日本小児血液・がん学会雑誌
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シンポジウム3: 小児がんに対する免疫療法の展開
小児がんに対するWT1蛋白を標的としたがん免疫療法
橋井 佳子
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2021 年 58 巻 3 号 p. 208-212

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抄録

小児がんは発生と深くかかわり,免疫原性の高い抗原が脱落もしくは発現せず,自己に近くなることで免疫系からの監視を逃れていると考えられる.小児がんに対する免疫療法は自己由来抗原分子に対するCD8+ T細胞による免疫応答を活性化させることが重要である.Wilms tumor 1(以下WT1)蛋白は多くのがん患者で共通に発現するShared antigenのひとつで,正常臓器には発現しない,もしくは非常に限られた臓器に低発現している.我々は免疫学的な小児がんの特性を踏まえWT1蛋白を標的としたがんワクチン(WT1ペプチドワクチン)を難治性小児固形腫瘍患者を対象とした臨床試験をおこない,治療終了後の残存病変が少ない症例において良好な結果を得た.さらに非寛解期移植など同種移植後の難治性血液悪性疾患患者を対象とした臨床試験においても,良好な結果を得た.これらの臨床試験では免疫学的な反応すなわちWT1特異的キラーT細胞を検出しその割合の増減は臨床所見と一致した.今後,がんワクチン療法は有害事象が少なく安全であることから様々な免疫療法と組み合わされがん複合免疫療法の一員として用いられることが期待される.WT1蛋白を標的とした小児がんに対する免疫療法が有効であると考えるが,一方WT1ペプチドワクチンが皮内注射であるために強い痛みを伴う.このため現在,WT1蛋白を表出させたビフィズス菌を作成し経口がんワクチン製剤として開発を進めている.

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