急性リンパ性白血病(ALL)の中枢神経浸潤は重要な合併症の一つである.中枢神経浸潤を予防するため,抗癌剤の髄腔内投与や中枢神経移行性の高い抗癌剤による化学療法などが一般的に行われているにも拘わらず,一部の症例では治療中または治療後にALL細胞の中枢神経浸潤が認められる.また,ALLの中枢神経浸潤の多くは髄膜への浸潤であることはよく知られているが,その理由についてもよくわかっていない.このためALLの中枢神経浸潤のメカニズムの解明とメカニズムに基づいた新たな予防法の確立が必要である.今回我々は,ALLモデルマウスにおいてALL細胞が頭蓋骨または脊椎骨の骨髄内とクモ膜下腔を直接結ぶ血管が通過する骨内連絡孔を通って中枢神経に浸潤することを見出した.さらに,骨内連絡孔を通る血管の基底膜がラミニンに覆われており,ALL細胞はラミニンの受容体であるインテグリンα6を発現し,ラミニンを介して骨内連絡孔を通過することを示した.また,ALL細胞のインテグリンα6の発現はPI3Kδにより制御されており,PI3Kδ阻害薬がALLモデルマウスにおいて,ALL細胞の中枢神経浸潤を抑制することを確認した.これらのことから,ALL細胞は正常リンパ球とは大きく異なるメカニズムで中枢神経に浸潤することが明らかとなり,また,PI3Kδ阻害剤がALLの中枢神経浸潤の新たな予防薬となりえる可能性が示唆された.