように公教育の必要性から体育の中でスポーツを扱うと、制度的には義務としてのスポーツが立ち現われる。また、教育制度(学校)や経済制度(企業)に長らく保護されたアマチュア・スポーツの歴史は、その範囲を超えた社会の中での自由なスポーツ需要の高まりや質的変化に鈍感にならざるをえないような影響を与えている。昨今の日本スポーツ界における暴力や賭博等の倫理的・社会的な諸問題が生まれる歴史的、構造的な背景を探る必要がある。今回のユネスコ憲章を実現していく展望への切り口としては、2011年に制定された「スポーツ宣言日本~21世紀におけるスポーツの使命~」(日本体育協会・日本オリンピック委員会)における「スポーツは、自発的な運動の楽しみを基調とする人類共通の文化」であり、「この文化的特性が十分に尊重されるとき、個人的にも社会的にもその豊かな意義と価値を望むことができる」という文言に注目しておきたい。

  • 今泉 柔剛
    p. 9
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     2011年のスポーツ基本法の公布、2012年のスポーツ基本計画の策定及び時を同じくして行われた2020年東京オリ・パラ大会の招致活動は、それまで国内中心だった我が国のスポーツ政策をして国際スポーツ界の動向に目を向けることの重要性を再認識させた。その中、2013 年に開催されたMINEPS・5のベルリン宣言及び2015年のユネスコの「体育・身体活動・スポーツ国際憲章」の改訂は、国際スポーツ界に目を転じた我が国のスポーツ政策に大きなインパクトを与えた。特に、「スポーツ・フォー・オール」、「スポーツを通じた平和と開発」及び「スポーツのインテグリティの保護」に関する事項は、今後のスポーツ基本計画の改訂作業に大きな影響を及ぼすものである。我が国は、現在、人口減少及び少子高齢化社会が進む中、健康長寿社会の実現、社会的連帯の維持、多様で主体的な人材育成、成熟社会における経済の活性化及び地方の活性化など、世界に先立って多くの諸課題を抱えている。その中、スポーツを通じてこれらの諸課題の解決へ貢献していこうとするスポーツ庁の取組は、今後の国際社会に対して提示できる1つのモデル事例となり得ると考えている。

(政策検討・諮問委員会 企画シンポジウム)
企画シンポジウム
  • 田畑 泉
    p. 10_1
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     体育学は、問題志向型の設計科学であり、実践科学・政策科学としての社会貢献を強く期待される学際分野である。他方、スポーツ庁の発足により、体育・スポーツ政策及び実践への公的投資に対する説明責任が著しく高まり、政策・実践の正当性を基礎づける体育学研究の実践的有用性が期待されている。しかし、わが国のスポーツ政策立案過程は未だに、エビデンスのグレーディング・スケール(格付け)において最下位に位置づけられる「専門家の意見」に多くは依存している。また、スポーツ指導における体罰問題に象徴されるように、科学的根拠を無視した経験主義的実践が払拭されていない。よって、今後、スポーツ政策とスポーツ実践の質を高め、「エビデンスに基づくスポーツ政策と実践」を推進させていくために学術界および政策当局が取り組むべき課題は多い。

     他方で、体育学が対象とする人間とその全人的営みは、数値に変換して検証された普遍的因果法則によって説明され、高度の再現性をもって予測しうる超時代的・超社会的現象という側面だけでなく、一回限りの個性的・特殊的な経験としてしか記述され得ない価値や規範を含みこんだ多様な歴史的・社会的現実でもある。こうした特徴を有する体育学によって社会に還元されるエビデンスとは、実験や量的データの解析によってのみでは獲得不可能な実践知であると考えられる。よって、改めてエビデンスとは何か、を問い直す作業が体育学研究者には今求められているように思われる。

     そこで、本シンポジウムでは、今後のスポーツ実践やスポーツ政策に求められるエビデンスとは何か、科学的知見は現在どのようにスポーツ実践・政策に活用されているのか、学術研究の成果がエビデンスとしてより一層活用されるために体育学研究は、その産出・仲介・活用方法においてどのような課題を克服しなければならないのか等、について専門分野の違いを超えて議論する。

  • 岩崎 久美子
    p. 10_2
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     教育学は、人を教え育てるという人類の普遍的営みで生じる現象を扱う。そのため、その研究領域は広範であり、研究手法においても人格陶冶を問う哲学、教授法を扱う方法学、階層や社会病理等を扱う社会学、実験やデータに基づき実証性を志向する心理学といった多様なアプローチがなされる。このような複雑な人を扱う教育学にあって、「エビデンス」という言葉は、「人」ではなく、「ヒト」を対象とする場合に用いられることが期待される言葉である。つまり、生理学的な観点から「ヒト集団」に対し教育効果を探索する際に、研究成果の客観性や妥当性を希求する象徴的な言葉として用いられるのである。

     また、「エビデンス」は、研究成果を数字として明示するため、異なる集団との関係性において使用可能な共通言語である。たとえば、他分野の研究者、特に生理学・医学等の研究者との共同研究、あるいは行政担当者や学校教員等と政策や実践を議論する際、精緻な研究計画のもと産出されたデータは、客観的・絶対的事実として、研究成果を語る時に有効である。

     本シンポジウムでは、このような「エビデンス」の含意を整理し、その光と影について、あらためて考えてみたい。

  • 澤田 亨
    p. 11_1
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     疫学とは、ヒト集団を対象に「どちらが、どのくらい良いか」を明らかにするための研究手法を持った学問である。そして、ヒト集団に関する「どちらが、どのくらい良いか」に関するエビデンス(科学的根拠)を与える学問である。ヒト集団における「どちらが、どのくらい良いか」を研究する手法は「疫学的研究手法」と呼ばれる。この手法は、ヒト集団の健康を守っている医学の世界を中心に発達した手法である。そして現在、医学の世界におけるEBM(Evidence Based Medicine:根拠に基づく医学)という考えの普及に伴って疫学が再認識されるとともに、ヒト集団における課題を取り扱う医学以外の分野においても疫学的研究手法が普及しつつある。

     本シンポジウムでは疫学や疫学的研究手法の概要や具体例を紹介させていただくとともに、社会貢献を強く期待されている体育学に疫学的研究手法がどのように貢献できるかについて、会場のみなさまと一緒に考えてみたい。

  • 福永 哲夫
    p. 11_2
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     スポーツ指導や運動処方は、一般に平均的データをベースとするエビデンスに基づき実施される。しかし、スポーツ活動は、同じプログラムが処方されたとしても、その効果の表れに個人の能力や資質、あるいは生活習慣ならびに外的な環境(スポーツ・トレーニングの実施環境、指導条件など)に応じた大きな違いを生む。この事は、スポーツが身体に与える効果の現れ方には、数多くの具体例が存在することを意味する。換言すれば、平均的なデータに基づくスポーツ指導や運動処方によって生じる効果の個人差に注目することが、「運動嫌い」を少なくし、「スポーツタレント」を発掘する手がかりを見いだすことにつながると考えられる。

     医学界では臨床例を提示した研究論文が数多く存在し、新しい医学の進歩に大いに貢献している。スポーツの研究領域においても、競技スポーツや健康スポーツあるいは教養スポーツの現場における数多くの実践例をエビデンスとして取り扱う研究領域(ここでは「スポーツパフォーマンス研究」と称する)の必要性を強く感じる。

     スポーツに関する指導者、コーチ、実践者が自分の体験している様々な活動とその成果を公表し、スポーツパフォーマンス研究のエビデンスが集積され体系化されれば、既存の自然科学的あるいは人文社会学的研究の成果と有機的に関連し合うことができるようになる。そして、健康つくりや日常生活における「動ける身体の育成」に真に役立つとともに、競技力の向上に大きく寄与するスポーツ科学としての役割を果たすことが可能になると考えられる。

  • 日比 謙一郎
    p. 11_3
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     昨年10月に、関係省庁や関係団体の中核となるスポーツ庁が創設され、国際競技力の向上はもとより、スポーツを通じた健康増進、地域や経済の活性化、国際貢献など、スポーツに関する施策を総合的・一体的に推進することとなった。

     2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会等の大規模な国際競技大会の日本開催を契機として、子供から高齢者までの誰もがスポーツに親しむ社会を目指すとともに、スポーツが持つ多面的な価値を具体化し、国内外に広げていくことが求められている。

     このような政策を進めるにあたり、例えば、スポーツを通じた健康寿命の延伸により医療費の削減にも資することや、スポーツを資源としたまちおこし等により経済波及効果が生まれることなどについて、具体的なエビデンスに基づき国民への理解を求めることが必要不可欠となっている。

     本シンポジウムでは、スポーツ庁が重点的に取り組む政策について紹介するとともに、これらの前提として学会の皆様に期待するエビデンス・研究成果について考察したい。

共催企画
一般公開特別基調講演①
  • Dorothee Alfermann
    p. 12
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     Corporal punishment of children has a long history in many countries and is typically regarded as a mean to teach children discipline and obedience to authorities. Since World War II a growing number of countries have banned corporal punishment. In Germany, laws prohibiting it in schools were released in Eastern Germany in 1949, in Western Germany in 1973. But only since the year 2000, corporal punishment in the family is also banned. An evaluation of the effects of this ban by Bussmann (2004) shows a significant decrease in societal acceptance and in occurrence of physical and psychological punishment behaviors of parents. Nevertheless, the picture is less clear when looking at a causal relationship between corporal punishment ban and occurrence of family violence in various countries (Zolozot & Puzia, 2010).

     With regard to sport education and coaching, the ban of corporal punishment seems widely accepted (with possibly a number of unknown cases). Instead, since the beginning of this millennium, there is growing concern about sexual abuse in educational settings, including the sport context. Apart from sexual abuse being legally prohibited, it has been a thematic issue in several initiatives of the German Sports Confederation and its member organizations in order to prevent sexual abuse in sports clubs and coaching groups. These initiatives include a code of conduct, to be signed by coaches and other sport educators, and several individual and organizational preventive measures.

     Bussmann, K.-D. (2004). Evaluating the subtle impact of a ban on corporal punishment of children in Germany. Child Abuse Review, 13, 292-311.

     Zolozot, A.J. & Puzia, M. E. (2010). Bans against corporal punishment: A systematic review of the laws, changes in attitudes and behaviours. Child Abuse Review, 19, 229-247.

一般公開特別基調講演②
(学会本部・大会組織委員会 共催)
一般公開シンポジウム
  • 小林 勝法, 土屋 裕睦
    p. 14_1
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     日本のスポーツ界を揺るがした体罰・暴力事件(高校運動部と柔道日本代表)から3年半がたち、この間、国や各都道府県教育委員会、スポーツ関係諸団体等が体罰・暴力の根絶に取り組んできた。事件の風化を防ぎ、スポーツにおける体罰・暴力の根絶を一層推進するために、改めて事件から何を学ぶべきかを考えたい。そして、現在、国とスポーツ界が取り組んでいるコーチング推進イノベーション事業や世界的動向、実践事例から、今後の課題について議論したい。

     まず、『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実 そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)の著者であり、週刊誌『AERA』やネットニュースで、スポーツや教育関係について執筆されている島沢優子さんから、当事件をもとに、運動部に関わる関係者(指導者や保護者)の信念と行動に焦点を当てて、指導者育成について提言いただく。

     そして、コーチ育成に関する国際的動向について、国際コーチングエクセレンス評議会科学委員会委員を務めている伊藤雅充・日本体育大学准教授から紹介していただく。

     最後に、体罰によらない指導の好事例として、教育界のみならずビジネス界からも注目されているボトムアップ理論による運動部指導について、畑喜美夫・広島県立安芸南高等学校教諭からをご紹介いただく。

  • 島沢 優子
    p. 14_2
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     桜宮高校バスケット部体罰事件から3年半。各競技において「体罰NG」の意識は共有されつつあるが、体罰発覚で処分される教員は後を絶たず、中高の強豪校や少年団における指導暴力の噂は尽きない。そのうえ新たな問題として「手で叩けないから口で殴る」言葉の暴力や理不尽な指導が増幅している。

     指導者はなぜ意識改革できないのか。改革を阻む最大の壁は「三層構造」である。

     <第一層=主役が指導者> 強い承認欲求をコントロールできないため「自分が勝たせなくては・教えなくては・頑張らせなくては」という「古い立ち位置」から異動できない。

     <第二層=後押しする保護者・選手・社会の存在> 本来なら監視役になるべき保護者や選手自身が意識改革できない。進学等に指導者が影響力をもつ風潮が変わらない。

     <第三層=理想とする指導の未確立・未拡散> 暴力・暴言・理不尽なマネージメントに代る具体的な指導法や哲学について現場での深い議論や試行錯誤が不足し、上からの抽象的で一方的な伝達に終始。

  • 伊藤 雅充
    p. 15_1
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     最近のスポーツ選手やコーチの問題行動は、スポーツのインテグリティを貶め、スポーツの価値を失墜させてしまいかねない。我々がより良いスポーツ文化を後世に残していくためには、グッドコーチの育成が欠くことのできない喫緊の課題である。日本に限らず、より良いコーチングの実現は全世界的に求められており、最近ではコーチのコーチを育成する取り組みが世界各地で加速化し始めている。国際コーチングエクセレンス評議会は2013年に「国際スポーツコーチング枠組み」、2014年には「国際コーチディベロッパー枠組み」を発表した。そして現在は「国際コーチング学位基準」の策定を行っている。日本体育大学はスポーツ庁委託事業「スポーツアカデミー形成支援事業」としてNSSU Coach Developer Academy を運営し、様々な国や団体のコーチディベロッパーの育成とそのネットワーク作りを行っている。シンポジウムでは、最近のコーチ育成に関する国際的動向について紹介し、議論を深めたいと考えている。

  • 畑 喜美夫
    p. 15_2
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     私が発信しているボトムアップ理論(下意上達)とは、自ら考えて動き出すサポートに重点を置き、主体的な学び(アクティブラーニング)、常に考え工夫して物事をやり遂げ全体をまとめていくことを大切に、「個・組織」創りをしている。運動部活動でただ単にスポーツをやっているだけではチームワーク、リーダーシップ、社会性、人間力は身につかない。スポーツと日常の双方を繋げて両方同時に成長させていくことが大切である。そこに「つなげる力」があり、指導者がその視点を持ち言葉で説明できなければいけない。

     そのために、私の組織創りの「ミッション」は人間力の向上(生きる力)、「ビジョン」は素敵なチーム創り・グッドゲームの追求。大きな三本柱として【選手育成の3本柱(凡事徹底で挨拶・返事・後片付け)】・【組織構築の3本柱(量より質・信頼と絆・自主自立の精神)】・全員リーダー制を掲げ、人間性、基本的な生活習慣の土台の上にすべてが成り立っている、そして技術を操るのは人間性であるという大前提に立ち返ること(技術は人なり)を大切にしている。

大会組織委員会企画
基調講演
  • 菊 幸一
    p. 16
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     次世代に繋ぐスポーツ文化とは何であろうか。スポーツは、なぜ人類普遍の文化たりえるのであろうか。スポーツは、時間の経過と当該社会における文化的価値という二重のエネルギーに折り合いをつけてきた。なぜなら、それは人類にとって普遍的存在であると言いながら、基本的には自由な性格を有しているからである。むしろ近代以前のスポーツは、「不法な遊び」として為政者から禁止・弾圧こそされ、奨励されることはほとんどなかった。しかし、ホモ・ルーデンスとしての人間は、今日のわれわれにスポーツという文化を繋いでくれたのである。

     さて、近代スポーツという文化は極めて「面倒くさい」。人類以外の宇宙人は、わざわざ自由な手や腕を使わないでプレイする人類を見て驚愕し、あきれ返るのではないか。身体の自由性を制限してプレイすることが「楽しい」ことを発見した人類は、そのことを基調として現代スポーツが福祉豊かな地域生活を創造し、環境と共生の時代を生きるライフスタイルを確立し、平和と友好に満ちた世界を構築することを夢見る。それを夢に終わらせないために、体育学は次世代にどのような研究成果を残すべきかが、鋭く問われているのではないか。

大会組織委員会企画シンポジウム
  • 伊藤 章
    p. 17_1
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     2011年「スポーツを通じてすべての人々が幸福で豊かな生活を営むことができる社会を目指す」という趣旨の「スポーツ基本法」が国家戦略として公布された。機を同じくして、日本体育協会は「スポーツの力を、主体的かつ健全に活用することは、スポーツに携わる人々の新しい責務である」とした「スポーツ宣言日本」を示した。それから5年が過ぎた今、東京オリンピック・パラリンピックに向けた種々の活動は日本社会を揺り動かしている。代表選手の選考や金メダル獲得数の算段、メイン会場の設計やエンブレムの設定コンペなど、スポーツに関する競争的・経済的な出来事ばかりが人々の関心の的となっている。

     オリンピック憲章では、オリンピズムは普遍的な倫理規範を尊重し、人間の尊厳保持に重きを置く平和な社会を奨励することを目指し、スポーツを人類の調和のとれた発展に役立てるとしている。しかし、今オリンピックをはじめとするスポーツ活動が“ひと・社会”の平和的な発展にどれほど貢献できているのか疑問もある。

     日本体育学会の定款では、体育学と我が国の学術の発展を目的とし、関連する事業を行うとある。本シンポジウムでは、スポーツが“ひと・社会”の平和的な発展に果たすことができる役割と方法論を確認し、2020年の東京オリンピック・パラリンピックとその後に向けて日本体育学会が果たすべき社会的な責務を提案しようとする。

  • 井手 裕彦
    p. 17_2
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     2020年東京五輪・パラリンピックの成否の鍵は、むしろ、パラリンピックにあるという声が政府にある。私は2000年シドニー大会以来の五輪・パラリンピック報道に担当デスクや運動部長などとして関わり、2007年からは公益財団法人日本障がい者スポーツ協会の評議員を務めてきた。その立場から見れば、核心をついていると言っていい。

     東京は史上初めて夏季パラリンピックを2度開催する都市になる。ほとんど行き着くところまで成熟し、不祥事が後を絶たない五輪に比べ、パラリンピックは、人間の可能性を追求するスポーツの力や、目指すべき共生社会を考える機会になる。

     リオ・イヤーに入り、選手を巡る環境は激変している。メディアへの露出や国の助成、スポンサーの支援が急激に増え、隔世の感がある。ただ、光が当たっているのは、視覚的にわかりやすい競技のトップ選手だけで、パラリンピック以外の聴覚、知的、精神障害者らの競技には支援は届いていない。学校や地域で障害のある子供や大人の誰もがスポーツに参加するためにも、支える人材や施設のバリアフリーが足りない。

     東京パラリンピックが残すレガシー(遺産)はどうあるべきか。今後4年間で進むべき道を問題提起したい。

  • 原田 宗彦
    p. 18_1
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     本シンポジウムのテーマである<スポーツが“ひと・社会”の平和的な発展に果たすことができる役割と方法論>には、多様なアプローチが存在するが、スポーツ医科学から舞踊教育、そしてスポーツ哲学まで、幅広い研究者を擁する学際的な日本体育学会は、学際的な研究を通して、多くの社会課題の解決に向けた具体的な解決策(ソリューション)の提供が可能である。それゆえ、筆者の専門領域であるスポーツマネジメントにおいても、基礎研究から応用研究、そして実践的な研究成果としての政策提言まで、社会の動きを正しく先導する科学的知見の蓄積が求められている。

     少子高齢化が進み、地域活力が減衰する中、スポーツによる地域振興は急務の課題である。その中でも特に地域スポーツの振興は、地域住民の健康づくりやスポーツ参加機会の増大において重要な政策課題であり、今後ポスト2020に向けた具体的方策が必要とされる。1995年に始まった「総合型地域スポーツクラブ育成モデル事業」は、全国に約3500か所のクラブを創設するなど制度的普及を成功させたものの、補助金ありきの政策は、総合型クラブ事業の自走化を妨げる要因にもなり、現在も約半数のクラブが自己財源率50%という状態が続いている。新しい地域スポーツ振興を担う中核は、同好の士がスポーツを楽しむ「共同体」の集合体ではなく、個々の共同体を支援することができる「機能体」としての事業経営体である。補助金への依存体質から脱却した地域スポーツの<エコシステム>をどう構築するか、大きなパラダイム転換が求められている。

  • 山田 明仁
    p. 18_2
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     1995年1月に阪神・淡路で発生した未曾有の大震災。当時私は、神戸市北区で震災を経験しました。その2年後、私たちは、「命の尊さ」「健康であることの大切さ」また、「人と人との繋がりや絆」を強く感じ、震災からの復興をスポーツの力で元気で明るいまちづくりができないかと議論が始まりました。神戸のスポーツ関係者と神戸市が中心となり日本のスポーツ界を担う様々な有識者のトップクラスの方々も協力を惜しまず神戸に集結しました。そして、復興のシンボルの一つとして神戸アスリートタウン構想が完成し、その実現のために市民が中心となり活動が始まりました。スポーツ振興基本計画(2000年)、特定非営利活動促進法(1999年)の制定も本構想の後押しになり、兵庫県で総合型地域スポーツクラブが小学校区にすべて設立されたのもこの影響でした。このようにスポーツの力は、人々を勇気づけまちを明るくします。

     日本は、今、超少子高齢化社会が目前に迫り、医療費や介護費といった社会保障費の増大や健康不安、将来不安や経済格差など多くの社会課題を抱えています。私たちスポーツ関係者は、多様なスポーツの力を認識し、課題解決のために一緒に考え行動しましょう。

学際的シンポジウムⅠ
  • 植木 章三, 冨山 浩三
    p. 19_1
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     平成24(2012)年に「スポーツ基本計画」が策定され、「スポーツを通じてすべての人々が幸福で豊かな生活を営むことができる社会」をめざして「年齢や性別、障害等を問わず、広く人々が、関心、適性等に応じてスポーツに参画することができるスポーツ環境を整備」することが掲げられた。また、平成23(2011)年には、日本体育協会と日本オリンピック委員会より「スポーツ宣言日本~二十一世紀におけるスポーツの使命~」が発表され、スポーツの二十一世紀的価値とは、「素朴な運動の喜びを公正に分かち合い感動を共有することであり、身体的諸能力を洗練することであり、自らの尊厳を相手の尊重に委ねる相互尊敬である」としている。それにより、われわれが中長期的に取り組むべき課題が示されることになったが、そのひとつはオリンピック・パラリンピックムーブメントの融合(インクルージョン)であろう。

     そこで本シンポジウムでは、この「融合(インクルージョン)」を進めていくための課題について、クーベルタン卿や嘉納治五郎先生、グッドマン博士の思想を取り上げて議論するために3名の先生にご登壇いただく。真田久先生には、嘉納先生の視点から多様性を認め合う重要性について、小倉和夫先生には、パラリンピックの理念の変遷と今後の課題について、そして藤田紀昭先生には、オリンピック・ムーブメントとパラリンピック・ムーブメント融合の可能性と課題についてそれぞれお話いただき、オリンピック・パラリンピックムーブメントの融合(インクルージョン)の意義と方向性を示すことを目的とした。

  • 真田 久
    p. 19_2
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     今日のオリンピック・ムーブメント、パラリンピック・ムーブメントは、多様な価値を認め合い、融合・共生(インクルージョン)を図る、という潮流になっている。多様な価値を認めていくことは、必然的にそのムーブメントの質と量を変容させる。ネガティブ面では、競技大会の肥大化につながる。多様な価値を認めつつ、肥大化による経費の増加や質の低下をいかに防ぐということが今後のムーブメントの大きな課題となる。

     ユーロセントリズムの強かったIOCで、多様性を主張したIOC委員は嘉納治五郎であった。1940年のオリンピックを東京で開催する理由として、オリンピックを欧米の文化にとどめるのではなく、真に世界の文化にしたいのなら、アジアで行うべきであると彼は主張した。嘉納は、女性の講道館入門を1893年に許可し、また留学生にも体育・スポーツを経験させるなど、早くから多様性を認めていった。また東京高等師範学校附属小学校の校長時代に特殊学級を設置し、体育に力を入れ、障害があっても社会の中で自立できる人間の形成を目指した。嘉納が多様性を認めていった背景には、実践知と科学的熟慮の裏付けがあった。この点に、ムーブメントしての多様性やインクルージョンを考えていくヒントを見出したい。

  • 小倉 和夫
    p. 20_1
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     パラリンピックの理念を、パラリンピックの発展の歴史的過程の中で捉えると、少なくとも(相互にある程度の重複はあるが)4つの次元、すなわち、(1)発祥の政治的経緯ないし背景、(2)障害に関連する医学的進歩およびリハビリにおけるスポーツの位置づけ、(3)大掛かりなスポーツイベントとしてのパラリンピックの社会的意義、(4)スポーツ競技の娯楽化および効用化に対応した変化、に分けて考える必要がある。

     (1)については、戦争あるいは平和との関連、(2)については、医学や技術の発達が、障害者スポーツに与えた影響とその結果、(3)については、パラリンピックが社会全般における障害者政策に及ぼす影響、(4)については、スポーツ全般、とりわけオリンピック本体の「職業化」「商業化」がパラリンピックに及ぼしてきた影響、といった点が考察されねばならない。

     パラリンピックの歴史は、ある意味では、理念と現実との矛盾、目的と結果の乖離、あるいは異なる目的や理念の衝突の歴史であったともいえる。そして、そこに現在および将来のパラリンピックをめぐる課題が横たわっている。

  • 藤田 紀昭
    p. 20_2
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     オリンピック・ムーブメントとパラリンピック・ムーブメントには共通する部分は多々ある。例えば、オリンピック憲章の根本原則にある「スポーツをすることは人権の一つ、友情、連帯、フェアプレーの精神に基づく相互理解、いかなる差別も受けない」こと、「人種、宗教、政治、性、その他の理由による国または差別に反対」することなどは、パラリンピックが目指すコアバリューの一つである、<Equality>すなわち、「スポーツを通じてステレオタイプ化した意識に挑み、態度を変容させる、そして社会的なバリアや障害者に対する差別を打ち破ることで共生社会の実現に寄与する」ということに通じるものといえる。

     しかしながら、IPCの歴史的意義や、IPCが目指す、「初心者からトップレベルの選手まですべての障害者がスポーツを通じて自己実現していくこと」が未だ十分には達成されていないことを勘案すると、拙速的にインクルージョンを考えるよりは、共通の価値を持ちつつも車の両輪としてムーブメントを展開することの方が得策である。発表時には実際にパラリンピックが、障害者や障害者スポーツに対する意識をポジティブにする力があることを示す調査結果を提示すると同時に単にパラリンピックを開催するだけではIPCの目的は達成できないことを示す。

学際的シンポジウムⅡ
  • 梅林 薫
    p. 21_1
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     文部科学省が作成したスポーツ基本法に関わるリーフレットの表紙には「スポーツの力で日本を元気に!」とある。そして基本法前文には「スポーツは、世界共通の人類の文化である」という言葉にはじまり、「スポーツは、心身の健全な発達、健康及び体力の保持増進、精神的な充足感の獲得、自律心その他の精神の涵養等のために」と続き、私たちが生涯にわたり心身ともに健康で文化的な生活を営む上で不可欠なものであると記述されている。スポーツが心と体に何らかの影響を及ぼすことはアスリートのみならず多くの人が実感している。スポーツ界では心技体という言葉もよく耳にする。昨年現役を引退した澤穂希は「心と体が一致してトップレベルで戦うことが難しいと感じてきたから」と引退理由を説明した。

     本シンポジウムは「こころとからだをつなぐスポーツ」と題して3人の演者から、最新のエビデンスを交えた基本から最先端の話題や、女子テニス界トップアスリートの知られざる心と体の習慣などのご紹介など、それぞれの切り口でご講演を頂く。今後、より一層スポーツの力で心も体も、多くの人を元気に、私たちが取り組んでいくべき課題のヒントになるような企画としたい。

  • 征矢 英昭
    p. 21_2
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     いかなるスポーツも、好きになって自ら練習を重ねること(アドヒレンス)が上達の鍵となる。アウトカムとなるパフォマンスは、少し上がるだけでも運動習熟(練習)に好循環をもたらし、更なる向上を後押しする。あのイチロー選手も、幼少期からバッティングセンターに通い、より速いボールをうまく打つというアウトカムベースの試行錯誤を幾度となく繰り返したことだろう。これには「高意志力:Will-power」と呼ばれ、前頭前野背外側部を基盤とした実行機能(注意、判断、計画立案などの認知機能)を高く保つ必要がある。この機能は子どもにさえ蔓延する運動不足、肥満、抑鬱で低下する一方、我々は、超低強度の運動でも10分間継続するだけで高まり、前向きな気分になれるかどうかが効果を左右すること、更に、持久力とも相関することを明らかにした(Neuroimage, 2014; 2015)。スポーツは導入次第では前頭葉への刺激を通じてWill-powerを引き出し、アクティブライフに転換させることで運動パフォマンスを高めるポテンシャルをもつ。これは学習やビジネスにも応用できる。本講では、運動で引き出すWill-powerの重要性について論じたい。

  • 野井 真吾
    p. 22_1
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     子どものからだと心・連絡会議が編集する『子どものからだと心白書2015』(ブックハウス・エイチディ)によると、東北教育科学研究会大会で「遠足で最後まで歩けない子がいる」との発言に対して、体力が低下したのか、根性がなくなったのか、それとも土踏まずの形成が遅くなったのか、ということが議論されたのは1960年のことであった。このことが教えてくれているように、戦後の日本で子どものからだや子どもの心が心配されはじめたのは、1960年代のことである。ただ当時は、一部の専門家による心配が大半であったといえよう。以来、半世紀。いまでは専門家でなくても子どもの“からだと心”の異変を心配するに至ってしまった。このようなことから、われわれの研究グループでは、子どもの“からだと心”に関する保育・教育現場や子育て現場の実感を蒐集、それを頼りに問題の事実を把握し、その問題を解決する研究活動に従事している。

     本報告では、心配されている子どもの“からだと心”の育ちに注目し、その現状とこの問題を解決するために“身体”活動に寄せられる期待をわれわれが手がけてきた研究の成果を踏まえて紹介してみたい。

  • 馬場 宏之
    p. 22_2
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     沢松奈生子選手は、曽祖父からのテニス一家として生まれる。祖父は、日本ランキングプレーヤーで名コーチ、両親はともにウィンブルドンで戦った経験のあるトップテニスプレーヤー。叔母は1975年ウィンブルドンダブルスに優勝された沢松和子さん。そのような環境の中でテニスを早くから始められ、父親の転勤に伴い、5才から10才までドイツで過ごし、テニスも現地の州ジュニア大会に優勝されるなどの活躍。帰国後、しばらくしての12才の頃から数年間、それまで指導されていた両親から私がテニスの指導に携わる。1988年、15才で全日本テニス選手権に初出場、初優勝という快挙を達成し、その後、海外に転戦、WTA世界最高14位までの道のりを歩む。沢松選手は、粘り強い精神力、ストロークの安定感、身体の柔軟性が強みで、日頃の練習の時から、精神的に集中すること、どんな体勢になっても安定してボールを打つことができる基本動作、怪我のしにくい柔軟性のある身体つくりの重要性を意識されてきた。トップへの道のりは、簡単なものではなく、「沢松家」というサラブレッドでありながら、そのプレッシャーも大変大きい中で、本人の地道な努力、そして色々なサポートが彼女をトップの座へ導いたものと思われる。そのあたりのことを述べたいと考えている。

学際的シンポジウムⅢ
  • 岩瀬 裕子
    p. 23_1
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     2020年の東京オリンピックを控えて、ポスト・オリンピックの議論も喧しい。未来を議論するに当たり、しばしば参照されるのが1964年の東京オリンピックと1998年の長野オリンピックである。だが、我々は2つのオリンピックについてどれだけ知悉しているのか。アジアで初めて開催された先の東京オリンピックでは、1961年に日本体育協会と五輪組織委員会の共催によりカール・ディームが招かれた。オリンピックの思想と意義について、他ならぬディームから学ぼうとしたのである。そのディームから多大な影響を受けたのが、大島謙吉であった。2 人に今さら安直な美辞麗句を捧げる必要はないが、今日の冷静な視点から見ても、彼らの思慮深い言動は学術的な検討に値する。

     日本で3度目のオリンピックは長野であった。低成長時代に開催されたという点では、長野オリンピック開催前後の様々な社会経験は、現在に通じるものがある。長野には様々な意味でポスト・オリンピックを意識させる建物や政治文化や人々の行動が残っている。

     本シンポジウムでは、2人の「哲人」と1つの隣接する地域社会に焦点を当てつつ、スポーツを文化として根づかせるために求められる論点や課題を探りたい。

  • 釜崎 太
    p. 23_2
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     スポーツを文化として根づかせる—このテーマに関して、参考にすべき模範的事例としてドイツのスポーツを思い浮かべるひとは少なくないだろう。例えば、地域スポーツの振興をひとつの理念として発足したJリーグ、あるいは人々の生活の充実に寄与することを目指した総合型地域スポーツクラブ。それらの模範像がドイツに求められてきたことは周知の通りである。スポーツクラブの地域性や公共性だけではなく、観客動員数世界一と言われるブンデスリーガの潜在的ニーズを掘り起こしているのも、地域のクラブである。では、私たち日本人は、ドイツの何に学ぶことができるのか。

     本報告では、第一に、大島鎌吉がみたであろうドイツの原風景について、カール・ディームとスポーツクラブとの関連から報告する。第二にしかし、大島が理想をみていた当時とは異なるディーム像をめぐって、ドイツ国内で大きな波紋を呼んでいる「ディーム論争(Diem-Debatte)」の現状(釜崎の分析ではなく)を伝える。第三に、その論争を超えて、日本にスポーツを文化として根づかせるために必要ないくつかの論点に言及したい。

  • 滝口 隆司
    p. 24_1
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     2014年11月から毎日新聞朝刊2面で「五輪の哲人 大島鎌吉物語」という企画記事を長期連載した。大島の略歴を紹介しよう。石川県出身で、1932年ロサンゼルス五輪の陸上三段跳びの銅メダリスト。関西大学から毎日新聞社に入り、戦時中はベルリン特派員を務めた。戦後は運動部記者として活躍する一方、陸上競技で後進の育成にあたり、東京五輪では選手強化対策本部長や日本選手団長の重責を担った。底辺スポーツの発展にも意欲を注ぎ、日本スポーツ少年団の創設に貢献。大阪体育大学の開学と同時に副学長となり、晩年はスポーツを通じた平和運動にも傾注した。

     大島の原点は従軍記者として戦場を駆け巡ったベルリン特派員時代の体験であり、ドイツのスポーツ関係者との交流にある。中でもドイツの「哲人」カール・ディームから受けた影響は大きい。オリンピック運動の真髄を追い求め、76年の生涯を経てたどり着いた結論は「オリンピックはフェアプレーを信じる地球上の人々の願いが集まる世界宗教」だった。しかし、現代のオリンピックは巨大イベントの道を突き進み、国家間の政治的争いやビジネスが持ち込まれ、不正も相次ぐ。こんな時代だからこそ、大島思想をもう一度見直したい。

  • 石坂 友司
    p. 24_2
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     2020年東京大会の開催に向けてレガシーの創出が声高に叫ばれているが、内実は不明瞭なままである。レガシーという言葉自体は、IOCのブランド戦略の一環で、ポジティブな意味合いを付与されたオリンピックの遺産を指すものとして近年使われてきた。

     加えて、東京でのオリンピック開催は景気回復のため、都市の再開発のため、スポーツ界の基盤整備のためなど、手段的意味合いで語られることが多い。また、メダルをいくつ獲得するのかといった強化戦略に焦点が当てられ、そもそもオリンピックをどのような理念で開催するのか、オリンピズムをどのように継承していくのかといった問いに開かれることはあまりない。そこには「文化としてのスポーツ」をどのように地域や都市、国に根づかせるのかといった文化論的な問いが欠けているのである。

     本報告では、演者が2008年から調査を行ってきた、開催から10年余りを経過した長野冬季オリンピックの事例の中から、カーリングにおける軽井沢町と隣接する御代田町の取り組み(レガシー)を紹介しながら、スポーツが文化として創造され、継承されるとはどのようなことを指すのかについて、具体的事例からアプローチしたい。

地域連携企画シンポジウム
  • 金山 千広
    p. 25_1
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     1964年にパラリンピック東京大会が開催されてから10年後の1974年、日本で初めて障がいのある方々を対象としたスポーツ施設が長居に開設されました。2016年現在、(公財)日本障がい者スポーツ協会には、日本を代表する26の障がい者優先スポーツ施設が加盟しています。その中で1980年代前半までに開設した7施設は、障がい者とその家族を主な利用対象とした障がい者専用型であり、1980年代後半以降に開設した19施設は、障がいの有無に関わらず誰もが安心して使用できる共用型になっています。さらに、2012年に発表されたスポーツ基本計画では、障がい者優先スポーツ施設のみならず、一般公共スポーツ施設における障がい者の利用促進を課題としています。日本における障がいのある方々のスポーツの機会は、障がい者専用型から共用型へ、さらに一般公共施設へと移行しています。

     今回のシンポジウムでは、障がい者スポーツの普及をリードしてきた大阪における実践を背景に、障がい者優先スポーツ施設の果たす今日的な役割の観点から、2020年の先にどのような展望が描けるのかを日本障がい者スポーツ協会が掲げる「活力ある共生社会」の実現に向けての取り組みを柱に議論したいと思います。

  • 高橋 明
    p. 25_2
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     1974年(昭和49年)5月2日、日本で最初の障害者スポーツセンターとして大阪市長居障がい者スポーツセンターが開館、今年で42周年を迎えた。

     日本で最初の仕事という想いの中で、同僚たちと取り組んできた歩みをあらためて振り返ってみると、障害のある人たちと一緒に汗をかき、共にトレーニングした思い出などさまざまな出来事や社会変化の中で、障害へのとらえ方や障害者のスポーツに対する想いなども変化している。

     この40年、長居障がい者スポーツセンターが果たした役割は大きく、日本の障害者スポーツ振興に、多大な影響を与えたと思っている。病院や福祉施設を中心に、リハビリテーションを主目的に、医療スポーツとして始まった障害者のスポーツが、スポーツセンターの出現で、在宅障害者のスポーツへと広がりを見せ、リハビリテーションから競技スポーツ、生涯スポーツへと幅広い選択肢の中で発展している。

     とくに最近は、障害のある人、ない人が一緒に利用できるスポーツ交流センターも各地に建設され、ちょっとした工夫で一緒に楽しむスポーツとしての広がりもみせ、アダプテッド(adapted)・スポーツ、インクルージョン(inclusion)スポーツとしての広がりもみせ発展をしている。

     しかし、物理的(ハード面)にはともかく、心理的・社会的側面(ソフト面)から見ると、必ずしも障害のある人にとって利用しやすい施設とは言えないのも現状としてあり、我が国の障害者スポーツ振興の課題であると考えている。

  • 三上 真二
    p. 26_1
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     1974年、全国に先駆けて大阪市長居障がい者スポーツセンターが設立されました。その12年後には東京都障害者総合スポーツセンターが、そして1997年には大阪市で2つ目となる大阪市舞洲障がい者スポーツセンターが設立されました。

     私自身、偶然ですが、東京の総合と舞洲の両館の設立時に指導員として勤務し、東京と大阪の違いを感じながら、障がい者専用スポーツ施設がスポーツ振興にどのような役割を果たしていくべきかを目の当たりにしてきました。

     そして現在、大阪市長居障がい者スポーツセンターの一員として、その歴史を継承しながら新たな取り組みに着手しています。長居は、「いつ一人で来館しても指導員や仲間がいて、安心していろいろなスポーツを楽しむことができる施設」として運営し、「専門性・先進性・地域性・国際性」の4つのキーワードのもと、障がい者のスポーツ振興に取り組んでいます。今回は、その取り組みと課題についてお話ししたいと思います。

  • 石田 耕一
    p. 26_2
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     大阪府立障がい者交流促進センターは、昭和56年の「国際障害者年」を契機に、障がい者の社会参加を促進し、広く人々との交流を図るふれあいの場として、身体障がい者福祉センターA型施設共用型では、全国に先駆けて大阪府堺市南区城山台に障がい者福祉エリアの中心施設として設立され30年が経過しました。

     障がい者と健常者が“共にスポーツを楽しむことが当たり前の社会をめざす施設”として、まず共用型クラブ活動の支援、共用型イベント(水泳記録会、クリスマス会等)合わせて地域連携イベント(フェスティバル)に取り組みました。

     その後、ボランティア育成・支援、大学連携など“支える”スポーツの振興にも取り組み、共用出来る日常の体力づくり、機能回復のためのプログラム提供はもとより、出前指導などのスポーツの啓発とスポーツ大会の開催などでの競技力向上も図っています。

     共用の良さを生かしつつ、障がい者が安心してスポーツに取り組める環境とはどの様なものか、現場の生の声を発表したいと考えます。

ランチョンセミナー①
  • 長谷川 裕
    p. 27
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     アジリティーは加速・減速・方向転換をともなう身体全体の移動速度を意味する能力としてスポーツパフォーマンスを規定する重要な要素であるととらえられてきた。したがってトレーニング指導の現場やフィールド研究では、さまざまなアジリティーテストが用いられてきた。しかしアジリティーを構成する要素としての「知覚」や「反応」要素についてはその実践的な重要性が指摘されてはきたが、実際の測定やトレーニングでは十分考慮されてこなかった。しかし、知覚や反応を考慮したアジリティー測定とそれらを考慮しないそれとでは、想定される知覚や運動プログラムの選択といった脳活動にとどまらず、出力される動作そのものにも異なるパターンが出現することが明らかにされている。

     そこで本セミナーでは、アジリティー測定やトレーニングにおける知覚や反応といった要素の有無が測定結果やトレーニングに及ぼす影響を、光電管スピード測定機器と連動したアジリティー測定用センサーシステムを用いてデモンストレーションすることによって紹介したい。

ランチョンセミナー②
パラアスリートに対する心理サポート
  • 荒木 雅信
    p. 28_1
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     近年、パラリンピック選手への科学サポートの現場的・実践的研究が増えて、その成果がパラリンピック競技の現場に活用されたことで、そのコーチング・システムに飛躍的な変革をもたらした。なかでも、パラリンピック選手への心理サポートは、アテネ2004夏季およびトリノ2006冬季パラリンピック競技大会以後、心理サポートの重要性がJPCで認知された。ロンドン2012夏季大会から心理スタッフが選手村内に配置され、インチョン2014アジアパラゲームズでも、マルチサポートハウス内に心理スタッフが配置された。また、リオ2016夏季大会ではハイパフォーマンスサポートセンター(旧マルチサポートハウス)内に心理サポートエリアが設置され、専任スタッフが村内・外でサポート活動を実施する。

  • 吉田 聡美
    p. 28_2
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     パラリンピック選手への心理サポートは、2002~2003年のニーズ調査を機に2004年からスタートした。夏期、冬季のパラリンピック大会を重ねるごとに心理サポートの重要性が高まり2012ロンドンパラリンピックでは、試合期での心理的コンディション維持と、これまでの継続的なサポートから選手村にて日本選手団255名を対象に487名に心理サポートを実施した。

     主なサポート内容は、自律神経のバランスを分析する加速度脈波測定器、パルスアナライザープラスビューTAS9VIEW(株式会社YKC社製)を用い、自律神経のバランス・肉体的疲労度を測定し、心理的コンディションを客観的・主観的に確認。その後、選手の訴えに応じて試合に向けての心の準備や振り返り、気持ちの切り替えや次の試合に向けて目標設定、リラクセーション等の心理的スキルを提供した。生理的指標や面談により、主観的な感覚と生理指標が一致し安心に繋がった、試合に伴う精神的ストレスが緩和した等の意見が選手・スタッフから得られた。他の国際試合でも同様に心理的コンディショニングの重要性が認識されている。

ランチョンセミナー③
  • 三島 隆章
    p. 29
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     認知症を発症する前段階である軽度認知障害(mild cognitive impairment; MCI)とは、Petersenによって提唱された疾患であり、1)認知機能は正常とはいえないが、認知症の診断基準も満たさない、2)本人または情報提供者から認知機能低下の訴えがある、3)複雑な日常生活動作の障害は最小限にとどまり、基本的な日常生活機能は正常であるといった状態にあることをいう。MCIは重症まで進行していなければ可逆的であることから、認知症患者の増加を抑制するためには、MCIの早期発見が重要となる。MCIは記憶障害の有無と他の認知機能(言語、遂行機能、注意、視空間認知など)の障害の有無によって4つのサブタイプに分類されることから、MCIをスクリーニングするためには記憶障害の有無および認知機能を調べる方法がある。近年、MCIをスクリーニングする方法について、運動機能の側面からのアプローチの有効性について報告されている。機能的移動能力を示すTimed up and go testを、加速度計を用いて動作分析を行った結果、MCI群は歩行(ステップ)の規則性が低い、イスから立ち上るときの上体の動きが小さい、方向転換の速度が遅い、方向転換から歩き始めるまで時間を要するといった特徴を有することが明らかにされている。直線歩行よりも方向転換の方が神経系の関与が高いことから、加速度計を用いてTimed up and go testを詳細に分析することで、認知機能の低下と関連性のある運動機能の低下を検出できる可能性がある。したがって、MCIをスクリーニングする手段として、認知機能からのアプローチ、運動機能からのアプローチがあり、2つのアプローチを合わせると、精度高くMCIであるか否かを判別することができる可能性がある。

     多機能携帯電話であるスマートフォンは、日本において2人に1人が持つまで普及している。スマートフォンには加速度センサーが内蔵されているため、スマートフォンをベルト等で身体に固定した状態でTimed up and go testを行うと、加速度計を用いた動作分析と同じ分析が可能になる。また、スマートフォンはコンピューター及び通信機器としての機能も有することから、すでに数多く開発されているICT機器を用いた認知機能テストも、スマートフォンを用いて実施することができる。またクラウドサーバーを利用することで一斉に測定をすることができ、且つ測定データの一元管理をすることも可能となる。したがって、スマートフォンを使用すれば、運動機能、認知機能を時と場所を選ばずに測定することが可能となり、将来的にはクラウドサーバーで保管されたデータをビッグデータとして活用することでテスト結果の分析精度を高めることができることから、MCIを早期に発見することができる可能性がある。そこで今回は、スマートフォンを用いた認知機能および運動機能の測定、すなわちMCIのスクリーニングの可能性について、中高齢者を対象に実施した結果について報告する。

ランチョンセミナー④
  • 中田 研, 河島 則天
    p. 30
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
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     障害や外傷による身体機能の低下をいかに効率的かつ合目的性をもって改善させるか、という視点は、スポーツ競技、一般社会生活のいずれにおいても重要である。スポーツ場面でのアスリートの競技力向上、医療現場での障害後の機能回復を実現してきた背景には、現場での経験集積と科学的根拠の裏付けがある。本セミナーでは、スポーツ領域でのアスリートの障害(中田)、医学領域での神経機能障害(河島)、それぞれに携わる立場から、障害の評価と改善のためのアプローチについて紹介し、スポーツ場面とリハビリテーション場面にシームレスに共有可能な、身体機能の最適化のためのビジョンについて探ってみたい。具体的には、リハビリテーション領域での姿勢障害の評価と改善のための新たなアプローチを企図して開発された「重心動揺リアルタイムフィードバックシステム」を題材として、リハビリ場面での活用場面や効果についての知見を示し、アスリートにおけるコンディショニング・トレーニング場面での活用の可能性について議論する予定である。

ランチョンセミナー⑤
大学院生が思い描く体育・スポーツ心理学の未来
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