2019 年 56 巻 3 号 p. 319-324
はじめに:抗がん剤は抗腫瘍効果を有する一方で,催奇形性,生殖毒性,発がん性などが知られている.近年,抗がん剤を取り扱う医療従事者への抗がん剤曝露が問題となっており,日本がん看護学会,日本臨床腫瘍学会および日本臨床腫瘍薬学会合同の職業性曝露対策ガイドラインが策定された.小児がん患児の入院加療においては,日常的に患児家族が付き添い生活援助が行われているが,家族への曝露の実態は明らかではない.
方法:患者家族への抗がん剤曝露の実態を明らかにするために,シクロホスファミド(CPM)投与を受けた患児に付き添う家族,治療に関わった医師,看護師および他医療スタッフの尿,唾液におけるCPM濃度測定の他,環境曝露調査を実施した.本研究は九州大学医系地区部局倫理審査委員会にて承認を得ている.
結果:対象は大量CPM投与を受けた小児がん患児(乳幼児7名,学童・思春期8名)家族.乳幼児家族の尿から(192 ng/10 mL,0–1,510),学童・思春期家族から(0 ng/10 mL,0–58.4)のCPMが検出され,学童・思春期家族に比し,投与絶対量が少ないはずの幼児家族への曝露量が有意に多かった(p=0.005).医療者からは検出されず,唾液も同様の結果であった.患児沐浴後のお湯をはじめ,肌着,シーツからもCPMが検出され,患児体液,排泄物を介した曝露が明らかとなった.
結論:小児がん領域においては,医療者のみならず,家族や同室の他患児に対する健康被害を最小限に留めるために,患児年齢に応じた曝露対策を講じる必要がある.