抄録
50歳以上の現在修練継続中の剣道高段者13名の身体計測を行なうとともに, 神経筋協応能を重点とする運動能力検査ならびに筋力測定を行なった結果, 大要次のような所見を得た。
(1) 下肢周囲値には差がないが, 上肢周囲値は右側のほうが大きい。
(2) 屈腕力及び握力ともに60歳までは右のほうが強いが, 70歳代では左側が強い。
(3) 握力の前腕囲に対する割合は対照群より遥かに大きな値を示す。
(4) 打撃力, 踏み込み圧の微分値には全く加齢低下現象がみとめられない。
(5) 左右示指同時接触試験では, 顔面右向きの時の誤差が最小となる。
(6) いわゆる壮年体力テストの成績のほか持久的体力指標となる諸数値は年齢相応の低下を示しており, 少なくとも剣道鍛練によって高度に維持されていると考えられる所見は得られなかった。
以上のような諸事実から剣道を高齢まで継続修練することの効果は, いわゆる中枢神経系における運動機構を高度な状態に維持することに役立ち, 精神作用としてあらわれてくる大脳活動を高水準に保有するのにあつかっているものと推定した。