抄録
神経入口部に関する研究はこれまで多数行われているが, その大部分は肉眼的に検索した研究であるので, その部位は漠然としている.本研究ではまず筋全長の測定法に関して, 直接測定法によって得た値と間接測定法によって得た値とを比較し, また筋に入口する主要な神経の数と太さ (直径) を調べた.次に大腿の筋9筋を対象に, これら各筋の神経入口部の位置を明らかにし, 男女差, 年齢差の観点から検討を加え, さらにこれらの神経入口部の成績とさきに著者らが報告した筋腹 (筋の最大周囲部) の位置との関係についても検討した.
その結果, 次のような成績を得た.
(1) 筋の全長に関して, 直接測定値と間接測定値を, 10例の解剖学標本を用いて, M.sartorius, M.rectus femorisの2筋について調べたところ, 直接測定値を筋全長として筋腹を決定すると, 間接測定値よりM.sartoriusでは1.0%, M.rectus femorisでは2.5%筋起始部より遠位の位置が筋腹の位置になることがわかった.
(2) 筋に入口する主要な神経の数とその太さを21例の解剖学標本で調べたところ, 大腿前面の筋ではM.sartoriusが1本 (1.6mm) , M.rectus femorisが2本 (1.6mm) , M.vastus medialisとM.vastus lateralisはともに2本 (2.4mm) であった.大腿内側の筋ではM.gracilisが1本 (1.8mm) , M.adductor longusが1本 (1.7mm) であった.さらに大腿後面の筋ではいずれも2本でその太さは, M.biceps femoris: caput longumが2.4mm, M.semitendinosusが2.5mm, M.semimembranosusが2.6mmであった.
(3) 間接測定法によって41例の解剖学標本について大腿各筋の神経入口位置を調べたところ, 大腿前面の筋ではM.sartoriusが筋起始部から21.4%, M.rectus femorisが14.9%と25.5%, M.vastus medialisが22.6%と39.3%, M.vastus lateralisが17.0%と35.1%の位置にそれぞれ神経入口が認められた.また大腿内側の筋では筋起始部からM.gracilisが22.3%, M.adductor longusが44.7%の位置に入口していた.さらに大腿後面の筋の神経入口部は, 筋起始部からM.bicepsfemoris: caput longumが22.1%と38.6%, M.semitendinosusが15.5%と43.0%, M.semimembranbsusが46.7%と61.7%であった.しかしながら神経入口部の位置に関する男女差, 年齢差はみられなかった.
(4) 最も太い神経入口部 (第1及び第2神経入口部のいずれか) と筋腹の位置を比較すると, M.sartorius, M.rectus femoris, M.vastus lateralis, M.gracilis, M.bicepsfemoris: caput longum, M.semitendinosus, M.semimembranosusの各筋では約3~7%の相違であり, M.vastusmedialis, M.adductor longusでは約20%の位置の違いがみられた.
(5) 以上のような解剖学的に調べた神経入口部と生体におけるMotor pointsとの相違についても若干の議論をした.