2017 年 54 巻 3 号 p. 229-235
近年,がん医療は,原疾患に対する治療に加え,晩期合併症の低減化などサバイバーシップの質の向上を意識した医療対応が求められる.特に思春期・若年成人(AYA世代)における妊孕性温存は重要な課題である.当科では思春期以降で不妊リスクの高い治療を予定する患者には診断確定後,本人に病名・病態説明を行った後に,妊孕性温存について情報提供を行い,希望に従い連携先である生殖医療実施施設に紹介している.今回,2006年2月から2015年11月に当科初診の思春期以降で不妊リスクの高い治療を予定する患者のうち,生殖医療実施施設を受診した17例(男:女=15:2;15–24歳)を対象とし後方視的検討を行った.疾患別では,急性白血病6例,リンパ腫4例,骨・軟骨肉腫4例,横紋筋肉腫2例,髄芽腫1例であった.化学療法,放射線療法開始前に採取施設を受診できたのは17例中13例で,リンパ腫,固形腫瘍が多かった.治療開始後に保存を行った4例はいずれも急性白血病であった.男性は15例中12例で精子保存が可能であった.女性はリンパ腫の1例でカウンセリングの結果,生殖細胞の保存は行わなかった.髄芽腫の1例は不妊高リスク治療が確定した時点で情報提供を行い卵巣組織を凍結保存した.AYA世代がん患者の妊孕性温存には,予定治療の不妊リスクに基づき適切な時期に情報提供を行うことと,本人の意思を尊重した上でがん生殖医療実施施設へ迅速に紹介することが,重要であると考える.