2016 年 53 巻 3 号 p. 189-195
近年の強化された化学療法によってT細胞性急性リンパ性白血病(T-ALL)の治療成績は向上したが,初期治療に不応の症例や再発した症例の予後は依然として不良であり,新たな治療法の開発が望まれている.筆者らは,チロシンキナーゼTyrosine kinase 2(TYK2)がT-ALL細胞の生存維持に関与しているという知見をもとに,TYK2の安定化に関わる分子シャペロンであるHeat shock protein 90(HSP90)を標的とした治療薬の有用性を検討した.HSP90阻害剤であるNVP-AUY922(AUY922)は,複数のヒトT-ALL細胞株において増殖を抑制しアポトーシスを誘導した.AUY922はT-ALL細胞株でTYK2の分解を誘導してSTAT1を脱リン酸化するとともにBCL2の発現を抑制した.BCL2を遺伝子導入したT-ALL細胞株ではAUY922で誘導されるアポトーシスが抑制されたことから,BCL2の発現低下はAUY922によるアポトーシスの誘導に必須であると考えられた.また,更なる解析で,アポトーシス促進性BCL2ファミリー蛋白であるBIMとBADの発現誘導もAUY922によるアポトーシス誘導に関与していることが明らかになった.これらの結果は,HSP90阻害剤がT-ALLの新たな治療薬になりうる可能性を示唆している.