2023 年 29 巻 4 号 p. 215-219
近年,非ウイルス性肝癌が増加傾向にはあるが,依然肝細胞癌患者の多くはウイルス肝炎やアルコール摂取,脂肪肝炎などによる肝障害を伴っていることが多く,肝切除の選択には肝予備能の制約や門脈圧亢進症状に留意が必要である.欧米では門脈圧亢進症状を伴う肝細胞癌は切除の適応とされないが,本邦を含むアジア諸国や一部の欧米の外科医は,門脈圧亢進症状に予防処置を行いながら安全に肝切除を実施している.しかし,術後短期・長期成績に関する報告は限られており,適応患者の選択には慎重にならざるを得ない.我々は過去に門脈圧亢進症状を伴う肝細胞癌304例において5年生存率約54%,合併症率28%,周術期死亡率1%であったことを報告したが,門脈圧亢進症状を有する患者に対する肝切除の適応は,さらに短期・長期成績の両面で検証が必要であり,処置と手術の益と害のバランスを慎重に考えながら治療方針を決定する必要がある.