日本小児血液・がん学会雑誌
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57 巻, 2 号
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第61回日本小児血液・がん学会学術集会記録
シンポジウム1: 急性リンパ性白血病の中枢神経浸潤における新展開
  • 八尾 尚幸
    2020 年57 巻2 号 p. 61-70
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/03
    ジャーナル フリー

    急性リンパ性白血病(ALL)の中枢神経浸潤は重要な合併症の一つである.中枢神経浸潤を予防するため,抗癌剤の髄腔内投与や中枢神経移行性の高い抗癌剤による化学療法などが一般的に行われているにも拘わらず,一部の症例では治療中または治療後にALL細胞の中枢神経浸潤が認められる.また,ALLの中枢神経浸潤の多くは髄膜への浸潤であることはよく知られているが,その理由についてもよくわかっていない.このためALLの中枢神経浸潤のメカニズムの解明とメカニズムに基づいた新たな予防法の確立が必要である.今回我々は,ALLモデルマウスにおいてALL細胞が頭蓋骨または脊椎骨の骨髄内とクモ膜下腔を直接結ぶ血管が通過する骨内連絡孔を通って中枢神経に浸潤することを見出した.さらに,骨内連絡孔を通る血管の基底膜がラミニンに覆われており,ALL細胞はラミニンの受容体であるインテグリンα6を発現し,ラミニンを介して骨内連絡孔を通過することを示した.また,ALL細胞のインテグリンα6の発現はPI3Kδにより制御されており,PI3Kδ阻害薬がALLモデルマウスにおいて,ALL細胞の中枢神経浸潤を抑制することを確認した.これらのことから,ALL細胞は正常リンパ球とは大きく異なるメカニズムで中枢神経に浸潤することが明らかとなり,また,PI3Kδ阻害剤がALLの中枢神経浸潤の新たな予防薬となりえる可能性が示唆された.

  • 加藤 格
    2020 年57 巻2 号 p. 71-79
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/03
    ジャーナル フリー

    中枢神経(CNS)白血病は予後不良なだけでなく,発達途中にある小児患者では特に,治療による二次がん,成長障害,精神発達障害などの生活の質を大きく損ねる長期的な合併症が生じ得る.そのため,より侵襲や合併症の少ないCNS白血病特異的治療法の開発が小児白血病克服への喫緊の課題であるが,これまで治療標的となるようなCNS白血病細胞の特徴は明らかにされていなかった.我々は小児白血病臨床検体と免疫不全マウスを用いてPDXモデルを作成し白血病の病態解析を行なっている.臨床診断に用いられる各種検査にて,急性リンパ性白血病PDXモデルがヒトCNS白血病の病態を正確に再現していることを確認し,オミックス解析を用いた検討からCNS白血病細胞はBM白血病細胞よりも細胞周期が静止期に落ち込み,電子伝達系より解糖系にエネルギー代謝を依存するなど低酸素環境に順応した特徴を有し,VEGFAの発現が上昇していることを明らかにした.CNS白血病細胞は,造血細胞支持組織ではない過酷なCNS微小環境中で生存する上で低酸素領域での代謝・細胞周期的性質を獲得し,結果として白血病再発に寄与している可能性が示唆された.さらにはBevacizumabを用いたCNS白血病に対する新規治療戦略を示した.現在CAR-T細胞を用いた新たなCNS白血病治療戦略をNOGマウスモデルで検証しており,その知見も紹介する.

  • 澤田 明久
    2020 年57 巻2 号 p. 80-84
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/03
    ジャーナル フリー

    【緒言】急性白血病の中枢神経系(central nervous system; CNS)再発に対する治療は,従来のモダリティを使い果たした状況下ではchallengingな課題である.【症例】10歳のときにmixed-phenotype acute leukemia with BCR-ABL1を発症した女児.寛解導入療法に抵抗性,dasatinibの効果も一過性で,父親から骨髄移植(bone marrow transplantation; BMT)を施行した.12歳時にCNS再発および骨髄分子再発を来した.CNSに頭蓋脊髄照射を施行,さらに骨髄中の微小残存病変に,母親(非BMTドナー)末梢血由来のリンパ球を静脈内投与して分子寛解を得た.13歳時にCNS再々発した.母親リンパ球髄注療法を開始した.初回投与の1週間後,髄液中の細胞は髄注した母親由来ではなく父親型リンパ球に置換され,BCR-ABL1陽性白血病細胞は消失しており,随伴症状も消失した.効果は2か月持続した.【考察】髄液中の父親型リンパ球は活性化しており,患者の末梢血から動員されたと推察した.本髄注細胞療法にはサイトカイン療法的な効果もあり,移植ドナー由来リンパ球の白血病細胞に対するアナジーを克服しうる可能性も考えられた.【結語】本法は有効かつ安全に施行できた.細胞免疫療法の意義を考える上で非常に示唆に富む知見が得られた.

シンポジウム2: 小児脳腫瘍における分子診断の新展開
  • 中野 嘉子
    2020 年57 巻2 号 p. 85-91
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/03
    ジャーナル フリー

    受容体チロシンキナーゼをコードするALKROS1NTRK1NTRK2NTRK3が形成する融合遺伝子は,様々ながん腫で報告されており,分子標的薬の研究や臨床応用も進められてきた.近年,これらの融合遺伝子が小児脳腫瘍においても比較的高頻度に検出されることが明らかにされた.特に乳幼児の神経膠腫において頻度が高いが,他の稀な病理組織型の症例からの報告も増えつつある.また2019年には本邦でもNTRK阻害剤が小児固形腫瘍に対しても使用可能となった.これまでの知見をふまえた上で,今後,さらなる分子標的薬の臨床応用が求められると同時に,融合遺伝子を有する症例の病理像や臨床像,分子標的薬の適応となる症例の選択や最適な使用法,耐性化の機構やその対策が明らかにされていくことが求められる.

シンポジウム3: 小児がんの国際共同臨床試験の現状と課題
  • 大植 孝治
    2020 年57 巻2 号 p. 92-95
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/03
    ジャーナル フリー

    腎明細胞肉腫CCSK,腎ラブドイド腫瘍RTK,再発腎芽腫など極めて希少な疾患では,臨床試験に必要な症例数を集積すること本邦単独では困難である.従って,これら超希少疾患の治療研究を行うには国際的な多施設臨床試験に参加することが必要である.日本ウィルムス腫瘍研究グループ(JWiTS)はこれまで米国National Wilms Tumor Study (NWTS)-5に準じた臨床試験を行い,米国の臨床試験結果と遜色ない治療成績が示された.その後米国の臨床試験はChildren’s Oncology Group(COG)に引き継がれ,低・中・高リスクと両側性の4つのプロトコールに分かれて臨床試験が開始されている.JWiTSの研究は今まで米国の臨床試験に追従する形で行われてきたが,米国COGの新しい治療研究では1pと16qのLOHが層別化に用いられ,リスク別に細分化されるなど本邦の事情に合致しない点が問題となる.一方昨年から開始されたSIOPのUMBRELLAプロトコールは小児腎腫瘍を包括的に扱う形の臨床試験で特定臨床研究として本邦で行うのに適しており,多数の国から参加しやすい形で実施される.また本邦と欧州の腎芽腫の生物学的な相違を明らかにすることも期待できるため,JCCGの腎腫瘍委員会では今後SIOPのUMBRELLAプロトコールに参加する方向で準備を進めている.

  • 瀧本 哲也, 高橋 聡子
    2020 年57 巻2 号 p. 96-100
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/03
    ジャーナル フリー

    小児固形腫瘍のような希少疾患の研究において,国際共同研究は重要な手段である.現在,JCCGの固形腫瘍分科会でも肝腫瘍,腎腫瘍,頭蓋外胚細胞腫瘍を対象とした3つの国際共同研究に取り組んでいる.国立成育医療研究センターの固形腫瘍データセンターでは現在これらの研究の支援を行っているが,研究実施体制だけでなく,臨床データ収集や有害事象報告等において本邦の臨床試験とは異なる固有の手順に対応する必要があるほか,特に米国との臨床試験では参加するための施設や研究者の資格の取得や管理において厳密なルールに従う必要があった.また,本邦に期待される症例数達成のための協力施設の確保や,対象がAYA世代にも発症するがんの場合には成人領域のグループとの協働など,本邦での実施体制の整備が必要な場合もあると思われた.一方,米国から求められた臨床情報のデータセンターでの一括代理入力には問題も多く,今後の共同研究のあり方に関する課題と思われる.また現在はまだ大きな問題となっていないが,海外との情報収集や情報提供,あるいは本邦の臨床研究法との関連で今後問題が生じる可能性も否定できない.国際共同研究支援については,このように協働する海外の研究グループや臨床研究の性格等による差が大きいこともあって,データ管理をはじめとする支援について当面は経験を積んで問題点を洗い出し,その解決を模索する段階が続くものと考えられる.

教育セッション5: 脳腫瘍
  • 山崎 夏維, 原 純一
    2020 年57 巻2 号 p. 101-110
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/03
    ジャーナル フリー

    2016年のWHO分類改定で統合診断が導入され,小児脳腫瘍の診療は大きな変革の時期を迎えている.小児グリオーマは成人で見られるIDH変異などの異常をほとんど有さず,BRAF遺伝子異常やNTRK融合遺伝子などの治療標的となる遺伝子異常が高率に検出される.また,低頻度ながら免疫チェックポイント阻害剤が奏効する一群も存在する.がんパネル検査が保険診療になったことで,今後は標的となる遺伝子異常に応じた治療開発が期待される.髄芽腫では標的となる異常はわずかであるが,詳細な遺伝子解析により以前よりも正確な予後予測が可能となり,遺伝子異常を予後因子に加えた層別化治療の開発が加速している.海外では高線量の全脳全脊髄照射を含む放射線治療が髄芽腫治療の中心だが,日本小児脳腫瘍コンソーシアムが実施した臨床試験では,軽減した全脳全脊髄照射線量にも関わらず,大量化学療法を追加した高リスク髄芽腫で標準リスクを上回る治療成績が得られている.過去の治療開発のエビデンスを踏まえた上でのサブグループ毎の治療の最適化が今後の課題である.また,特異的な遺伝子異常の同定により近年報告の増えている非定型奇形腫瘍ラブドイド腫瘍では標準治療の開発が求められている.放射線治療や髄注化学療法の有効性が示唆されているものの髄芽腫と同様の全脳全脊髄照射を中心とした治療法の限界が明らかとなっており,独自の治療戦略の開発が必要である.

要望演題1: 分子標的薬
  • 藤田 直人
    2020 年57 巻2 号 p. 111-115
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/03
    ジャーナル フリー

    受容体型チロシンキナーゼであるFMS-like tyrosine kinase 3(FLT3)の活性型変異は急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia, AML)においてみられる遺伝子変異の1つであり,特に塩基配列の重複変異であるinternal tandem duplication(ITD)は予後不良因子とされる.今回,難治性FLT3-ITD陽性小児AMLに対して,化学療法とgilteritinibを組み合わせた治療を行い奏功したので報告する.患者は13歳の男児で,FLT3遺伝子変異陽性AMLと診断され,寛解導入療法としてcytarabine,mitoxantrone,etoposideによる治療を施行したが,その後の骨髄検査では芽球を90%認め無効であった.そのため,2コース目の抗がん剤による寛解導入療法に引き続いてgilteritinib 80 mg/d投与を行った.治療は奏功し骨髄検査で完全寛解が確認された.その後さらに化学療法に引き続きgilteritinib投与を行う治療を2クール施行し完全寛解は維持された.この間grade 3–4にあたる敗血症と帯状疱疹をきたしたが,それまでの治療経過よりgilteritinib投与が関連する有害事象とは考えられなかった.治療に関連した有害事象としては,肝機能異常を認めたが間もなく軽快した.分子生物学的寛解を維持したままDR 1-locus allele mismatch非血縁者間末梢血幹細胞移植を行い,移植後1か月の骨髄検査では99%ドナータイプでFLT3-ITD陰性が維持されていることが確認された.難治性FLT3遺伝子変異陽性小児AMLに対して,化学療法とgilteritinibを組み合わせた治療が安全かつ有効であることが示され,同様の患者への治療において期待がもたれる.

  • 山道 拓, 松本 真司, 奥山 宏臣, 菊池 章
    2020 年57 巻2 号 p. 116-120
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/03
    ジャーナル フリー

    肝芽腫は日本国内では年間30~40名の頻度で発生する希少がんで,発生原因は不明である.肝芽腫の治療において,手術で切除することができないことや,化学療法では重篤な副作用が問題となることがある.そのため,肝芽腫に対して副作用が少なく,良好な治療効果の得られる新規の分子標的治療薬の開発が期待されている.我々は,肝芽腫において約90%の高頻度で遺伝子変異が生じるβ-cateninによって活性化されるWntシグナルの下流遺伝子を網羅的に探索して,GREB1Growth Regulation By Estrogen In Breast Cancer 1)を同定した.GREB1は,肝芽腫の約90%の患者において過剰発現し,GREB1を発現する肝芽腫細胞株でGREB1の発現を抑制すると,細胞の増殖が阻害され,細胞死が誘導された.また,GREB1は核内でTGFβシグナルの転写因子であるSmad2/3と結合し,Smad2/3と転写共役因子p300の相互作用を阻害する結果,TGFβシグナルを抑制することで肝芽腫の増殖を促進した.さらに,肝芽腫の治療薬開発を目的として,GREB1の発現を抑制するための修飾型アンチセンス核酸(ASO)を大阪大学大学院薬学研究科生物有機化学分野との共同研究で開発した.肝芽腫細胞を同所移植したマウスにGREB1 ASOを全身投与したところ,GREB1の発現と腫瘍形成を抑制した.本研究は肝芽腫の新たな分子標的治療薬の開発に貢献することが期待される.

要望演題2: 新規治療
  • 吉田 秀樹, 山本 正人
    2020 年57 巻2 号 p. 121-125
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/03
    ジャーナル フリー

    PAX3-FOXO1(以下,P3F)は,胞巣型の横紋筋肉腫(以下RMS)の約60%の患者に認められる疾患特異的な融合遺伝子で,陽性例は予後不良である.既報によると,骨格筋の分化を司るmyogenin(MYOG)のプロモーター領域(以下,pMYOG)のMEF2結合部位の変異(以下mMEF2)は,P3FによるMYOGに対する転写活性を傷害しない.これを利用し,本研究ではP3F陽性細胞に特異性の高い,pMYOG制御性腫瘍溶解性アデノウイルス(以下,M-OAd,野生型;M-OAd-WT,変異型;M-OAd-m)を開発し,その有用性を検証した.2つのRMS細胞株(Rh30(P3F陽性),RD(P3F陰性)),と正常骨格筋細胞(SkMC)を使用した.M-OAd-WT,およびM-OAd-mはin vitroの実験において,Rh30を臨床使用可能な低濃度で殺傷したが,M-OAd-mはRDを殺傷するのに,M-OAd-WTより10倍高いtiterを要した.また,いずれのM-OAdもSkMCを殺傷しなかった.ヌードマウスを用いたin vivoの実験において,いずれのM-OAdもRh30由来の腫瘍の成長を有意に阻害し,腫瘍内において十分な拡散能を示した.これらの結果は,M-OAdがRMSに対して新たな治療選択肢となる潜在性を秘めていること,mMEF2存在がP3F陽性RMSに対する選択性を高め,安全性に寄与する可能性を示唆した.

原著
  • 山田 美沙恵, 坂口 大俊, 前村 遼, 吉田 奈央, 濱 麻人
    2020 年57 巻2 号 p. 126-131
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/03
    ジャーナル フリー

    プレドニゾロン(PSL)とデキサメタゾン(DEX)はいずれも急性リンパ性白血病(ALL)の治療において重要な役割を果たしているが,様々な合併症の誘因となる.我々は再寛解導入療法においてPSLまたはDEXを用いる2種類のALL治療プロトコールのステロイド関連合併症について比較検討した.2009年から2016年の期間に当科にて新規に前駆B細胞性ALLと診断された56例を対象とした.2011年までに診断された26例(26コース,ALL02群)に対してはPSL(40 mg/m2/日 2週間)を,2012年以降に診断された30例(56コース,B12群)に対してはDEX(10 mg/m2/日 2週間)を使用する再寛解導入療法が施行された.診療録から再寛解導入療法中の症状や検査データを収集し評価した.解析の結果,B12群で,肝機能障害,高コレステロール血症,低タンパク血症,肥満,発熱性好中球減少症,および耐糖能異常の発生率が有意に高かった.高コレステロール血症に対するフィブラート製剤はB12群で多く使用されており,インスリン投与を要する耐糖能異常はB12群でのみ発生していた.PSLと比較してDEXを用いた再寛解導入療法では,ステロイド関連合併症の発生頻度が高く,積極的に予防や早期治療を検討すべきである.

  • 岩﨑 史記, 後藤 裕明
    2020 年57 巻2 号 p. 132-141
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/03
    ジャーナル フリー

    【緒言】ブスルファン(Bu)静注製剤の小児での安全性・有効性の検討の報告は少ない.当院でのBu静注例の安全性・有効性に関して検討した.

    【対象と方法】対象は2007年1月より2017年9月までに静注製剤を用いた移植症例83例.経口製剤使用例89例を対照とし,生着率,生存率,合併症を後方視的に検討した.

    【結果】観察期間中央値460日(5~3,355日),移植時年齢中央値は5歳11ヶ月(5ヶ月~16歳),男女比50:33.疾患の内訳は固形腫瘍44例,AML13例,ALL12例,MDS6例,悪性リンパ腫2例,造血障害2例,免疫不全症2例,その他2例.移植ソースは骨髄29例,末梢血幹細胞43例,臍帯血18例で同種移植40例,自家移植50例,骨髄破壊的前処置は77例.3年粗生存率は53.0%[95%CI: 39.3–66.0](対照59.1%[46.8–68.7%]p=0.34),生着は79例で得られ,27例で1日1回投与法が選択された.主な合併症は間質性肺炎3例(3.3%),肝類洞閉塞症候群13例(14.4%),中枢神経合併症4例(4.4%),閉塞性細気管支炎/気質化肺炎6例(6.7%)で対照群と同等だった.また生着率・合併症は静注群と対照,1日1回群と4回群の比較でいずれも同等だった.

    【結語】小児において静注製剤の有効性,安全性は経口製剤と同等だった.1日1回投与法は同様の安全性と有効性が示唆された.

  • 山地 亜希, 山崎 夏維, 東方 美和子, 仁谷 千賀, 岡田 恵子, 藤崎 弘之, 原 純一
    2020 年57 巻2 号 p. 142-149
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/03
    ジャーナル フリー

    LTFU外来に通う小児がん経験者のニーズを明らかにし,必要な支援を検討するために,2014年7月~2017年3月に当院のLTFU外来を受診した216名の診療録より相談内容を抽出し質的帰納的に分析した.困っていることについて相談をした経験者は167名(77.3%)であり,454件の相談内容は①小児がん治療後の身体症状への心配,②現在抱える心理的・社会的困難,③将来起こりうる症状や出来事への不安,④必要とする情報や支援の提供を希望,⑤小児がん以外の事柄への気掛かり,に分類された.疼痛や易疲労など日常生活に支障をきたしている身体症状の相談が最も多く,心理社会面では精神不安定や病名未告知についての相談が多かった.LTFU外来に対するニーズは,身体症状に対する適切な治療介入,心理・社会的問題の共有と多職種による継続支援,将来に対する不安の軽減,発達段階やライフイベントに応じた予測的な支援,一般小児科としての役割の5点であり,小児がん経験者の疾患や経過,抱えている問題や発達段階,ライフイベントにより状況は個々に異なるため,具体的に問題を予測した悩みのスクリーニングと,多職種による適切なタイミングでの継続的な支援が重要であることが示唆された.

  • 永吉 美智枝, 斉藤 淑子, 足立 カヨ子, 高橋 陽子, 谷川 弘治
    2020 年57 巻2 号 p. 150-156
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/03
    ジャーナル フリー

    本研究は,小児がん経験者が復学後の成長発達過程における生活上で経験した困難を明らかにし,心理社会的フォローアップのあり方を検討することを目的とした.18歳以上26歳未満の小児がん経験者14名を対象に半構造化面接を行った.分析の結果,94個のコードから37のサブカテゴリー,15のカテゴリー,6の大カテゴリーが生成された.困難を構成する要素は,学校生活と就労に関連していた.小児がん経験者には,[化学療法後の体力低下による長期間の授業の欠席]など【学校生活の大変さ】が生じていた.【友人関係・コミュニケーションの難しさ】においては,[体力低下や治療により友達との集団行動ができないもどかしさ]を感じ,【入院前の自分との違いに対する混乱・葛藤】が生じていた.また,【学習の遅れ】を取り戻すには時間を要し,治療による出席日数の少なさから【進学上の不利】を生じていた.【身体・心理的晩期合併症】は修学や成人以降の心理へ影響を及ぼしていた.小児がん経験者が学校生活を通して自己概念を再構築し,新しい役割を探求するプロセスにおける心理社会的問題について,教員と医療者が相談する体制をつくり,継続的に支援する重要性が示唆された.

症例報告
  • 尾関 翔子, 山下 大紀, 佐治木 大知, 前村 遼, 坂口 大俊, 吉田 奈央, 濱 麻人
    2020 年57 巻2 号 p. 157-161
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/03
    ジャーナル フリー

    症例は6歳男児で咳嗽と呼吸苦を主訴に来院した.コンピュータ断層撮影で前縦隔腫瘤と左胸水貯留が認められ,胸水穿刺検査でTリンパ芽球性リンパ腫と診断された.寛解導入療法を行い寛解に入ったが5コース目の化学療法後の陽電子放射断層撮影にて前縦隔に異常集積が指摘された.前縦隔腫瘍生検によって再発が確認され,染色体検査でt(9;17)(q34;q23)染色体異常が確認された.腫瘍はICE(ifosfamide, cisplatin, etoposide)療法やnelarabineに対して治療抵抗性を示し,骨髄にも浸潤した.非寛解状態でmelphalan 180 mg/m2および全身放射線照射12 Gyによる骨髄破壊的前処置後に臍帯血移植を行ったが寛解は得られず70日目に原病死した.本染色体異常に関連する予後不良な経過を考慮すると,t(9;17)に関与すると考えられる融合遺伝子を同定し,分子標的治療を含めた新しい治療法の開発が求められる.

  • 野末 圭祐, 塩田 光隆, 中西 祐斗, 石嶺 里枝, 木村 美輝, 渡辺 健, 嵯峨 謙一, 遠藤 耕介, 佐藤 正人, 秦 大資
    2020 年57 巻2 号 p. 162-167
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/03
    ジャーナル フリー

    1か月前から両側の足底部に間欠的しびれおよび疼痛を認めた11歳女児.両側上肢のしびれや下痢も出現したため受診した.胆汁性嘔吐を認め撮影した腹部単純CTで,後腹膜を主座とする広範な腫瘍と腫瘍による尿管閉塞を認めた.K 8.8 mEq/L,Cre 16.8 mg/dLと急性腎不全を認め緊急に血液透析,翌日に両側尿管ステント留置術を行い腎機能は急速に改善した.画像検査でL4からS1の脊柱管へ腫瘍が浸潤しており,後腹膜腫瘍生検結果も含め成熟B細胞性リンパ腫(stage IV)と診断した.JPLSG B-NHL-14プロトコールを用いて治療を開始し1週間で神経症状は消失した.現在治療終了後12か月で寛解を維持し,左腎機能低下は持続するものの血清Creは正常を維持している.発症時より急性腎不全を呈する後腹膜・腎原発の小児悪性リンパ腫・白血病の報告では,急性期を乗り越えると腎機能が改善するものが多く疾患予後も良好となっており,迅速な初期対応が重要と考えられた.

  • 阿部 仁美, 浜田 聡, 屋冝 孟, 屋良 朝太郎, 上原 朋子, 屋良 朝雄, 玉城 昭彦, 佐辺 直也, 新垣 京子, 百名 伸之, 中 ...
    2020 年57 巻2 号 p. 168-172
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/03
    ジャーナル フリー

    症例は生来健康な1歳男児.主訴は咳嗽,発熱,多呼吸.レントゲン所見から横隔膜ヘルニアが疑われ紹介となり,血液検査および画像検査にて感染を合併したCPAMと診断された.抗菌薬投与により症状は改善したが,その後症状が再燃したため肺部分切除術を施行した.病理検査で胸膜肺芽腫の診断に至り,切除断端は陰性であった.腫瘍細胞の遺伝子解析でDICER1遺伝子にホモ変異が検出されたが,生殖細胞変異は認めなかった.術後化学療法(IVADo療法)を施行し,終了後9か月時点で寛解生存中である.胸膜肺芽腫は稀な予後不良の悪性腫瘍であり,一部では様々な悪性疾患に関連するDICER1遺伝子変異を有する.本症例より嚢胞性肺病変の鑑別診断として,胸膜肺芽腫を念頭に置くべきである.また今後再発や遠隔転移の可能性も含め,長期的なフォローを要する.

  • 大塚 康平, 山崎 明香, 水野 克己, 山本 将平
    2020 年57 巻2 号 p. 173-177
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/03
    ジャーナル フリー

    免疫グロブリン大量療法(IVIG)後の川崎病回復期に免疫性血小板減少症(ITP)を合併した2例を経験した.いずれも川崎病と診断し,IVIG,アスピリン内服を開始した.川崎病症状は速やかに改善したが,それぞれ第13病日,第21病日に血小板減少を認めた.いずれもITPと診断し,異なる種類の免疫グロブリンを用いて再度IVIGを施行した.治療反応良好であり速やかに血小板増加を認めた.川崎病回復期にITPと診断された症例は極めて稀であり,治療としてIVIGを選択した報告はない.本2症例はいずれもITPに対し再度IVIGを施行し,速やかな症状の改善が得られた.IVIG後の川崎病回復期に合併したITPに対する治療としてIVIGは選択肢の1つとなりうることが示唆された.しかし,その際には血栓症の危険性を考慮し,使用には慎重を期するべきであると考えられる.

委員会報告
  • ―JPLSG施設調査より 第2報―
    加藤 陽子, 森 尚子, 新小田 雄一, 大曽根 眞也, 嘉数 真理子, 佐野 弘純, 篠田 邦大, 矢野 道広, 石田 裕二, 斎藤 雄弥 ...
    2020 年57 巻2 号 p. 178-184
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/03
    ジャーナル フリー

    背景:わが国での小児がん患者に対する疼痛管理の現状は知られていない.

    方法:2015年10月,日本小児白血病リンパ腫研究グループ支持療法委員会より参加155施設の実務担当者へ2016年3月末を回答期限とし,疼痛管理者,疼痛管理の現状,改訂WHO疼痛管理指針(以下改訂指針),オピオイド(以下OP),鎮痛補助薬,専門的治療に関してweb調査を施行した.

    結果:81施設(52%)より有効回答が得られ,98%の施設で小児血液腫瘍医が疼痛管理を行っていた.軽度疼痛に対する第一選択薬は血管確保に関わらずアセトアミノフェン経口投与で,中等度以上の疼痛では強OP使用とペンタゾシン使用に分かれた.改訂指針の周知・実施率は37%だった.血管確保がない場合の強OP第一選択はモルヒネ(M)速放製剤内服(48%),フェンタニル(F)貼付(47%)で,血管確保下ではM静注(80%),F静注(68%)であった.神経障害性疼痛にプレガバリン(25%),骨痛にステロイド(20%),専門的治療として放射線照射(36%),神経ブロック(7%)が行われていた.

    考案:本邦における小児がん患者に対する疼痛管理は小児血液腫瘍医が主に実施し,疼痛管理の目安はなく,off-label薬を使用せざるを得ない現状が明らかとなった.改訂指針を理解しつつ患者の病態や現状に応じた適正な疼痛管理の実施に向け,今後の学術的検討や標準化が必要である.

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