抄録
血管造影にて下行性側副血行路の形成過程とその血行動態の変化を観察し得た10症例について解析した.1)3例で径8~14mm大の脾(胃)腎短絡路が4年8か月以内に形成され,うち2例で上腸間膜静脈血流の盗流現象を認め,全例で肝合成能の低下を認めた.2)短絡路を有するも上腸間膜静脈血流の盗流現象を認めなかった4例のうち,3例で2年5か月以内に上腸間膜静脈血流の盗流現象と短絡路の拡張,門脈本幹径の狭小化を認め,うち2例で肝合成能の低下を認めた.3)短絡路を有し,かつ上腸間膜静脈血流の盗流現象を認めた3症例では,その後さらに門脈本幹径の狭小化を認め,経年的に肝萎縮,肝不全を招いた.すなわち,1)下行性側副血行路が短期間に形成・拡張する症例が存在すること,2)短絡路の拡張に伴い上腸間膜静脈血流の盗流現象と門脈本幹径の狭小化,肝合成能の低下が生じ得ること,3)上腸間膜静脈血流の盗流現象を伴う短絡路の存在は,その後経年的に肝萎縮と肝不全を引き起こし得ることが明らかとなった.