胎児や新生児の頭頸部に発生する胚細胞腫瘍は,腫瘍が巨大になると気道狭窄を来すため,出生後に致死的な経過をたどることがある.われわれは,胎児・新生児の上気道周囲に発生する胚細胞腫瘍(以下,本症)の治療経験から,本症の治療手段と問題点について検討した.対象は1989年から2018年までの期間に当院で経験した本症10例とし,臨床データを後方視的に検討した.診断は上顎体7例,頸部奇形腫3例であった.腫瘍の発生部位は前頸部3例,咽頭3例,硬口蓋2例,鼻中隔1例,頭蓋底1例であった.病理組織診断は成熟奇形腫5例,未熟奇形腫5例であった.非出生前診断症例4例は全例が成熟奇形腫で生存退院した.出生前診断は,未熟奇形腫の5例と成熟奇形腫の1例になされた.出生前診断された6例中2例は,胎児・新生児の要因により死亡した.残る4例は出生時の気道確保が困難であると予想されたためEXITを施行し,頸部奇形腫1例を除く3例で気道確保に成功した.EXITで気道確保に成功して腫瘍切除できた2例が生存退院した.胎児・新生児の上気道周囲に発生する胚細胞腫瘍症例において,EXITでの気道確保は有効な手段である.しかし救命には,気道確保の方法だけでなく,出生直後の治療計画を予め検討しておくことも肝要である.