日本静脈経腸栄養学会雑誌
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症例報告
経管栄養管理中に発症し、診断と治療に難渋した銅欠乏症の1例
甲原 芳範管 聡
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キーワード: 銅欠乏, 亜鉛投与
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2016 年 31 巻 5 号 p. 1150-1152

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抄録

症例は82歳、女性。くも膜下出血後遺症で胃瘻より経管栄養中であった。褥瘡と貧血に対し、亜鉛含有薬剤、鉄剤、アスコルビン酸が投与されたが、貧血の改善は認められなかった。1年3ヶ月後に銅欠乏症と診断されたが、診断前の7ヶ月間の銅摂取量は推奨量を満たしていた。結果的にはそれ以前の銅摂取不足による体内銅プールの枯渇に加え、亜鉛含有薬剤、鉄剤、アスコルビン酸の継続使用による銅吸収障害が銅欠乏の遷延に関与したものと思われた。これらの薬剤を中止し経過観察したが、3ヶ月後も血清銅は改善せず、最終的には銅の経静脈的投与を要した。

亜鉛含有製剤を使用中の銅欠乏症はよく知られており、本邦報告例は8例あるが、7例は胃腸手術既往例、腸瘻やPEG-Jの使用例、一日銅摂取量の不足を伴った症例で、亜鉛含有製剤の投与が銅欠乏の単独原因として考えられる症例は1例のみであった。本例も当初は亜鉛投与の関与を疑ったが、最終的には銅欠乏診断の7ヶ月以上前までの銅投与不足の影響が大きかった。また銅欠乏症の治療は体内銅プール量を考慮し、適切に銅補充を行うべきである。

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© 2016 日本静脈経腸栄養学会
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