2020 年 57 巻 2 号 p. 71-79
中枢神経(CNS)白血病は予後不良なだけでなく,発達途中にある小児患者では特に,治療による二次がん,成長障害,精神発達障害などの生活の質を大きく損ねる長期的な合併症が生じ得る.そのため,より侵襲や合併症の少ないCNS白血病特異的治療法の開発が小児白血病克服への喫緊の課題であるが,これまで治療標的となるようなCNS白血病細胞の特徴は明らかにされていなかった.我々は小児白血病臨床検体と免疫不全マウスを用いてPDXモデルを作成し白血病の病態解析を行なっている.臨床診断に用いられる各種検査にて,急性リンパ性白血病PDXモデルがヒトCNS白血病の病態を正確に再現していることを確認し,オミックス解析を用いた検討からCNS白血病細胞はBM白血病細胞よりも細胞周期が静止期に落ち込み,電子伝達系より解糖系にエネルギー代謝を依存するなど低酸素環境に順応した特徴を有し,VEGFAの発現が上昇していることを明らかにした.CNS白血病細胞は,造血細胞支持組織ではない過酷なCNS微小環境中で生存する上で低酸素領域での代謝・細胞周期的性質を獲得し,結果として白血病再発に寄与している可能性が示唆された.さらにはBevacizumabを用いたCNS白血病に対する新規治療戦略を示した.現在CAR-T細胞を用いた新たなCNS白血病治療戦略をNOGマウスモデルで検証しており,その知見も紹介する.