日本小児血液・がん学会雑誌
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シンポジウム4: 小児の血栓症
先天性第V因子異常症“Factor V Nara”
野上 恵嗣
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2018 年 55 巻 2 号 p. 123-127

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抄録

凝固第V因子(FV)は向凝固機能を有し,本因子欠乏は出血症状を呈する.しかし抗凝固機能も有することが明らかになり,凝固機序の概念に大きな転換がおこり,現在では血栓症の原因の一つに挙がる.代表的な疾患として,活性型プロテインC(APC)によるFV開裂部位の点変異(R506Q)によりAPCレジスタンス(APCR)を呈するFVLeidenである.FVLeidenは,Caucasianに頻度が高いが,日本人を含むnon-Caucasianの報告はない.またFV異常症に起因するAPCRや血栓症は本邦に存在しないとされていた.しかし我々は,血漿FV低下を示すも反復する深部静脈血栓症(DVT)を呈する若年症例を経験した.本患者はFV遺伝子W1920R点変異を有し,本変異がAPCR関連血栓性素因であることを初めて報告した(FVNara).FV-W1920Rの易血栓機序として,APC惹起FVa不活化と,APC惹起FVIIIa不活化におけるFV補因子機能の両障害によりAPCRを惹起することが解明された.FVNaraの報告以来,本邦でDVT発症のAPCR関連FV分子異常症家系が報告されている.従って未解明のFV関連血栓症の症例がさらに存在するかもしれない.今後FV分子機能の詳細な研究や血栓症症例の集積,血栓症発症の病態解明はDVT発症の制圧に繋がることが期待される.

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© 2018 日本小児血液・がん学会
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