日本体育学会大会予稿集
Online ISSN : 2424-1946
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学会本部企画
企画シンポジウム1
  • 細越 淳二, 荻原 朋子
    p. 6
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    会議録・要旨集 フリー

     2016年11月の教育職員免許法の改訂並びに2017年11月に示された教職課程コアカリキュラムに対応し、再課程認定を踏まえた教職課程カリキュラムが2019年度より実施に移された。再課程認定を受けた大学での教員養成制度がスタートすることになるこの時点で、保健体育教師の養成をめぐる現状を、授業担当者や指導内容から確認することは、教科に関する科目と教科の指導法に関する科目の担当者が互いに保健体育教師の養成にどのように責任をもつのかを、人材育成や制度的条件の整備という観点から検討する機会になると考えられる。また、体育学会の内外の動向を踏まえつつ、知的生産や人材育成という観点からみて体育学会が抱える課題を日本体育学会に所属しない会員や専門領域に所属しない学会員と共有することは、学会の将来像を検討していく上で意味があると考えられる。そこで本シンポジウムでは松田恵示氏(東京学芸大学)、野坂俊弥氏(東海大学)、中野貴博氏(名古屋学院大学)に登壇願い、保健体育教師養成カリキュラムの質保証に対して日本体育学会の担う役割について広く論議することを意図した。

企画シンポジウム2
  • 土屋 裕睦, 本間 三和子
    p. 7_1
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    会議録・要旨集 フリー

     本学会はこれまで指導者資格特別委員会(土屋・大友・本間)が中心となり、スポーツ指導者の資質向上と質保証ならびに資格のあり方について、関係機関との公開討論を進めてきた。68回大会シンポジウムでは、スポーツ庁よりコーチングイノベーション事業のコンセプトを現場で具現化し、2020大会のレガシーとして変革を加速したいとの提案があった。(公財)日本スポーツ協会からは、モデル・コア・カリキュラムに基づく、新たな「公認スポーツ指導者制度」の構築に向け、コーチデベロッパー(CD)養成講習会実施等において協力体制を模索したいとの要望が出された。部活動指導員制度の設置に伴い、スポーツ指導者の資格認定や資質向上のための学術的基盤整備において、本学会に対する社会の期待は大きく、またそれに応える知見も蓄積されつつある。そこで本シンポジウムでは、改革期にあるスポーツ指導者育成・認定の課題を探り、本学会の果たすべき役割を明確にする。具体的には、新しい時代にふさわしいスポーツ指導者の育成・認定制度の理解を深め、日本のスポーツ指導者養成の現状について国際的視点から点検評価を行いつつ、本学会が学術団体としてどのように貢献できるかを検討する。

  • 友添 秀則
    p. 7_2
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    会議録・要旨集 フリー

     運動部活動は、教師の過重労働の一因となっている。さらに、保健体育以外の教員で担当する部活動の競技経験がない者は、中学校で約46%、高校で約41%を占める。国は持続可能な運動部活動を推進し、指導の質的向上を図るために、「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン(2018年3月)」の策定とともに、文部科学省令の一部改正によって「部活動指導員」制度を設けた(2017年4月施行)。

     部活動指導員は、学校の正規の非常勤職員として、校長の監督下、有償でスポーツ・文化・科学等の教育課程外の教育活動に従事する者である。主な職務を挙げてみると、実技指導、安全・障害予防に関する知識・技能の指導、大会及び練習試合の引率、会計管理等の管理運営、年間・月間指導計画の作成、生徒指導、事故発生時の対応等であり、実に多岐にわたる能力とスキルが求められる。任用にあたっては、一定の資格は必要とせず、通常、学校設置者(教育委員会)や学校が一定の審査を経て採用決定し、その後義務研修が行われる。本発表では部活動指導員の職務ならびに認定の課題を明確にした上で、部活動指導員の質的保証に関して果たすべき本学会の役割について提言したい。

  • 伊藤 雅充
    p. 8_1
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    会議録・要旨集 フリー

     日本スポーツ協会は、近年の社会的な変化や日本のスポーツ界での変化に加え、人々のスポーツに対する価値観の多様化、さらには、スポーツ指導者による反倫理的行為の社会問題化などに対応した、新しい時代にふさわしいコーチングを実現するため、公認スポーツ指導者制度を2019年4月に改定した。共通科目講習会への『コーチ育成のための「モデル・コア・カリキュラム」』の導入や、コーチデベロッパー(CD)によるアクティブラーニング形式の集合講習会の展開などを行っている。本シンポジウムではこの改定の趣旨・概要を解説する。特に、本学会からも受講生の推薦を受けて2018年から実施しているCD養成講習会について、講習会の様子や成果、ならびに課題について紹介する予定である。

  • ジョン ベールズ
    p. 8_2
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    会議録・要旨集 フリー

     コーチの教育は、知識を提供することから、学習者に対する影響に重点を置くことへと進展している。こうしたコーチの学習における専門性が増すことで、専門家としてのコーチ養成者(コーチ・デベロッパー;CD)が出現した。CDとは、専門家として活動し、コーチ自身の研修や行動の変化を様々な角度の学習場面を通して円滑にし、教育しサポートする役割を担う。コーチングの全てのレベルを向上させることを目的として活動している国際コーチングエクセレンス評議会(ICCE)は2014年にこの職業の重要性を広めることを目的とし、国際CDフレームワークを発表した。日本体育大学は2015年、Sport for Tomorrowの援助を得て、ICCEと連携し「日本体育大学コーチデベロッパーアカデミー」(NCDA)を開設している。CDに必要とされる重要な能力には学習や行動変容に関する深い理解、リーダーシップ能力、フォーマルあるいはインフォーマルな場面において学習を促す能力、また練習場面でコーチをサポートするためのメンタースキル等が含まれる。発表では、日本のモデル・コア・カリキュラムならびにコーチ育成の取り組みについて国際的な視点から評価し、いくつかの提言を行なう予定である。

企画シンポジウム3(一般公開)
  • 田原 淳子, 國部 雅大
    p. 9_1
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    会議録・要旨集 フリー

     近年目覚ましい進化を遂げている新たなテクノロジーは、体育・健康・スポーツ科学にどのような影響を及ぼすのか、我々はそれをどう扱っていけばよいのだろうか。進歩する新しい知識や技術を活かし、多様な人々の幸福と豊かさにつなげていくためには、テクノロジーをどうカスタマイズすることが可能なのだろうか。とりわけ新たなテクノロジーが集約されたeスポーツは、国内外における主要なスポーツイベントや教育機関におけるプログラム化が進んでいる。その発展と拡大は、可能性と共に危険性をはらんでおり、重要な論点が内包されている。そこで本シンポジウムではキーノートレクチャーとして、ICSSPE副会長でeスポーツに関する検討プロジェクトを率いるDarlene A. Kluka氏を招き、グローバルな視点からこの課題について解説してもらう。続いて、海外におけるeスポーツ研究の動向や教育機関におけるプログラム化、eスポーツの身体性や教育的側面からみた論点、さらに若手研究者が考える研究上の課題について登壇者からの話題提供を受け、新時代の課題であるテクノロジーと体育・健康・スポーツ科学について議論を深めたい。なお本企画は、今大会における学術交流促進と共に2020横浜スポーツ学術国際会議における重要なテーマを扱うことで積極的な参加を促そうとするものである。

  • Darlene A. Kluka
    p. 9_2
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    会議録・要旨集 フリー

     The Summer Olympic Games will soon be held in Japan. It is, therefore, relevant to consider the roles that sport plays in societies. While the attentional focus associated with any Olympiad is on elite sport, all of us at this important conference recognize the value that physical activity, through its related fields, has in healthy living. It is also appropriate that the focus of this keynote address is on the evolution of technology in the advancement of physical activity through physical education, health, and sport sciences. A product type model, originated by Pitts, Fielding, & Miller (1994) and adapted for this presentation by the keynoter (2019) is used as a framework for contemporary discussion. Sport-specific applications of technology in the areas of participation, performance, production, and promotion of physical activity through physical education, health and sport sciences will be provided. The power of the latest scientific knowledge and technological innovations, when linked together, can be referred to as sport technoscience. This technological evolution will be addressed in terms of how technology can impact broad-based participation, elite performance, quality of performance production, and promotion of physical activity. Finally, questions will be posed relative to participation in and contribution to the sport-technoscience discussion and ethical decision making between historic aims of sport and advancing thrust of technoscience.

  • 佐藤 晋太郎
    p. 10_1
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    会議録・要旨集 フリー

     eスポーツの目覚ましい発展は様々な領域から注目を集めている。この新しい現象を理解するためには、学際的な研究動向ならびに実務の把握が必要である。本報告における目的は二つに大別される。一つ目の目的は、2019年5月までに査読付き学術誌に発表されたeスポーツに関する研究の系統的レビューを行うことである。系統的レビュー研究の手法に基づいて、各種データベースから抽出された研究論文をまとめることで、現在までの研究動向と今後の展望・研究課題を探る。二つ目の目的は、教育機関におけるeスポーツのプログラム化の実態を、米国の大学をケーススタディとして紹介することである。教育機関にeスポーツを取り入れた先駆的存在であるロバートモリス大学(イリノイ州シカゴ)を対象に行ったインタビュー調査に、オンライン上で閲覧可能なその他の教育機関におけるeスポーツプログラムに関する情報を捕捉しながら現状を把握し、日本における今後の展開可能性について議論する。

  • 田中 彰吾
    p. 10_2
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    会議録・要旨集 フリー

     パフォーマンスの速さと正確性、チームワーク、他者との身体的相互作用などが競われる点で、eスポーツはそれ以外のスポーツと多くの共通点を持っている。ただし、すべてのパフォーマンスがコンピュータに媒介されている点(computer-mediatedness)は、他とは異なるeスポーツの顕著な特徴である。コンピュータ媒介性は、次の2点で競技者の身体活動のあり方に変化をもたらすと思われる。第一は「道具使用」である。競技中のほぼすべての活動は、手元のデバイスと眼前のモニターを利用してなされる。ボールゲームや体操における道具使用と比べて、eスポーツにおけるそれは、目と手の協調を限定的かつ極端に推進する。第二は「仮想現実」である。競技が行われる場所は、現実のフィールドではなくモニター上に展開される仮想現実である。競技者は一人称視点でフィールドに入り込んだり、俯瞰しつつフィールド全体にかかわったりするが、いずれにしても、仮想現実における仮想身体を利用しつつパフォーマンスが行われる。当日の報告では、以上の2点について、現象学的な観点からさらに踏み込んで読み解いてみたい。

  • 秋吉 遼子
    p. 11
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    会議録・要旨集 フリー

     近年eスポーツをとりまく状況が変化しつつある。例えば、2019年度「いきいき茨城ゆめ国体」の文化プログラム事業として「全国都道府県対抗eスポーツ選手権」の開催、eスポーツ部の創設等である。しかし、eスポーツに関する議論は十分になされているだろうか。「eスポーツがスポーツか否か」という議論は耳にするが、それだけではeスポーツの本質を解明することはできない。そのため、若手研究者委員会では、体育・健康・スポーツ科学がどのようにeスポーツと対峙するべきか議論を重ねてきた。具体的には、スポーツや運動を実践する身体とeスポーツをする身体は異なるのか、eスポーツは教材となり得るのか、eスポーツの可能性と危険性を「身体」「教育」という視点から捉えるとどのように考えられるか、スポーツとeスポーツの異なる点は何か、バーチャルの世界にある「暴力性」をどのように捉えるのか等である。学会大会当日までに若手研究者委員会で討論をしたeスポーツの論点等について報告し、今後、体育・健康・スポーツ科学の関係者がeスポーツとどのように向き合っていくのかを考える一助となることを目指す。

大会組織委員会企画
基調講演
  • 山内 慶太
    p. 12
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    会議録・要旨集 フリー

     福澤諭吉は、慶應義塾の25年史である「慶應義塾紀事」において、慶應義塾のカリキュラムの特色について、「本塾の主義は和漢の古学流に反し、(略) 西洋の実学(サイヤンス)を根拠とするもの」と記し、次いで「身体の運動は特に本塾の注意する所」「塾中に病者の少なきは、(略) 運動法の然らしむものならん」と記した。

     このように、慶應義塾における教育の実践において運動を重視していたが、その背景には以下の諸点を挙げることが出来る。

     第一に、健康の為の身体活動の重要性を良く認識しており、自らも、日常の生活で実践する人であったことである。福澤は、晩年においても、朝の散歩、午後の米搗きや居合抜きが日課で、欠くことがなかった。そして塾生の健康にもマメに注意を払う人であった。

     第二に、福澤は個人の独立を重視していたが、その独立を支える要素として、身体の健康を重視し、活溌な精神、活溌な智力を支えるためにも身体を積極的に鍛える必要を強調していたことである。しかも、乳幼児期からの発達段階に応じた教育の中での運動の在り方を考えていた。「先ず獣身を成して後に人心を養え」という言葉が端的に示すように、まずは「身体の発育」から、そして「精神の教育」、次いで「読書推理」と徐々に比重が移っていくように考えていた。

     第三に、各要素のバランスを重視したことである。健康な身体は独立の人を支える一要素であって、これが全てではない。従って、全国の学校で体育を重んじすぎる傾向が出て来た時には、時事新報に「体育の目的を忘るゝ勿れ」(明治26年3月22日)と題する社説を記した。そこでは、世間の「体育熱心家」を見ると身体の発育が人生の大目的となってしまっており、腕力抜群の称号を得られればそれで全て終わりとでもいうような感があると批判した。

     このような福澤の姿勢を基に、慶應義塾では小学校から大学まで一貫教育を構成する各段階でその発達段階に応じてスポーツが盛んに行われて来たが、慶應義塾のスポーツには、上記の認識に加えて、福澤の教育観が強く影響していることも加えておきたい。すなわち、福澤は科学的な精神である「実学」の精神と、立場や年齢を超えて、独立した個人として尊重しあう関係を大切にすると共に、塾内ではその点が崩れないように細心の注意を払っていた。

     当日は、このような福澤の体育観・スポーツ観について詳しく述べると共に、最後に、超高齢社会における健康の維持増進、スポーツ界におけるハラスメント等の不祥事の予防、等の諸課題に照らして今日的な意義を指摘したい。

特別講演(一般公開)
  • 上原 明
    p. 13
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    会議録・要旨集 フリー

     現在の時代の流れは、科学技術の発展と資本のグローバル展開による新興国の著しい発展により先進国との格差が縮小し、既存商品市場が狭隘化し、生活者の主権が強化され、長寿高齢社会の実現と共に社会保障費が急増している。この結果、新技術開発による新市場の創造が期待されており、既存産業及び教育等のあり方が問われ、従来のモデルからの転進・進化が求められている。日本経団連等が唱えている「ソサエティ5.0」とは「デジタル技術と現実」を高度に融合させ、多様な想像力や創造力を融合させて、「社会問題の解決と新たな価値を創造」する未来社会の実現を目指すものである。

     

     このような時代の流れに対応した大学教育のあり方は如何なるものか。その基本は学問、スポーツ、芸術等のあらゆる機会をとらえて、学生に「学びの基本」を身に付けさせることである。

     ①良き師から「正しい」学びの基本を体得

     ②「学ぶとは何か」先ずは自らが問題意識を芽生えさせ、解決のための情報収集、仮説立案、実行、検証、仮説修正

     ③「誰から学ぶか」先達、多くの他人、自分自身から

     ④「自分の人生は自己責任」等を実感してもらい、新しい社会が求める人材を世の中に送り出す

     

     現在の世の中は、政治、ビジネス、教育等全ての組織において、ガバナンス、コンプライアンス、マネジメント等の透明性が求められている。これは如何なる組織を創ろうとも、要は運営の責に着くトップの「品性」によるところが大きい。法律を守り、倫理にもとらず、志を高く、近江商人の「三方よし」の精神が大切。

組織委員会・体育史専門領域合同シンポジウム(一般公開)
  • ─福澤諭吉とその時代に手がかりを求めて─
    來田 享子, 鳥海 崇
    p. 14
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    会議録・要旨集 フリー

     自立・自律した個人が生きる自由な現代社会には、どのような体育・スポーツの価値が求められるのだろうか。個人が抑圧される事例に関しては、過去の体育学会においても、体罰・暴力・性暴力、行き過ぎた勝利至上主義、ブラック部活など、個別の事象に着目した検討が行われてきた。本シンポジウムでは、自立・自律した個人を模索する思想とそれが実践されようとした過去の時代/社会を交差させた立場からの検討を試みる。

     個人を抑圧する社会の最も極端な姿は、第二次世界大戦に向かう日本にみられる。しかし、それ以前、近代社会がめざされた1800年代半ば以降には、新しい時代に見合う、自立した近代的な個人を模索する営みが存在した。シンポジウムで焦点をあてる福澤諭吉は、慶應義塾という教育機関を設立することによって、時代の模索を実践しようとした人物の一人であった。さらに、同じ時期に発展した中・高等教育機関における部活動/体育会活動は、こうした営みと無縁ではなかったと考えるべきであろう。

     こうした時代の思想と実践を切り口に、シンポジウムでは、4名の登壇者に報告をお願いする。中澤氏には当時の部活動の発展、山内氏には慶應義塾における体育・スポーツ観、大久保氏には福澤思想の地方への波及、という3つの側面からそれぞれ光をあてていただく。さらに、都倉氏には、3名の登壇者が光をあてた体育・スポーツの価値が戦時期の個人に対する抑圧とどのように相克することになったのかを示していただく。

     社会学、思想史、地方史、政治史を専門とする4名による多角的なアプローチに加え、このシンポジウムでは、一定の方針の下で収集管理された様々な歴史的資料(アーカイブ)が継承する知の可能性についても検討したい。

  • ─明治期から昭和戦前期まで─
    中澤 篤史
    p. 15_1
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    会議録・要旨集 フリー

     本報告では、福澤諭吉がいた時代を理解するための1つの試みとして、明治期から昭和戦前期までの学生スポーツの実態を通観する。

     報告者は、社会学や歴史学の方法を用いる「部活」研究者であり、その立場から情報提供することで本シンポジウムに貢献したい。具体的な報告内容は、次の通りである。第1に明治期について、先行研究を踏まえながら全体的な状況を概観し、福澤が生きた時代に学生スポーツがどう行われたのかを整理する。第2に大正期から昭和戦前期までについては、まず高等教育機関に注目して、東京帝国大学運動会を事例に、当時のあり方を検討する。続いて第3に、同時期の中等学校の校友会・運動部活動に注目し、どのような競技大会がどれくらい行われたのかを検討する。第4に、トップアスリート学生の動向にも注意を払い、戦前のオリンピックに「学生選手」がどれくらい出場したのかを検討する。

     以上は、福澤諭吉そのものに直接的に迫るわけではないが、「部活」との関連という視点から、福澤が戦前日本の体育・スポーツへどのような影響を与えたのかを議論したい。

  • ─福澤諭吉から小泉信三へ─
    山内 慶太
    p. 15_2
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    会議録・要旨集 フリー

     慶應義塾における体育・スポーツの在り方を考える時、「獣身を成して後に人心を養え」等の言葉で知られる福澤諭吉と「練習は不可能を可能にす」の言葉を遺した小泉信三を欠くことは出来ない。

     福澤は、日本の文明化に不可欠なものとして科学的精神と独立心を挙げ、慶應義塾の教育においては、科学的精神を育む為のカリキュラムを重視し、独立心を育む為に学年や立場を越えて互いに尊重し合う人間関係を大切にした。そして、個人の独立を支える要素として身体の健康を挙げ、体育や運動を重視した。しかし一方で学生がむやみに遊戯性にふけることや勝敗へ固執することがもたらす負の側面も早い時期に指摘している。

     小泉は、福澤の教育観を引き継ぎつつ、スポーツの教育的な価値を高く評価し、庭球部長時代、塾長時代、そしてそれ以降に至っても一貫して学生スポーツの強力な擁護者として知られた。

     従来、二人の体育観・スポーツ観の関係性・連続性は深く探求されることがなく、それぞれ別個に捉えられていた観があるが、演者は福澤の体育観が小泉らに引き継がれ発展していった過程を論考したい。このことは、近年、様々な問題が露呈している日本の体育・学生スポーツの在り方を考える上でも意義があると思われる。

  • 大久保 英哲
    p. 16_1
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    会議録・要旨集 フリー

     1880(明治13)年7月から8月までの20日間,能登半島、現輪島市に位置する彛訓(いくん)小学校において鳳至・珠洲二郡の小学校に適用される「教則」を審議する会議が開かれた。この地は当時、北前船寄港地として繁栄し、教育にも熱心な地域であった。協議は小学校教員約30名(日によって一部入替)が、石川県「模範教則」をモデルに、5つの学年段階(前・後期)にどのような教科と内容を配当、教育すべきかについて熱心な論議を交わした模様が逐次記録されている(輪島住吉神社蔵、筆者が使用したのは神奈川大学マイクロフィルム版)。

     一例をあげる。7月15日、「入学して最初に学ぶかな文字とはカタカナか平かなか。数字は漢数字かアラビア数字か」という質問があった。これに対する県官の答えは「平かな」、「漢数字」である。そしてその理由は「小学の初学第一歩にはひらがな」「慣れ親しんだそろばんの漢数字が便利」という、福澤諭吉と軌を一にする論が用いられている。「体操」を除き、この傾向は随所に見られる。こうしたことから、「鳳至・珠洲二郡教育協議会日誌」を福澤諭吉の思想との関連で検討してみたい。

  • ─「慶應義塾と戦争」アーカイブ・プロジェクト収集資料を例に─
    都倉 武之
    p. 16_2
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    会議録・要旨集 フリー

     昭和戦前期における学生スポーツは、東京六大学野球の人気やオリンピアン輩出など、絶頂期を迎えると共に、次第に行政の干渉や時局に伴う制限を受けるようになり、戦争末期には特に一部の種目においてはほとんど消滅に等しい衰退を迎える。また慶應義塾自体も、福澤諭吉による英米思想の鼓吹を出発点とするという一般的な理解から、時に非難される困難な時期となった。そのような中にあって、私立としての慶應義塾は、スポーツに如何なる教育的効果を意識し、どのようにスポーツを展開していたか。また学生たちは、スポーツを通して、慶應義塾の学風や伝統、福澤諭吉の思想を、どのような点で意識していたのであろう。

     演者は2013年より「慶應義塾と戦争」アーカイブ・プロジェクトを進めており、戦時の体育会選手やオリンピアンに関連する写真アルバム、書簡をはじめ多様な資料の寄贈を受け、整理分析を進めて来た。それら資料の中から具体例を示しながら報告したい。またその事例を通して、スポーツ史においてもミュージアムやアーカイブスが、積極的に資料の収集保管に努めることの重要性を考える機会になることを願っている。

大会組織委員会シンポジウム
  • ~教養体育の担い手の育成に向けて~
    村山 光義
    p. 17_1
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    会議録・要旨集 フリー

     本シンポジウムは、大学において学生教育を担う「体育教員」の育成について考えるものである。心身を通じて他者との交流を可能とする「体育」は、多様化する学生をグローバル化社会に送り出す上で重要な機会となり、その現代的使命は重いと考える。しかし、学会においては学術的な専門研究志向が強く、大学体育・教員の教育的使命が語られることは少ない。また、未来を担う若手研究者も教育能力を高めることは後回しで、また一般学部における教育者としての指向が弱いのではないか? といった危惧もある。今回は、大学の一般教育研究の第一人者である羽田貴史氏(東北大学名誉教授)、大学体育教員育成の博士課程として筑波大学と鹿屋体育大学が共同する「大学体育スポーツ高度化共同専攻」の筑波大学専攻長の高木英樹氏、また、若手研究者の意識に関する報告として学会の若手研究者委員会の鈴木宏哉氏をシンポジストに迎えた。ここから、大学教員の研究能力と教育能力の育成のバランス、大学体育教員に必要な資質、若手研究者の率直な意見、体育教員の未来とその養成に学会はどのように関わっていけるのか、等について考えたい。

  • ─教養体育の専門性開発の拠点形成を─
    羽田 貴史
    p. 17_2
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
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     「体育」は、運痴であった私には苦い思い出だ。大学では、受験勉強で鈍った1年生の最初の授業でバスケット・ボールがあり、4-2のスコアでゲームが終わり(その4点は運痴の私が入れた)、10人が下を向いて苦笑いしたことを思い出す。しかし、最初に勤めた教員養成学部の体育教室の同僚が、「学校では主要教科扱いされていないが、逆上がりができなかった子どもができるようになり、一回の授業で目を輝かせるのが、僕らの体育だ」と語るのを聞き、自分自身が青年から中年、さらに老年に至って、身体の大切さを実感するにつれ、一生を通じた身体の大切さに比べ、学校教育の位置づけの乖離を痛感する。中でも、大学時代は、同世代の50%以上が学び、青年後期に属し、一生を通じる価値観と教養の土台を作る時期である。高校では「保健体育」、「家庭科」、「福祉」など、身体発達を教養に結びつける科目があるが、大学体育や保健科目と断絶がある。最大の問題は、大学体育教員の養成(大学院教育)に、体育教育論が位置づいていないことであるが、愚痴を言っても始まらない。大学教員の専門性開発(professional development)の現状から、現職教育としての体育教員養成の可能性を提言してみたい。

  • ~大学体育教員養成の視点から~
    高木 英樹
    p. 18_1
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
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     本専攻は、高等教育機関における体育スポーツ現場での教育と研究の循環を効果的に行える、高度な学術的職業人としての体育教員あるいはスポーツ指導者の養成を目的とした後期博士課程である。よって従来の研究型博士の養成を目指した専攻とは異なり、ディプロマポリシー(DP)として、1) 実践的研究力、2) 実践的教育力、3) コミュニケーション能力、4) 国際性、5) 倫理観などの幅広い知識や能力を有するものに博士(体育スポーツ学)の学位を授与するものとしている。そしてこのDPを達成するために、実践的な授業科目が開設され、これらの授業科目を3年間に渡って履修するコースワークを通して学位取得を目指すのが本専攻の特徴と言える。

     本シンポジウムでは、具体的な授業内容や学生の研究テーマを通して、本専攻が目指す方向性について話題提供を行い、大学体育教員の使命や資質について様々な角度からディスカッションを深めてゆきたい。

  • 鈴木 宏哉
    p. 18_2
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    会議録・要旨集 フリー

     日本体育学会員の約3分の1が40歳未満の会員である。学会は数年前から将来の体育科学を担う若手研究者の問題について議論していたが、議論していたのは若手ではなかった。2016年度からようやく若手が主体となった議論が始まった。昨年、本学会における若手研究者育成促進に資する方策と研究・就業環境の改善について検討し理事会に提言するとともに、若手研究者間の学際的交流を促進する諸活動を行うことを目的とした若手研究者委員会(原則40歳以下の会員で構成)が設置された。これと併行して若手会員の交流を促進する若手の会(有志団体)が設立され、メーリングリストを中心に情報交流が進められている。博士号取得が必須となりつつある教育研究職、他方で教育研究職以外の職業を希望する大学院生が約6割という報告もある(2014年本学会調査)。本シンポジウムでは、若手の会のメーリングリストを通じて大学教養体育や大学体育教員の養成の在り方に関する若手会員の意見を収集したので報告する。シンポジウムでの議論を通して大学院生そして常勤でない研究者の置かれている現実と常勤職に求められる現実のギャップを解消する方策に迫りたい。

ランチョンセミナー1
  • 永野 智久, 川﨑 陽一, Hyun Baro
    p. 19
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    会議録・要旨集 フリー

     内閣府によると、現在は「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会」というSociety5.0の実現を目指している時代であり、同様の文脈でスポーツ界においてもSports2.0という言葉が提唱されている。このような現状の中で昨今注目されているeSportsとは、本学会で取り扱ってきたリアルなスポーツに関する研究といかに関連があるのだろうか?

     本セミナーではeSportsを取り巻く日本の状況、さらに他国の展開を振り返りながら、演者らが行ってきたサッカー等のeSportsに関連する研究や、高齢者施設でのアクティビティとしてeSportsを導入した取り組みなどを紹介し、eSportsの体育学研究としての可能性について議論する。

     また後半には参加者の皆さんに、eSportsを体験(実際のゲームをプレイ)していただくことも考えており、可能であれば現役のプロeSports選手にも参加してもらう予定である。

     

    協力:日本アクティビティ協会/株式会社プレイケア、KPMGコンサルティング

ランチョンセミナー2
  • 勝平 純司
    p. 20
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    会議録・要旨集 フリー

     高齢者数の増加とともに要介護高齢者数も増加し、我が国の財政を圧迫しつつある。健康寿命を延伸させ、要介護者を増やさないこと、要介護者の介護度を軽減させることは我が国の喫緊の課題となっている。不良姿勢は老若男女を問わず身体のみならず精神面にも悪影響を及ぼすいわば万病のもとである。健康なうちから良姿勢を意識することができれば、疾患を予防できるだけでなく自尊心を保つこともできる。我々は良姿勢を教育する新しい装着型機器「トランクソリューション」を開発し、2017年に実用化した。トランクソリューションは装着することで骨盤前傾・体幹伸展のアップライト姿勢の保持を促すだけでなく、腹横筋や殿筋など良姿勢の保持や歩行に必要不可欠な筋を強化することができる。トランクソリューションはすでに多くのリハビリテーション病院や介護施設において姿勢と歩行を教育する機器として活用されている。また、介護や医療の現場だけでなく、一般企業における健康増進機器としても使用されている。100年歩くための身体を取り戻すだけでなく、100年歩くための基礎を築くアイテムとして本講演にてトランクソリューションの解説を行う。

     

     専門領域は人間工学、バイオメカニクス。モーションキャプチャーを使用してヒトの動作の仕組みを調べたり、福祉用具の使用効果を判定したり、関節にかかる負担を軽減するためのデバイスを開発しています。

     

    協力:セノ―株式会社

ランチョンセミナー3
バスケットボールとオリンピックのこれまでとこれから
  • 谷釜 尋徳
    p. 21_1
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    会議録・要旨集 フリー

     1891年にアメリカで産声を上げたバスケットボールは、ベルリンオリンピック(1936)で採用されて以降、オリンピックの人気種目として世界中の人々を魅了してきた。いまや世界最大の競技人口を持つバスケットボールは、紛れもなく指折りの国際スポーツである。バスケットボール日本代表はベルリンオリンピックに出場を果たすが、その後、戦争の影響もありメルボルンオリンピック(1956)までの20年間は出場していない。日本は東京オリンピック(1964)で世界レベルに急接近したものの、それ以降は停滞の時期に入り、男子はモントリオールオリンピック(1976)を最後に五輪の舞台から遠ざかっている。しかし、近年の発展は目覚ましく、Bリーグの開幕を追い風に着実なレベルアップを重ね、ついには44年ぶりに東京オリンピック(2020)の出場権を獲得した。本セミナーでは、バスケットボールとオリンピックの歴史を振り返りながら、来夏の東京オリンピックの展望についても言及する。

  • 冨田 幸祐
    p. 21_2
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    会議録・要旨集 フリー

     2020年の東京大会が第32回目となる夏季オリンピック大会は、1896年にアテネで第1回大会が開催されたことに端を発する。第1回大会では9競技(陸上、競泳、体操、ウエイトリフティング、レスリング、フェンシング、射撃、自転車、テニス)の実施だったが、約120年を経て、その4倍近い33競技が東京大会では実施される。周知の通り、バスケットボールの競技採用は1936年に開催されたベルリン大会からであるが、東京大会からは3人制バスケットボール「3×3」が正式に追加されることになった。いわゆる5人制に続き、3人制が採用されたことは、バスケットボールという競技の世界的な受容と需要の証左であるといえる。ただオリンピックにおけるこうした競技の種目数増加は単純に歓迎されるべきなのか一考の余地があるのではないだろうか。例えばプロ組織との関係性やオリンピック独自のルール制定などオリンピックで採用されるがゆえに、皮肉にも対立関係や足かせとなる可能性を秘めた状況が胎動し、それは時として噴出してしまう。オリンピックにおける競技採用と種目増加、そのことが生み出すアイロニーを考えたい。

     

    協力:日本バスケットボール学会

ランチョンセミナー4
  • 資格認定GFIと一般授業におけるフィットネスダンス
    穂積 典子, 田中 雅子
    p. 22
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    会議録・要旨集 フリー

     保健体育系および社会体育系の大学・短大において(公社)日本フィットネス協会(JApan Fitness Association:JAFA)が認定する指導者資格『GFI』が導入されており、また一般授業においてはフィットネスダンスが採用されています。

     GFI(グループフィットネスエクササイズインストラクター)には、エアロビックダンス(AD)、ストレッチング(SE)、レジスタンス(RE)、アクアダンス(AQD)、アクアウウォーキング(AQW)、WE(ウォーキングー)の6種目のエクササイズインストラクター資格があり、これらの資格認定試験を学内で実施できるGFI資格養成校制度について紹介します。(2019年度では大学・短大・専門学校の53校が登録しています。)

     一方、フィットネスダンスは、東京大学名誉教授の宮下充正先生が日本の楽曲を中心とした健康体力づくりのためのダンス運動として提唱したものであり、大学の一般体育授業として導入されています。大学生に馴染みのあるアニメソングやJポップの楽曲を用いてエアロビックダンスの授業として行われています。フィットネスダンスには、ダンスの構成を学習するためのメソッドとツールがあり、運動に馴染みのない学生でも段階的に習得できるようになっています。学生がダンスを理解し運動を行うところから、学生自身がダンスを作成して、学生のみで運動を行っている事例をご紹介します。

     

    協力:公益社団法人日本フィットネス協会

ランチョンセミナー5
  • ~トップアスリートからグラスルーツまで~
    神武 直彦
    p. 23
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    会議録・要旨集 フリー

     テクノロジーの高機能化・コモディティ化によって、高度なシステムのみならず、スマートウォッチなどによって様々なスポーツデータの取得、分析、活用が可能になってきた。それによって、選手の怪我の予防や、チームの戦略、効果的なトレーニングメニューの立案などが可能になり、スポーツの観戦においても、多様な楽しみ方が可能になってきた。そのような取り組みは、代表選手やトップチームから広がりつつあり、近い将来、学校体育にも普及することが期待される。テクノロジーによって多様なデータを活用して新たな価値を創り出す取り組みには、俯瞰的に物事を捉えるシステム思考や、価値のあるアイデアを創出して具現化するデザイン思考の活用が有用であり、スポーツのみならず他の分野にも普及展開が可能になっていくと考えられる。このような考え方やスキルは、これからのデータ駆動型社会においては誰もが備えるべき能力であり、学校体育が身体や心の教育のみならず、STEAM(Science, Technology, Engineering, Arts and Mathematics)教育にも寄与できる可能性がある。本セミナーでは、その現状と未来、そして課題を紹介する。

ランチョンセミナー6
  • 工藤 和俊, 木島 章文, 荒木 雅信, 阿江 美恵子, 土屋 裕睦
    p. 24
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    会議録・要旨集 フリー

     体育心理学専門領域は日本体育学会の一分科会として1967年に発足し、先達の先生方の献身的な努力により体育学の主領域の1つとして今日までの発展を遂げてきました。また、発足時の母体である日本体育学会は、組織拡大とともに研究の細分化が進み、現在約6000人の会員と15の専門領域を有する大規模学会に発展しました。一方で今日の日本社会は大きな転換期を迎え、少子高齢化や人口減少に伴い、大学数が減少していく時代になりつつあります。このような動向のなかで、体育心理学専門領域とその近接領域であるスポーツ心理学会は、2017年度より両学会の統合に向けた検討を開始しました。そこで本企画では、体育心理学専門領域、日本スポーツ心理学会、および日本体育学会の役員の先生方とともに、学会統合に関する意見交換を進めていきたいと思います。併せて、日本体育学会における組織・事業改革に関する動向について報告し、体育・スポーツ心理学の今後について、研究や組織のありかたを含めた意見交換を行う場としたいと思います。

     

    協力:体育心理学専門領域

ランチョンセミナー7
  • 菅野 昌明
    p. 25_1
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    会議録・要旨集 フリー

     2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックを節目とした国内の競技スポーツにおけるパフォーマンス向上、あるいは超高齢化社会を迎えている我が国の健康寿命の延伸などの課題を踏まえると、国外のトレーニング情報をダイレクトに流用するたけではなく、日本の環境や実情に適合した科学的手法に基づいた日本発のトレーニング法を開発することが必要であると考えられる。そのためには、研究者だけではなくトレーニング指導者がトレーニングにおけるサイエンティフィックコーチング(Scientific Coaching for Training)を意識して、自らの力で科学と実践を融合させることのできる能力を身につけることが不可欠である。

     日本トレーニング指導者協会(JATI)ではこのような人材育成を目指し、本講座にて科学的手法に基づくトレーニング指導の事例を紹介する。

  • 油谷 浩之
    p. 25_2
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    会議録・要旨集 フリー

     昨今、トレーニング指導の現場では、これまで取得する事が困難であったり、膨大な労力がかかることにより使用するまでに至らなかったデータが携帯端末等の普及によって簡易に手に入れることができるようになってきた。JATIはここ数年、科学をいかにトレーニングに活かしていくことが、よりよいトレーニング効果につながるのかを発信してきた。私もこれまで科学的根拠をどのように現場に活用していくのが最善なのかを模索していた。今回はその過去の科学的根拠を参考にトレーニング指導をしていく中で、実際に知り得たデータの傾向を紹介する。

  • 菅野 昌明
    p. 26
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    会議録・要旨集 フリー

     レジスタンストレーニングは、筋肥大や筋力などの筋機能の改善に有効的であり、現在ではトップアスリートから高齢者にいたるまで幅広い対象が行っている。また、筋肥大を目的とするレジスタンストレーニングでは、筋タンパク質合成に影響を及ぼす成長ホルモンの分泌を促すために、セット間の休息時間は60秒間前後が最も適している!あるいは負荷は最大挙上重量(1RM)の70~85%程度に設定することが必要!といった、レジスタンストレーニング理論は、トレーニング指導者はもとよりアスリート、トレーニング愛好家にいたるまで広く知られている。

     しかしながら、近年これまでの理論とは異なるエビデンスが多数報告されている。本講座では、レジスタンストレーニングの最新情報をいくつか概説し、トレーニング指導の取り組み事例を紹介する。

     

    協力:特定非営利活動法人日本トレーニング指導者協会

ランチョンセミナー8
ランチョンセミナー9
  • 田中 美吏, 樋口 貴広, Markus Raab
    p. 28
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    会議録・要旨集 フリー

     特別レクチャーで講演いただいたケルン体育大学Raab教授をお招きし、特別レクチャーの「延長戦」として、日本の研究も紹介しつつ、「日仏体育心理交流」を企画しました。本ランチョンセミナーでは、心理的プレッシャーとスポーツパフォーマンスの関係について研究をされている武庫川女子大学の田中美吏先生とエコロジカル・アプローチを用いた空間認知の研究をされている首都大学東京の樋口貴広先生より研究報告をしていただいた後に、運動学習・意思決定を含む広範囲のperformance psychologyの研究者であるRaab教授を交えて今後の体育心理学研究の方向性に関して幅広い議論ができる場を設けたいと考えています。当日は、体育心理学に関心のある会員の多くの参加を期待しています。

     

    協力:体育心理学専門領域

ランチョンセミナー10
  • 松澤 俊行
    p. 29
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    会議録・要旨集 フリー

     昨年・一昨年に引き続き「地図を駆使して野山を駆けるオリエンテーリングをいかに教育・文化に活かすか」を考えるセミナーを計画した。教育の場で行われるオリエンテーリングやその類似プログラムといえば、広大なフィールドの中を、グループで協力しながら進んで行く活動のイメージが強い。しかし、現代の自然的、社会的環境や教育条件の変化によって、事前の準備や当日の実施に長時間を要し、指導者、学習者の双方に忍耐が求められるプログラムは、なかなか受け入れられにくくなってきている。

     そうした状況を受けて、一昨年のセミナーでは、大学の授業一時限分で行えて、準備の負担も少ないプログラムを紹介した。昨年は、セミナー出席者がコース設定作業の一部を経験できる時間を設けた。今年のセミナーでは、さらに一歩進めて室内オリエンテーリングのコースを会場内に設定し、直接体験できる機会を提供したい。

     

    協力:公益社団法人日本オリエンテーリング協会

パネル展示
  • p. 30
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    会議録・要旨集 フリー

     多くの学会員の方々に、慶應義塾の創立者である福澤諭吉の身体観と体育観を紹介し、慶應義塾の体育・スポーツの歴史と伝統をお伝えできればと考える。

     福澤諭吉は、「身体健康精神活潑」という書を残し、活発な知的活動の前提として、肉体の健康を保つことの重要性を強調した。また、「体育の目的を忘るゝ勿れ」と題し、時事新報社説に学校教育における体育の本来の目的を説き、その目的を見誤ることがないように注意を促した。体育とは、「人をして不羈独立の生活を得せしむるの手段」であり、体育を口実として「漫りに遊戯に耽り学業を怠り、あまつさえ肉体の強壮なるに任せて有りとあらゆる不養生を行い不品行を働き・・・に至りては、実に言語道断」と述べた。

     そのような福澤の身体観・体育観とそれを源流とする慶應義塾のスポーツ活動の展開の歩みの一端をパネル展示において紹介したい。本展示が、今後の体育・スポーツの新たな可能性を考え、またスポーツ史に関わる歴史的資料の保存と展示の重要性を考える一助となることを願っている。

専門領域企画
00 体育哲学
シンポジウム
  • 荒牧 亜衣, 松宮 智生
    p. 31_1
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    会議録・要旨集 フリー

     科学技術の進歩は、スポーツする身体の多様化を牽引してきた。身体に合わせたスポーツも数多く産み出されてきたし、スポーツをするための道具も進化を続けている。加えて、近年、スポーツする主体の「多様な身体」を浮き彫りにしてきたことも事実である。例えば、キャスター・セメンヤの陸上競技800m女子種目への参加資格問題(以下「セメンヤ問題」と略す)やマルクス・レームをめぐる義足の取り扱いに関する議論のように、競技スポーツの原則とされてきた性別二元制やルールそのものの限界を示す事例が挙げられる。スポーツにおける「多様な身体」は、これからのスポーツをどこへ導いていくのだろうか。以上の問題意識に基づき、本シンポジウムでは、特に性別二元制を前提とした現在のスポーツ制度が抱える矛盾や問題点について検討する。性別二元制を基本とした競技規則に内在する課題を体育・スポーツ哲学の立場から整理し、解決に向けた道筋の提案を試みる。セメンヤ問題を起点に①身体の「らしさ」、②競技参加をめぐるルール、③スポーツにおけるジェンダーの3つの視点から、「多様な身体」の出現をスポーツの問題としてあらためて問い直してみたい。

  • 田中 愛
    p. 31_2
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    会議録・要旨集 フリー

     演者の立場からは、セメンヤ問題から考える身体の「らしさ」について考察し、同時にスポーツにおける身体に普遍性は見出せるのか、という点について議論したい。「体つきが男性らしい」と周囲が判断するけれど性自認が女性である場合、その性自認は医学的判断には左右されないということになる。では、身体の「らしさ」とは何だろうか。いわゆる「身のこなし」や「立ち居振る舞い」、「しぐさ」などの「らしさ」は、意図的に、あるいは意図せず他者や社会から学習し獲得してしまったものであることは繰り返し指摘されてきた。「男性らしさ」「女性らしさ」はどのように学ばれ、どのように形成されていくのだろうか。同時に、〇〇さんらしさ、個性、個人差は、医学的性差および医学の対象となる肉体からどれほど影響を受けるのだろうか。さらには、身体が多様であるとはどういうことか、性別が変わっても私は同一かどうか、ということも視野に入れた議論が必要になると考えている。最後に、スポーツにおいて男女の差をなくした場合(性別二元制を採用しない場合)、現実的に何か問題が生じるか、という点についても検討し、スポーツと身体の関係について改めて考察したい。

  • 松宮 智生
    p. 32_1
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    会議録・要旨集 フリー

     スポーツが競争を伴う身体活動であるとするならば、競争ゆえに公平性が求められる。一方、人間の身体のあり方は実に多様であり、競技上のパフォーマンスに影響を与えうる要素は無数に存在する。現代社会においては多様な身体のあり方を認め、障がい者や性的マイノリティの権利を擁護するための制度整備が進みつつある。しかし、スポーツ界においては、身体的なマイノリティの立場にあるアスリートたち(高アンドロゲンの女性、MtFのトランスジェンダー、義足のロングジャンパー)は、「典型的」ではない身体をもつがために、典型化への圧力にさらされ、勝つことを求められず、ときに排除されてきた。社会・法制度において多様な身体のあり方を尊重する機運があるなかで、スポーツにおける当然の前提、例えば性別二元制が永遠に続くと考えるのは楽観的過ぎる。本発表においては、セメンヤ事件の経緯を振り返りながら、スポーツにおける参加資格をめぐる制度・ルールについて、その矛盾や問題点、あるいは今後のあり方を考える。将来、スポーツに携わる人々が自らの身体の在りように肯定的に向き合えるような制度をデザインするための基礎的な考察としたい。

  • 竹村 瑞穂
    p. 32_2
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    会議録・要旨集 フリー

     2020年東京オリ・パラを目前にスポーツ界が揺れている。最も大きな話題の一つは、2016年に開催されたリオ五輪で金メダル(女子800メートル)を獲得した、キャスター・セメンヤ選手をめぐる性別問題であろう。

     この問題をスポーツ哲学的側面から読み解くと、異なる道徳的価値の衝突が存在することが見て取れる。スポーツにおける公平性という価値と、あるがままの生をまっとうし、自身の性自認を尊重するべきという、基本的人権にかかわる普遍的な価値である。同様に道徳的価値の衝突をめぐる問題は、義足選手の五輪参加やドーピングの検査手法をめぐる問題などにも見受けられ、スポーツ社会の在りようそのものを揺るがす事態となっている。

     本発表では、スポーツ・ジェンダー問題を端緒として、スポーツ界が直面している身体の多様性についてどう向き合うべきか言及したい。スポーツ界が許容するべき不正義とは何か、そして、スポーツ社会の再構築に向けてどのような対応が望ましいのか、スポーツ哲学的視点からの提示を試みる。

浅田学術奨励賞受賞記念講演
  • 松田 太希
    p. 33
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    会議録・要旨集 フリー

     「運動部活動における体罰の意味論」は、指導者と選手が体罰をどのように意味づけているのかを論じたものだった。しかし、なぜそのような議論を提出することが必要だったのか。

     体罰は現に発生しているのだから、その解決や善悪を語る前に「そこではいったい何が起きているのか?」を、まずは明らかにする必要があったのだ。その点について、受賞論文では、運動部活動空間の権力性=暴力性への着目から、指導者が体罰を行使する心的過程と体罰を甘受する選手の心的過程を論じた。そこで浮かび上がってきたのは「自己保存の欲望を満たす快としての体罰」だった。

     しかしそうした議論は、われわれをどこに連れて行くのだろうか。じつは、受賞論文は、体罰という現実をありのままに説明したにすぎず(善悪の彼岸!)、問題の解決に貢献していないのではないか?もちろん、演者はそうは考えていない。そのことについて、「批判とは何か」、そして「暴力の意義と未来」という問題を視点に考えながら、受賞論文への理解を深化・進化させ、今後のさらなる研究の展開を臨みたい。

01 体育史
シンポジウム
  • 小田 佳子
    p. 34_1
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    会議録・要旨集 フリー

     本シンポジウムのねらいは、「日本の体育・スポーツの特徴=武(士)道的性格」という短絡的な思考プロセスを、史料(根拠)に基づきながら複眼的に批判し、これを再考することである。様々な問題が露呈する日本の体育・スポーツには今、その本質の歴史的な理解が求められている。「葉隠」「武道初心集」他の史料を読み込みつつ『日本人の知らない武士道』を著したベネット氏には、日本の武道がいかにしてグローバルに〈移行〉し続けているのかを、武道の固有性ではなく普遍性に焦点を当てながら、海外(外国人)の視点から論じていただく。藪氏には、前世紀転換期に国内外で大量に出版された柔術教本の「啓蒙書と商品」という二つの性格に光を当てながら、教育や修養といった観点からは見逃されがちな、消費を介した武道受容について解説していただく。坂上氏には『にっぽん野球の系譜学』で提起された、西洋スポーツが日本に摂取される過程で、担い手のもつ武(士)道精神に規定されて、スポーツ活動における日本的な変容が生じたという従来の見方について、その問題点とそれを乗り越えていく方向や研究課題などについて、武道の歴史的な変化も視野に入れながら論じていただく。

  • 武道の国際的マイグレーションの考察
    アレキサンダー ベネット
    p. 34_2
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    会議録・要旨集 フリー

     日本武道協議会は武道を、「武士道の伝統に由来する我が国で体系化された武技の修錬による心技一如の運動文化」であり、それを修練することで「心技体を一体として鍛え、人格を磨き、道徳心を高め、礼節を尊重する態度を養う」人間形成の道であると説明する。武道の固有性は多くの場合、「日本武道」対「西洋スポーツ」の構図の中に置かれ、武道がいかにスポーツでないかが論じられる。そのうえ冒頭の説明のように、武道はしばしば武士道という漠然とした、また一面で美化された概念と結び付けられる。だとすれば、日本人固有の精神である武士道が身に染みついていない外国人は、武道を完全に理解することができないのだろうか。実は現在、日本武道は新たなグローバルスケールで、国籍を問わず、世界各国の人々に愛好されている。日本人が見たら驚くほど本来の姿を守ろうとしている外国の武道場が少なくない。武道の何がユニークなのかではなく、何がその普遍的な価値なのかと問いかけながら、1) 日本武道のマイグレート化の過程と、2) 外国で武道が実践される動機とを分析し、3) グローバル化の中の新時代における武道のスピリチュアルな吸引力について論じたい。

  • 前世紀転換期の国内外で出版された柔術教本とその消費的受容に着目して
    藪 耕太郎
    p. 35_1
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    会議録・要旨集 フリー

     近代において武道は、学校・軍隊・武道団体などを主たる基盤に国民教化の一翼を担った。しかし武道は、集団的な規律訓練の作動場でのみ展開したわけではない。武道は個人の自発的消費に基づく趣味や娯楽の領域にも進出し、前世紀転換期にはすでに武道の消費的受容というべき現象が生じ始めていた。その一例が当時盛んに出版された柔術教本である。ここでは教本における啓蒙と営利の二面性に着目したい。即ち、教本の目的の一端は読者の啓蒙にあり、その意味で教本は国民教化の装置だった。しかし他方で教本は市場を流通する商品でもあり、従って消費のニーズに応え、また購買意欲を喚起する工夫が必須だった。この二面性は、様々な教本が出版される原動力になり、また柔術への多様な解釈を生み出す源泉となった。加えて本講演では海外の事例にも注目したい。なぜなら当時、同様の二面性を内包した柔術教本が、日本だけでなく海外でも陸続と出版されており、そこには明らかな国際的同時代性が見出せるからである。武道の個人的消費を介した国民教化という回路と、その回路から生み出された多様なヴァリエーションについて、国内外の柔術教本を通じて検討したい。

  • 拙書『にっぽん野球の系譜学』を中心に
    坂上 康博
    p. 35_2
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    会議録・要旨集 フリー

     1) 精神修養や武士道精神といった用語がちりばめられた野球部員やOBたちの主張を、野球が武士道や武道精神によって変容したことの証明材料として扱うという従来の発想は、事実の非歴史的で一面的な理解に導くものであり、それが野球に対する抑圧からの解放や自治的な発展をめざしたものであったというポジティブな側面等を見えなくしてしまっている。2) 精神修養や礼儀の尊重といった事項に限定してとらえるならば、野球が武道化したという見方も確かに可能であるが、国家主義や帝国主義といったイデオロギーレベルを含めるならば、野球と武道は全く別物である。3) 日本の野球をはじめとするスポーツにおいて、非合理的な練習や集団内での上下関係(それによる体罰や暴力)などが肯定されてきたのは、勝利、人間形成、集団の秩序という3つの強力な正当化の論理が存在するからであり、それは戦後、高度経済成長期をへて浸透していったものではないか。拙書『にっぽん野球の系譜学』で提起した以上のような論点を紹介しながら、従来の通説的な見方がもつ問題点とそれを乗り越えていく方向性や課題などについて、武道の歴史的な変化も視野に入れながら論じてみたい。

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