2020 年 57 巻 3 号 p. 264-270
抗菌薬適正使用支援プログラム(antimicrobial stewardship program: ASP)は,薬剤耐性菌対策として有効である.がん患者や造血細胞移植患者においてもASPは重要であるが,定まった方策はなく,特に小児においては報告も限られている.当院におけるASPの効果を検証する目的で,2012年度から2016年度までの5年間の当院小児がんセンターの抗菌薬使用延べ日数(days of therapy: DOTs),DOTs/1,000患者日数を後方視的に検討した.2012年度から2016年度にかけて入院患者,延べ入院患者日数,造血細胞移植患者数は経時的に増加傾向であった.カルバペネムは,処方機会数は経年的に減少し,DOTs/1,000患者日数は76から40へ有意に減少した.抗緑膿菌薬全体およびグリコペプチド系薬では,経年的に処方機会数は増加傾向であったが,DOTs/1,000患者日数は有意に減少していた.これにより年間約500万円の医療費の削減が得られたと考えられた.対象期間において全死亡者数と感染症関連死亡者数は明らかな変化は認めなかった.当院で行っている小児がん専門医と小児感染症専門医が協力して行うASPは,小児がんおよび造血細胞移植患者において安全にかつ有効に広域抗菌薬の使用量を減少させることができたと考えられた.