日本小児血液・がん学会雑誌
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シンポジウム6: 固形腫瘍における基礎医学の新展開
トランスポゾンによる悪性腫瘍の新しい分類の可能性
~神経芽腫ステージ4Sに着目して~
山田 思郎伊東 潤平早野 崇英中岡 博史木村 哲晃杉本 竜太望月 博之井ノ上 逸朗
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電子付録

2019 年 56 巻 3 号 p. 293-303

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抄録

トランスポゾン(Transposable Element: TE)はゲノム内を転移する能力を持つDNA配列で,ヒトゲノムに散在し,ほぼ半分を占める.TEは転移により遺伝子を破壊するなど負の側面もあるが,転写因子結合部位(Transcription Factor Binding Site: TFBS)を持っているため,近傍遺伝子のエンハンサーとしての性格も持ち,遺伝子ネットワークの一部となっている.TEのTFBSは大量にゲノムに散在しているため,細胞機能に合わせてフレキシブルに使われ,ゲノムの柔軟な環境適応に寄与している.活動性のあるエンハンサーは転写されてRNAになるが,TE由来のRNAもエンハンサー機能を反映していると思われ,細胞の性質を見る一つの手段となる.

神経芽腫(Neuroblastoma: NB)にはステージ4S(4S)という自然消退する一群がある.予後の悪いステージ4(st4)との比較研究はNBの病態や治療を考える上で重要である.遺伝子変異の少ないNBでは,ゲノム機能の破綻を検出するためには遺伝子以外の多角的視点での評価が必要である.我々はTE発現を用いてst4と4Sを比較し,NBの性質が反映されることを示した.今後,TE発現がどのような意味を持ち,臨床像や治療反応性と関連するかの検討が必要であるが,種々の疾患で新しい細胞機能の指標になるであろう.

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© 2019 日本小児血液・がん学会
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