日本静脈経腸栄養学会雑誌
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31 巻, 5 号
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特集
  • 田中 彩, 下野 隆一, 今大路 治之, 鈴木 基生, 桑原 知巳
    2016 年 31 巻 5 号 p. 1095-1098
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/20
    ジャーナル フリー

    私たちの身体には多数の常在菌が存在し、正常細菌フローラを形成している。このうち腸内フローラは生体機能に深く関与しており、宿主と共生しながら様々な生理作用を示すことが知られている。腸内フローラは疾病の発症にも関連があるとされており、その構成と機能が大きく注目されている。従来は培養法による解析が行われてきたが、近年のシークエンス技術の進歩により腸内フローラの全貌が解明されつつある。腸内フローラの解析は個人の健康指標ともなり得るといわれており、短腸症候群などの腸管不全患者における腸内フローラの構成は健常者と大きく異なると予想される。これらの患者において、腸内フローラを是正し、正常な腸内フローラを形成・維持することは腸管機能を最大限に発揮するために重要であると考える。

  • 佐藤 千秋, 千葉 正博, 十良澤 勝雄, 屋代 薫, 川口 由美, 八木 仁史, 添野 民江, 菅野 丈夫
    2016 年 31 巻 5 号 p. 1099-1104
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/20
    ジャーナル フリー

    ジアミンオキシダーゼ(以下、DAOと略)は、小腸の絨毛上部に活性が高く、小腸粘膜の増殖制御に関与している。小腸組織中の DAO活性と血中 DAO活性は有意に正の相関を示し、血中 DAO活性は小腸粘膜の integrityやmaturityの指標となることが報告されている。さらに、肝障害あるいは手術や化学療法などの腸管に対する侵襲や栄養管理によっても影響を受けるとされ、様々な状況下で検討がなされている。今回、昭和大学藤が丘病院救命救急センター入室患者を対象に検討を行った。その結果、長期の絶飲食や経腸栄養目標投与量まで長期間を要した症例、炎症反応が持続する症例では血中 DAO活性が低下した。また、グルタミンの経腸投与により血中 DAO活性の上昇がみられ、経腸栄養剤移行が順調であった。以上から血中 DAO活性の変化は腸管粘膜の萎縮を反映し、腸管粘膜の恒常性の評価を低侵襲で行う方法として血中 DAO活性の測定は有用である。

  • 蛇口 達造, 吉野 裕顕, 森井 真也子, 蛇口 琢, 渡部 亮
    2016 年 31 巻 5 号 p. 1105-1108
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/20
    ジャーナル フリー

    血漿シトルリン濃度が短腸症候群の消化管順応の生体指標として簡便且つ有用であることが Crennらにより提唱されて以後、栄養学的自立の評価に重要な位置をしめるようになっている。その解釈には小腸で合成されるシトルリン(Cit)が腎臓でアルギニン(Arg)に変換し、全身で利用される代謝機構の理解が必要である。新生児期発症 SBS自験症例の検討から、(1)血漿 Cit濃度は手術時残存小腸の長さを反映し鋭敏に増加する、(2)血漿 Cit, Arg濃度の両者とも絶食時基準値内なら栄養学的自立は可能である、(3)両者とも基準値内で TPNから離脱できない症例では、その原因検索を進めるべきであると考えられた。以上から血漿 Citと Arg濃度は SBSの消化管順応の評価に簡便かつ有用な検査であると結論した。

  • 七種 伸行, 田中 芳明, 浅桐 公男, 深堀 優, 石井 信二, 橋詰 直樹, 吉田 索, 八木 実
    2016 年 31 巻 5 号 p. 1109-1113
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/20
    ジャーナル フリー

    短腸症候群 (SBS) の予後改善には適切な経腸栄養管理による静脈栄養からの離脱が必要になるが、栄養処方設計において残存腸管の吸収能を評価することは重要である。我々は非侵襲的かつベッドサイドで反復可能な動的指標として間接熱量測定 (IC) による経腸栄養剤投与前後の安静時エネルギー消費量 (REE) と呼吸商 (RQ) の変化に着目した。短腸症候群小児症例2例に対して間接熱量測定を行い、補助的な血液検査と併せて吸収試験としての有用性を検討した。2例ともに経腸栄養後に安静時エネルギー消費量の上昇と投与したエネルギー基質から予想される呼吸商の変化を示した。 測定方法や測定値の解釈などにさらなる検討を要するものの、本法は個々の症例の栄養処方決定に有用と考えられた。

  • ~特に小腸機能評価を中心に~
    丹藤 雄介, 清水 亮, 横山 麻美
    2016 年 31 巻 5 号 p. 1114-1117
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/20
    ジャーナル フリー

    栄養素の消化・吸収障害をきたす疾患(吸収不良症候群)において,小腸や膵臓の機能を評価することは,病態を明らかにし,適切な治療を行う上で非常に重要である.これまで臨床的に小腸や膵臓の機能検査はバランススタディや画像検査が中心に行われていたが,近年,安定同位元素(stable isotopes)を用い,簡便で侵襲が少ない小腸や膵臓の機能検査が可能となってきた.保険適用の問題があるものの,広く普及することで複雑で困難であった吸収不良症候群の診断や治療に寄与することが期待される.

  • シネ MRIと消化管シンチグラフィーを用いた評価法について
    天江 新太郎
    2016 年 31 巻 5 号 p. 1118-1125
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/20
    ジャーナル フリー

    短腸症候群の腸管リハビリテーションにおいて、Serial transverse enteroplasty(以下、STEPと略)は残存腸管長を延長し拡張した腸管のうっ滞を改善させる有効な手段であり、重要な外科治療として位置づけられている。しかし、その適応基準は明確に定められてはいない。今回、短腸症候群の1例において、内科的治療が奏功しなかった腸管不全関連肝機能障害(intestinal failure associated liver disease;以下、IFALDと略)の主因が残存小腸の拡張とうっ滞であると考え、シネ MRIで拡張腸管の同定と運動機能評価を行い、消化管シンチグラフィーを用いて拡張腸管の内容物排出障害を評価し、STEPの適応であると判断し得た症例を経験した。本項では、症例を供覧しつつ、消化管機能評価におけるシネ MRIと消化管シンチグラフィーの役割について解説する。

  • 八木 実, 本間 信治, 七種 伸行
    2016 年 31 巻 5 号 p. 1126-1129
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/20
    ジャーナル フリー

    非侵襲的に消化管運動、特に胃電気活動を記録解析したものを胃電図という。その記録や解析には工夫が必要で、最も有用な因子は胃電気活動のリズムの性状である。各種病態下で胃電気活動におけるリズム性状のパラメーターを用い胃運動機能評価が十分可能であった。胃電図におけるパワー比も胃運動のパラメーターとして参考になるが、収縮と必ずしも1:1の対応ではないので胃排出のパラメーターとして用いるのは適当でない。胃電図を発展させた胃腸電図(等パワーマッピング)も消化管の電気活動を地図状に可視化でき胃腸運動機能評価上、有用であるが、まだ解決せねばならない問題点が存在する。

原著
  • 曽野 弘士, 林 裕美, 秋山 謙太, 森野 桐子, 中島 悦子, 中村 真知子, 平野 憲二, 貝田 英二, 前田 滋
    2016 年 31 巻 5 号 p. 1130-1135
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/20
    ジャーナル フリー

    【目的】高齢者の摂食障害において経腸栄養の維持はその予後を左右するが、安易な経管栄養導入にも疑問が残る。そこで、喫食量増加の取り組みが経管栄養よりも優先可能な期間を検討した。【対象と方法】NSTが介入した112症例について、経腸摂取熱量が総必要熱量 (TEE) の60%未満であった期間 (%EN<60期間) と転帰、予後推定栄養指数 (PNI) を解析した。【結果】1) %EN<60期間が15日以上の症例では嚥下障害が増加、経管栄養による補完の必要性が高い。2) %EN<60期間が29日を超えると死亡率が上昇する。3) 経管栄養導入後の生存率は、導入前の PNIが 30以上の群で有意に高い。【結論】喫食量増加の取り組みが経管栄養よりも優先可能な期間は、経口的に TEEを充足できなくなってから14日間までである。経管栄養は、%EN<60期間15? 28日目または PNI 30未満となる前に導入されることが望ましい。

  • 西内 美香, 大谷 昌道, 紺野 亜衣, 岩渕 恵江, 庄司 尚子
    2016 年 31 巻 5 号 p. 1136-1140
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/20
    ジャーナル フリー

    【目的】侵襲の大きな手術後には、血清亜鉛値の低下が報告されている。加えて血清亜鉛値の低下は、食欲不振の誘因となり得ることが報告されている。今回我々は、手術前後における血清亜鉛値の推移を調査した。また食欲低下に陥っている症例に対し経口的に亜鉛を付加し、食欲不振の改善の検討を行った。さらに術後血清亜鉛値の維持と平均在院日数に及ぼす効果を検討した。【対象及び方法】対象は、開心術および冠動脈バイパス移植術を施行した39症例。術後の食欲不振症状の有無により群分けし、食欲不振群に対して亜鉛入りゼリー (Zn : 23mg / day) を付加した。一方、術後の食欲不振を認めなかった症例を対照群とした。術前・術後1日目および退院時に血清亜鉛値を測定し、両群における血清亜鉛値の術前からの推移と在院日数を比較検討した。【結果】術後食欲不振群に対し経口的に亜鉛を付加することで、血清亜鉛値は対照群と同等に推移し、食欲不振症状は改善した。平均在院日数は対照群と同程度であった。【結論】周術期食欲不振症例への亜鉛付加は、食欲の回復を認める可能性が示唆され、血清亜鉛値の低下を防ぎ、長期在院期間の防止に期待がもてるものと考えられた。

  • 松尾 晴代, 吉村 芳弘, 石崎 直樹, 上野 剛
    2016 年 31 巻 5 号 p. 1141-1146
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/20
    ジャーナル フリー

    【目的】急性期病院高齢患者における摂食嚥下障害スクリーニング質問紙票 EAT-10 (以下 EAT-10) で評価した嚥下障害の実態ならびに、嚥下障害と低栄養との関連性を明らかにする。【対象及び方法】2015年3月から7月の間に急性期病院に入院した高齢者103人 (平均年齢80±8歳、男性45人) を対象とした横断研究である。EAT-10を用いて嚥下障害を評価し、栄養状態との関連性について相関の解析および多変量解析を行った。【結果】対象者の26.2%が EAT-10で3点以上の評価となり、嚥下障害が示唆された。MNA®-SFでの評価では低栄養を13人 (12.6%) に認めた。多変量解析では EAT-10で評価した嚥下障害は栄養状態の独立した関連因子であった (Beta -0.393. p<0.001) 。【結論】急性期病院入院高齢者の約四分の一に嚥下障害を認め、嚥下障害は栄養障害と関連していた。EAT-10が3点以上の高齢者は嚥下評価と同時に栄養評価を行うべきである。

症例報告
  • 大野 健次, 本田 圭, 山﨑 貴子, 見砂 知子, 松崎 律子, 皆川 明美, 松本 奈緒子, 横川 紗枝子, 小島 直子, 前 幸穂
    2016 年 31 巻 5 号 p. 1147-1149
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/20
    ジャーナル フリー

    意識障害で発症し、低ナトリウム血症を契機として NSTが診断した ACTH単独欠損症の一例を経験した。症例は精神疾患のある60歳代男性で入院1か月前頃から食欲がなく20XX年 X月 X日散歩中に全身の脱力あり、当院に救急搬送された。入院後食事摂取不良が続き意識障害もすすみ嚥下障害も著明になったために、入院37日目に胃瘻造設となり入院48日目に NST介入した。介入時の血清ナトリウム濃度は116 mEq/Lと著明に低下していた。頻回の低血糖と低ナトリウム血症が持続していることACTH測定感度以下と低値であることからACTH単独欠損症を疑い介入翌日からコートリル® 10mgの投与を胃瘻から開始した。コートリル® 投与5日程度経過したところで覚醒度も改善し、食事も自力で摂取可能となり入院72日目には胃瘻を抜去することができた。

    NSTにて低ナトリウム血症に遭遇することはたびたびあるがチームとして ACTH単独欠損症を鑑別診断として念頭においておくべきである。

  • 甲原 芳範, 管 聡
    2016 年 31 巻 5 号 p. 1150-1152
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/20
    ジャーナル フリー

    症例は82歳、女性。くも膜下出血後遺症で胃瘻より経管栄養中であった。褥瘡と貧血に対し、亜鉛含有薬剤、鉄剤、アスコルビン酸が投与されたが、貧血の改善は認められなかった。1年3ヶ月後に銅欠乏症と診断されたが、診断前の7ヶ月間の銅摂取量は推奨量を満たしていた。結果的にはそれ以前の銅摂取不足による体内銅プールの枯渇に加え、亜鉛含有薬剤、鉄剤、アスコルビン酸の継続使用による銅吸収障害が銅欠乏の遷延に関与したものと思われた。これらの薬剤を中止し経過観察したが、3ヶ月後も血清銅は改善せず、最終的には銅の経静脈的投与を要した。

    亜鉛含有製剤を使用中の銅欠乏症はよく知られており、本邦報告例は8例あるが、7例は胃腸手術既往例、腸瘻やPEG-Jの使用例、一日銅摂取量の不足を伴った症例で、亜鉛含有製剤の投与が銅欠乏の単独原因として考えられる症例は1例のみであった。本例も当初は亜鉛投与の関与を疑ったが、最終的には銅欠乏診断の7ヶ月以上前までの銅投与不足の影響が大きかった。また銅欠乏症の治療は体内銅プール量を考慮し、適切に銅補充を行うべきである。

施設近況報告
  • 北川 一智, 安藤 良平, 阪田 悠芙子, 桑名 綾子, 松岡 加世子, 野口 あさぎ, 高安 郁代, 友沢 明徳, 和田 智仁, 徳地 正 ...
    2016 年 31 巻 5 号 p. 1153-1156
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/20
    ジャーナル フリー

    京都九条病院は京都市南区にある歯科を標榜していない急性期病院である. 当院の栄養サポートチームは低栄養や摂食嚥下障害の患者の治療に2007年より地域の歯科医師会の機関である南口腔ケアセンターと連携して口腔ケアを行ってきた. 保険改正で周術期口腔機能管理料が新設されたことを契機に南口腔ケアセンターに依頼して2012年5月から消化器がん患者の周術期に専門的な口腔ケアを行っている. 以後, 2015年8月までに食道癌6名, 胃癌31名, 大腸癌71名, その他31名の計139名に対して周術期に口腔ケアを施行した. 導入後の効果の検討では, 背景因子が異なるものの肺炎罹患率, 術野感染罹患率, 術後在位日数の著明な改善が認められた. 2014年からは大腿骨頚部骨折の症例にも周術期口腔ケアを施行しているが, 27症例で術後肺炎は1名のみと良好な結果であった.

日本静脈経腸栄養学会認定地方研究会
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