日本小児血液・がん学会雑誌
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58 巻, 3 号
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第60回日本小児血液・がん学会学術集会記録
英語口演5: 新規治療・萌芽的研究
  • 笠原 靖史, 今井 千速
    2021 年58 巻3 号 p. 185-193
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/13
    ジャーナル フリー

    キメラ抗原受容体(CAR)遺伝子導入T細胞療法は新たに開発されたがん免疫療法で,近年目覚ましい発展を遂げた.CD19を標的とするCAR-T細胞療法(tisagenlecleucel)は再発・難治性のB細胞性の白血病やリンパ腫に著効し,海外に引き続いて本邦でも保険診療に認可された.しかし,急性骨髄性白血病(AML)や固形腫瘍に対して有効なCAR-T細胞療法は未確立で,腫瘍に特異的に発現しCAR-T細胞が攻撃対象とする適切な抗原の同定が大きな課題である.従来のCARでは,対象細胞表面の抗原認識にモノクローナル抗体由来の一本鎖抗体を用いるが,生体内の受容体とリガンドの結合をCARの抗原認識へ利用することも可能である.NK細胞は自然免疫を担うリンパ球で,前感作を要さずに腫瘍細胞を攻撃する能力をもつ.NK細胞の活性化受容体と腫瘍細胞表面のリガンドとの結合を利用した様々なCARが報告されている.なかでも,NKG2Dを用いたCAR-T細胞療法は最も活発に開発が行われており,AMLや固形腫瘍を対象とした複数の臨床試験が進んでいる.本稿では,CARに関する基礎的事項について概説し,続いてNK細胞の活性化受容体を用いたCARについて詳述する.

第62回日本小児血液・がん学会学術集会記録
シンポジウム1: CAR-T細胞療法のreal worldでのアプローチ
  • 平松 英文
    2021 年58 巻3 号 p. 194-198
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/13
    ジャーナル フリー

    再発/治療抵抗性の急性リンパ性白血病の予後は依然として不良であるが,近年開発されたCAR-T細胞療法は高い有効性を示すことから大きな注目を浴びている.一方で,サイトカイン放出症候群(CRS: Cytokine Release Syndrome)や免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS: immune effector cell associated neurotoxicity syndrome)など,特徴的な合併症が知られ,時として重症化する.CAR-T細胞の活性化による過剰なサイトカインがその病因とされているが,さらなる病態解明がより優れた管理を行う上で必要である.キムリア承認のベースとなった国際共同治験であるELIANA試験に参加した経験を踏まえ,キムリア治療の流れCRSの主な症状とマネージメントを中心に概説する.

シンポジウム2: 再照射
  • 山崎 夏維
    2021 年58 巻3 号 p. 199-207
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/13
    ジャーナル フリー

    脳への再照射は従来禁忌とさえ考えられていたが,放射線治療モダリティーの多様化や照射技術の向上を背景に,近年では比較的広く実施されるようになった.しかし,再照射の適応や適切な照射方法は,疾患や症例毎に異なっており,高い放射線壊死のリスクからも,慎重な実施が求められる.DIPG増悪後の再照射は有効性が高く,他に有効な治療手段がないため,積極的に実施されるべき治療であるが,最適な照射時期や照射線量については今後の課題である.再発後も比較的長期予後の期待される上衣腫については,晩期障害のリスクを十分に考慮した再照射計画が必要であるが,近年再発後早期からの全脳全脊髄照射を用いた再照射の有効性が報告されており,今後広まっていく可能性がある.一方で,累積線量が極めて高線量となるため,局所再照射においては,前回の照射内容を十分に加味した厳密な照射計画が求められる.髄芽腫では初期治療で全脳全脊髄照射が使用されるため,再照射による放射線壊死のリスクが高いものの,再照射による全生存期間の延長効果が示されている.初期治療での照射内容や再発部位によって,実施可能な再照射の線量や範囲が異なるため注意が必要である.Bevacizumabは放射線壊死に対する有効な治療手段であり,小児での有用性も近年示されている.

シンポジウム3: 小児がんに対する免疫療法の展開
  • 橋井 佳子
    2021 年58 巻3 号 p. 208-212
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/13
    ジャーナル フリー

    小児がんは発生と深くかかわり,免疫原性の高い抗原が脱落もしくは発現せず,自己に近くなることで免疫系からの監視を逃れていると考えられる.小児がんに対する免疫療法は自己由来抗原分子に対するCD8+ T細胞による免疫応答を活性化させることが重要である.Wilms tumor 1(以下WT1)蛋白は多くのがん患者で共通に発現するShared antigenのひとつで,正常臓器には発現しない,もしくは非常に限られた臓器に低発現している.我々は免疫学的な小児がんの特性を踏まえWT1蛋白を標的としたがんワクチン(WT1ペプチドワクチン)を難治性小児固形腫瘍患者を対象とした臨床試験をおこない,治療終了後の残存病変が少ない症例において良好な結果を得た.さらに非寛解期移植など同種移植後の難治性血液悪性疾患患者を対象とした臨床試験においても,良好な結果を得た.これらの臨床試験では免疫学的な反応すなわちWT1特異的キラーT細胞を検出しその割合の増減は臨床所見と一致した.今後,がんワクチン療法は有害事象が少なく安全であることから様々な免疫療法と組み合わされがん複合免疫療法の一員として用いられることが期待される.WT1蛋白を標的とした小児がんに対する免疫療法が有効であると考えるが,一方WT1ペプチドワクチンが皮内注射であるために強い痛みを伴う.このため現在,WT1蛋白を表出させたビフィズス菌を作成し経口がんワクチン製剤として開発を進めている.

シンポジウム5: 小児がんの中央病理診断―次世代へつなぐために
  • 嶋田 博行
    2021 年58 巻3 号 p. 213-214
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/13
    ジャーナル フリー

    Children’s Oncology Group 神経芽腫中央病理診断部門はBiology Study の中に位置付けられ,症例登録時に臨床試験と並行する前方視的な形で運用され,その診断結果は治療の層別化に直接関与する重要な役割を担っている.また中央病理診断部門はBiorepositoryの設立及び運用に参加している.BiorepositoryはNational Institute of Health(NIH)の予算によって支えられており,長年にわたり個々の研究者に質が高く安定した研究材料を提供している.日本における小児がん中央病理診断医(Expert)への支援としては,(1)小児がん研究グループの中での中央病理診断部門の明確な位置づけと,その業務の予算化(2)小児がん研究グループに登録されない症例に対しては,コンサルテーション診断業務に相当する報酬の確保の2点が重要である.

  • 木下 伊寿美, 孝橋 賢一, 小田 義直
    2021 年58 巻3 号 p. 215-217
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/13
    ジャーナル フリー

    骨軟部腫瘍や小児がんなどの希少がんは,正確かつ迅速な病理診断が行われていないことが多々ある.一般病理が見慣れない希少がんに遭遇した際には,専門家にコンサルテーションせざるを得ないのが現状である.欧州では,軟部肉腫の病理診断の集約化が確立されている.一方,本邦では人手不足のため,軟部肉腫領域での中央病理診断体制の導入は非現実的であるが,代替案として非定型例や診断困難例のみを肉腫専門病理医にコンサルトするというシステムが提唱されている.また,一般病理医を対象に希少がんの病理診断医の育成事業も行われており,後継者の育成が求められている.

シンポジウム6: 非腫瘍性血液疾患診療のupdate
  • 石黒 精, 中國 正祥, 小野寺 雅史
    2021 年58 巻3 号 p. 218-225
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/13
    ジャーナル フリー

    凝固因子製剤の定期補充療法によって不慮の出血が予防され,血友病患者のQOLは飛躍的に向上してきた.また,半減期延長製剤や二相性抗体製剤の発展に伴って注射頻度が減少してきた.しかし,定期注射に伴う疼痛と精神的な負担はいまだ問題である.遺伝子細胞治療の進歩は目覚ましく,多くの難治性疾患に有効性を発揮している.血友病の遺伝子治療も世界的な開発競争下にあり,わが国でも臨床試験が緒に就いた.血友病ではアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターの静脈内投与によって患者体内に治療遺伝子を直接入れる遺伝子治療が行われている.肝細胞への遺伝子導入効率が高く,1回の投与によって凝固因子の産生臓器である肝臓で遺伝子が長期間発現するAAVベクターが開発されている.小児科領域でも遺伝子細胞治療の充実が求められている.ただし,遺伝子細胞治療はいまだ開発段階にあり,従来の医薬品開発とは安全性・有効性の評価に全く異なる観点が必要である.遺伝子組換えウイルス製剤を治療に使う場合は,カルタヘナ法に則り特別な実施体制を構築する必要がある.わたしたちは2019年に遺伝子細胞治療推進センターを開設した.臨床試験や長期追跡を実施するための基盤を提供し,試験実施計画書作成や教育研修について企業やアカデミアを支援できる組織を目指している.本稿では血友病遺伝子治療の現状とカルタヘナ法への対処法について概説する.

  • 野上 恵嗣
    2021 年58 巻3 号 p. 226-232
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/13
    ジャーナル フリー

    血友病患者への止血治療としての当該因子による定期補充療法は,将来的な血友病性関節症の発症を著しく低下させ,患者のQOLを著しく向上させてきた.しかしながら,製剤の頻回の経静脈投与や血管確保の必要性,製剤投与により出現する同種抗体(インヒビター)は臨床上重大な課題であった.この課題を克服するために,近年,半減期延長凝固因子製剤や非凝固因子治療薬が開発されてきた.活性型第VIII因子補因子機能代替作用を有する抗第IX因子/第X因子バイスペシフィック抗体は皮下投与により,インヒビターに関係なく著明な出血抑制効果をもたらす.‘Rebalance coagulation’ 概念による凝固抑制因子の阻害製剤も現在,臨床治験中である.新規治療薬の発展は,血友病患者の長年の課題を克服させ,さらなるQOL向上が大いに期待される.

  • 東川 正宗, 森 麻希子, 石黒 精, 日本小児血液・がん学会血小板委員会
    2021 年58 巻3 号 p. 233-239
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/13
    ジャーナル フリー

    ITPは血小板の破壊と産生障害により血小板減少をきたす自己免疫性疾患である.小児ITPはウイルス感染などが契機となり,抗原提示細胞から血小板抗原由来の潜在性ペプチドがCD4+ T細胞に提示され,反応したB 細胞から産生される自己抗体により発症する.小児ITPに対してエビデンスがある治療は大量ガンマグロブリン療法,副腎皮質ステロイド,トロンボポエチン受容体作動薬,リツキシマブ,脾摘の5つである.ITPの病態に基づいて,それぞれの薬剤の作用部位が解明されてきている.小児ITPの多くは自然治癒するが,1)治療対象患者の選択基準,2)初期治療の選択,3)初期治療に抵抗・難治例に対する治療,4)患者・家族の健康に関連した生活の質(HRQoL)を考慮した治療,5)新規薬剤導入後の脾摘の位置づけが課題である.欧米では,血小板数にかかわらず出血の重症度に基づいて治療が行われている.出血の重症度評価には,Buchanan出血Gradeが多用されている.Buchanan分類のGrade 0~2は無治療経過観察,Grade 4,5は治療を行うことに異論は少ない.Grade 3を治療するか否かは今後の課題である.血小板数に生活様式を合わせるのでなく,患者のHRQoLを改善する治療を選択できる時代となっている.小児ITPの病態生理,臨床的課題,ASH 2019 ITPガイドラインと慢性ITPに対する治療について概説した.

  • 大和 玄季
    2021 年58 巻3 号 p. 240-244
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/13
    ジャーナル フリー

    自己免疫性溶血性貧血(autoimmune hemolytic anemia: AIHA)は後天性溶血性貧血のなかで最も高頻度にみられる溶血性貧血である.AIHAは赤血球表面膜上の抗原と反応する自己抗体が産生されることで抗原抗体反応による溶血が起こり,溶血性貧血をきたす自己免疫疾患である.次に,原発性免疫不全症は免疫系における免疫担当細胞または免疫担当分子の異常によって生じる先天性疾患の総称とされている.個々の疾患として既に430種類以上が確認されている.単一の遺伝子異常による遺伝病であることが多いため,近年は先天性免疫異常症(inborn errors of immunity: IEI)と称されるようになってきた.また,AIHAはIEIの初発症状としても注目されており,AIHAを合併しやすいIEIとしてcytotoxic T lymphocyte antigen-4(CTLA-4)異常症やlipopolysaccharide-responsive beige-like anchor protein(LRBA)欠損症などの疾患が報告されている.本稿ではCTLA-4異常症およびLRBA欠損症を中心にAIHAを合併するIEIについて概説する.

ワークショップ1: 固形腫瘍の切除度評価はいつ・誰が・どのように行うべきか?
  • 米田 光宏
    2021 年58 巻3 号 p. 245-247
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/13
    ジャーナル フリー

    難治性小児固形腫瘍を克服するためには集学的治療が必須である.集学的治療において外科療法による切除度評価を正確に行うことは,術後化学療法や放射線治療のあり方を決める重要な要素である.手術直後に外科医が主観で手術記録に切除度を記載することは当然であるが,果たしてそれだけで充分であろうか? 画像診断でどこまで客観的な評価が行えるのか? 画像診断を行うとしたらどの時期が適切か? 病理診断結果をどのように取り入れるのか? また,疾患によって求められる評価内容や評価方法も当然変わってくるであろう.このような問題を克服するための議論を行いたいというのが本ワークショップを企画した理由である.したがって,外科医だけでなく放射線診断・病理診断の専門家にも演者となっていただいた.本来であれば,脳腫瘍,腎腫瘍,胚細胞腫瘍,横紋筋肉腫以外の軟部肉腫などの疾患も取り上げたかったが時間の制約もあり,今回は神経芽腫・横紋筋肉腫・肝腫瘍についてJCCG疾患委員会の外科療法委員会メンバーにご発表いただくこととした.ご理解いただければ幸いである.本ワークショップで小児悪性固形腫瘍の切除度評価のあり方について議論が深まり,少しでも正確な切除度評価を行えるように方向性が示せればと考えている.客観的で正確な切除度評価方法が開発され,今後の小児悪性固形腫瘍の臨床研究の質の向上につながることが望まれる.

How I Treat 4
  • 小川 淳
    2021 年58 巻3 号 p. 248-252
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/13
    ジャーナル フリー

    横紋筋肉腫の治療成績は改善したが限局性横紋筋肉腫の約3分の1,転移性横紋筋肉腫の3分の2以上が再発する.また一般的に再発横紋筋肉腫の予後は不良であり標準的な治療は確立されていない.再発後の治療方針の決定に際してはリスク因子を念頭に置いて評価を実施することが重要である.初発時のstage及びgroup(原発部位,領域リンパ節転移,腫瘍径,遠隔転移),治療歴の詳細(化学療法内容,手術の有無とその根治性,放射線照射{照射部位,線量}),また再発時期(治療中,治療開始後18ヶ月以内,18ヶ月以上)の確認を行う.また再発様式(局所再発,領域再発,転移{播種性}再発)の正確な評価が非常に重要であり複数の画像検査を実施する.また生検は画像にて非典型的な所見がある場合,二次がんが考慮される場合などでは積極的に実施する.局所再発,転移性再発に関わらず再発病変が限局している場合は,長期生存を目指して局所療法の実施に関して積極的かつ多面的なアプローチを行う.一方播種性再発や複数回再発で長期生存を得ることは極めてまれである.通常は化学療法が実施されるが,がん遺伝子パネル検査の実施や早期相試験への参加も考慮する.またQOLの改善を目的とした低侵襲の治療や緩和的治療など様々なアプローチの考慮が必要である.

総説
  • 笹原 洋二, 國島 伸治, 石黒 精, 日本小児血液・がん学会血小板委員会
    2021 年58 巻3 号 p. 253-262
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/13
    ジャーナル フリー

    先天性血小板減少症・異常症は,造血幹細胞から巨核球への分化およびその後の血小板産生において必要不可欠な役割をもつ遺伝子群の異常に起因し,血小板産生能低下を主病態とする多様な疾患群である.臨床的には血小板破壊亢進を主病態とする免疫性血小板減少症との鑑別診断とその後の適切な治療方針決定のために重要である.本邦では,これまでの国内施設での研究成果を基盤として,2018年よりAMED研究班による疾患レジストリと血小板蛋白発現検査およびバイオバンクによる検体保存体制が構築されている.その原因遺伝子群としては,これまで56遺伝子が既知遺伝子として報告されており,既知原因遺伝子パネル検査とエクソーム解析による網羅的遺伝子変異検索が可能となっている.本稿では,先天性血小板減少症・異常症の適切な診断と治療・管理方針の選択を目的に,疾患概念,血小板サイズ(小型,正常大,大型および巨大血小板)に分類した診断方法と診断フローチャート,各代表的疾患の概説,診断コンサルト先,既知原因遺伝子群,治療方針と長期フォローアップの概要について総括し,先天性血小板減少症・異常症の診療ガイドを作成した.

原著
  • 中谷 諒, 梅原 直, 小野 林太郎, 足洗 美穂, 吉原 宏樹, 細谷 要介, 浦山 ケビン, 長谷川 大輔
    2021 年58 巻3 号 p. 263-268
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/13
    ジャーナル フリー

    背景:集中治療を受けた小児がん患者についての情報は限られており,予後への影響など臨床的意義は明らかではない.本研究は集中治療が小児がん患者の予後に与える影響について明らかにすることを目的とした.方法:2003年11月–2017年12月の間に当院に入院した0–15歳の小児がん患者を集中治療(人工呼吸器,昇圧剤投与,腎代替療法)実施群と非実施群に分けて後方視的検討を行った.結果:小児がん312例中,集中治療は40例(13%)に実施された.集中治療実施群は非実施群と比べて造血細胞移植例(p<0.01)と再発例(p<0.01)が有意に多かった.集中治療実施群の小児がん診断後1年生存率は非実施群と比較して有意に低く(68% vs. 97%, p<0.01),主な死因は原疾患の増悪であった.集中治療実施群のうち人工呼吸器と昇圧剤の併用例は単独使用例よりも予後不良であった.多変量解析を行ったところ,集中治療が実施された小児がん患者の診断後1年生存は有意に不良であった(p<0.01).結論:集中治療を受けた小児がん患者の予後は不良で,治療介入を要する臓器が複数に及ぶことの重要性が示唆された.合併症よりも原疾患の増悪が死因として多かったが,小児がん患者では集中治療を要する状況が予後に悪影響を及ぼすことが示唆された.

  • 馬場 みのり, 阿部 咲子, 渡辺 輝浩, 小川 淳
    2021 年58 巻3 号 p. 269-274
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/13
    ジャーナル フリー

    背景:近年,治療関連二次がんの解明が進んでいるが,その経過や予後に関する報告はまだ少ない.方法:1980~2010年に当院で治療した,診断時18歳未満の小児603例を後方視的に調査した.結果:18例に治療関連二次がんを認めた.原疾患は急性白血病が最多で11例であった.二次がんは,造血器腫瘍5例,甲状腺癌3例,乳癌3例,消化管癌3例,骨軟部腫瘍2例,腎癌1例,胸膜腫瘍1例であった.原疾患診断から治療関連造血器腫瘍診断までは中央値6年6か月(3年3か月~15年4か月),治療関連固形腫瘍診断までは中央値13年11か月(4年4か月~26年8か月)であった.発見の契機は,定期診察9例,自覚症状8例,剖検での判明1例であった.治療関連造血器腫瘍のうち4例が造血幹細胞移植を施行され,治療関連固形腫瘍のうち12例が,一次癌として発症した場合と同様の標準治療を受けていた.治療を受けなかった2例は,確定診断前に死亡していた.死亡は5例で,死因は治療関連造血器腫瘍2例,治療関連固形腫瘍2例,原疾患の再発1例であった.生存者の中には早期発見され標準治療を受けたにもかかわらず,2年後に脳転移を認めた乳癌症例を認めた.結語:二次がんの予後改善には早期発見が必要であるが,それだけでは限界があり,病因のさらなる解明や新たな治療法の開発,二次がんリスクを軽減した原疾患治療の開発が必要である.

  • 田崎 牧子, 土屋 雅子, 荒木 夕宇子, 丸 光惠, 齋藤 正博, 富岡 晶子, 米本 司, 高橋 都
    2021 年58 巻3 号 p. 275-282
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/13
    ジャーナル フリー

    【目的】本研究の目的は,小児期・AYA期発症がん経験者の性・生殖に関する情報源とその満足度,情報および情報源のニーズを明らかにすることである.【方法】0~29歳までにがんの診断を受けた20歳以上の者を対象に,無記名自記式インターネット調査を実施した.質問内容は,これまでの性・生殖に関する情報源とその満足度,情報および情報源のニーズである.【結果】有効回答数は107名,調査時平均年齢は31.2歳であった.これまでの情報源は,友人,学校,インターネットが多く(74%~81%),医師(34%)や看護師(17%)は少なかった.情報ニーズは,病気や治療が生殖に及ぼす影響とその対策,恋人やその家族への病気開示,恋人関係や子どもを持つことに関する体験談が上位であった.情報源のニーズは,インターネットや冊子・パンフレット(約50%),同病者や医師(約40%)等であった.【考察】小児期,AYA期発症がん経験者の性・生殖に関する情報ニーズには,これまで着目されてきた生殖に関する内容だけでなく,恋人や家族への病気開示や体験談があることが示された.情報源のニーズは,インターネットや医療者等多様であることが示され,経験者のニーズに合った情報提供が必要である.また,経験者は現状以上に医療者から生殖に関する情報を望んでおり,医療者による情報提供支援体制構築への努力が必要と考えられた.今後は,経験者の情報ニーズの充足度調査,QOL向上に寄与する情報提供支援の検討が求められる.

症例報告
  • 土屋 研人, 土居崎 小夜子, 山下 大紀, 北澤 宏展, 秋田 直洋, 坂口 大俊, 吉田 奈央, 濱 麻人
    2021 年58 巻3 号 p. 283-286
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/13
    ジャーナル フリー

    症例は3歳男児.前駆B細胞性急性リンパ性白血病(BCP-ALL)と診断し,JPLSG ALL-B12に登録して治療し,G分染法にて染色体29本の低二倍体(near haploid)を認め,第1寛解期での同種造血細胞移植適応となった.寛解導入療法後に第1寛解,早期強化療法後に微小残存病変陰性を確認し,強化療法後にフルダラビン100 mg/m2,シタラビン8000 mg/m2,メルファラン180 mg/m2,全身放射線照射3 Gyによる強度減弱前処置(RIC)を用いて,HLA8/8アリル一致の父親から骨髄移植を施行した.移植後18日で生着し,重篤な合併症を認めず,移植後80日で退院した.移植後5.5年で無病生存している.near haploid BCP-ALLの予後は不良とされるが,微小残存病変陰性であればRICを用いた第1寛解期での同種造血細胞移植によって,生活の質を維持した長期生存が期待できる.

  • 池田 勇八, 森 麻希子, 荒川 ゆうき, 花田 良二, 康 勝好
    2021 年58 巻3 号 p. 287-291
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/13
    ジャーナル フリー

    骨髄異形成症候群(MDS)から急性骨髄性白血病(AML)へ進行する過程で急性リンパ性白血病(ALL)を併発したFanconi貧血(FA)の7歳女児例を経験した.下血を主訴に受診し,特異顔貌,血球減少からFAを疑い,染色体断裂性試験の結果FAと診断,RAEB-2に進展したため造血幹細胞移植の準備を進めた.発熱と芽球の増加を認め,骨髄検査でALL(L1)と診断した.髄腔内注射(MTX,Ara-C,PSL)と3剤(PSL,VCR,L-ASP)により寛解導入を行い,寛解に至ったがその後AMLへと病態が変化し,Flu,CPM,Ara-C,TBIを前処置とした,HLA血清型5/6座一致の臍帯血移植を行い寛解に至った.骨髄染色体検査よりALLはMDS,AMLとは異なるクローンであることが推察された.

  • 折居 恵以, 鈴木 涼子, 稲葉 正子, 穂坂 翔, 八牧 愉二, 福島 紘子, 福島 敬, 高田 英俊
    2021 年58 巻3 号 p. 292-295
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/13
    ジャーナル フリー

    小児がんの4–5%に脊髄圧迫が見られ,多くの脊髄腫瘍は脊髄圧迫症状を契機に診断される.脊髄腫瘍はオンコロジックエマージェンシーであり,成人では治療開始前の神経障害の程度が治療後の神経学的転帰に関連すると報告されている.今回我々は,脊髄圧迫症状を契機に診断に至った小児腫瘍性疾患を4例経験した.対象症例は4か月~11歳であった.発症から画像診断までの期間は3~36日であり,腫瘍部位は硬膜外2例,硬膜内髄外1例,髄内1例だった.病理組織学的検査の結果Ewing肉腫,悪性ラブドイド腫瘍,急性骨髄性白血病と診断した.診断時に完全麻痺(Frankel A)であった1症例は運動機能の回復は得られなかった.一方,診断時に運動機能が残存していた(Frankel B, C, D)3症例では運動機能の回復(Frankel D)が得られた.完全麻痺に至る前の介入が神経学的予後の改善につながると考えられた.

  • 掛江 壮輔, 奥野 啓介, 前島 敦, 川場 大輔, 難波 範行
    2021 年58 巻3 号 p. 296-300
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/13
    ジャーナル フリー

    症例は10歳の女児.6ヵ月前より誘因なく腰部と右下肢の疼痛と倦怠感が出現し,徐々に増悪し歩行困難となったため,当院紹介受診となった.レントゲン検査で右腸骨に骨膜反応を伴う浸潤性骨破壊像を認めた.MRI検査では右腸骨より後腹膜腔や殿筋内,仙骨へ浸潤する巨大腫瘤を認めた.組織生検でEwing肉腫ファミリー腫瘍と診断された.浸潤範囲が広く十分な切除縁を確保した腫瘍切除は困難と判断し,ビンクリスチン,ピラルビシン,シクロホスファミド,エトポシド,イホスファミドによる化学療法を5コース実施した後,メルファラン,エトポシド,カルボプラチンによる大量化学療法と自家末梢血幹細胞移植,放射線療法を行い,寛解が得られた.晩期合併症として内分泌障害や成長障害が認められたが,治療終了して7年後も再発なく経過している.外科的切除が難しいEwing肉腫に対して,大量化学療法は有効な選択肢である可能性がある.

  • 松尾 星弥, 鈴木 孝二, 吉川 利英, 山口 愛奈, 今村 好章, 小川 絵里, 岡本 竜弥, 谷澤 昭彦, 大嶋 勇成
    2021 年58 巻3 号 p. 301-305
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/13
    ジャーナル フリー

    生後9か月の女児.左副腎腫瘍の精査目的に当科紹介となった.Children’s Oncology Group(COG)リスク分類で中間リスクの神経芽腫と診断され,多剤併用化学療法が行われた.化学療法5コースの寛解導入療法後に原発巣の摘出術および肝転移巣の生検術が行われた.原発巣および肝転移巣には病理組織学的に神経芽腫細胞の残存が確認されたが,術後1コースの化学療法で治療を終了とした.治療終了時の肝転移巣はMRI検査,MIBGシンチグラフィでも残存が確認されていたが,追加の治療を行わずに経過観察とし,治療終了後2年1か月,再発なく経過した.良好な生物学的因子を有する神経芽腫においては,たとえ病理組織学的に神経芽腫細胞の残存が確認されたとしても,寛解導入療法後に経過観察とすることも検討する必要があると思われた.

  • 櫻井 毅, 橋本 昌俊, 中村 恵美, 大久保 龍二, 福澤 太一, 小沼 正栄, 武山 淳二, 遠藤 尚文
    2021 年58 巻3 号 p. 306-310
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/13
    ジャーナル フリー

    症例は8歳女児.半年ほど前から咳嗽が出現し近医で加療されていたが,徐々に喘鳴が増強し,CT検査で気管内に腫瘍性病変を認めたため当科へ紹介された.CTでは気管内腔の腹側に造影効果を伴う充実性腫瘤陰影を認め,気管内の約80%を占拠していた.経時的な症状の増悪を認めたため準緊急で手術を施行した.頚部襟状切開でアプローチし,気管前面に至った.腫瘍の気管外への浸潤,リンパ節の腫大は認めなかった.気管楔状切除を施行し腫瘍を摘出した.病理結果は低悪性度の気管粘表皮癌であった.術後5年間経過したが,日常生活に支障なく過ごしており,気管支鏡検査では再発所見は認めていない.咳嗽のような非特異的気道症状であっても,経過中に増悪する気道閉塞症状を伴う場合は,気管腫瘍を念頭において精査する必要がある.また,気管粘表皮癌は完全切除されれば予後良好であり,気管楔状切除は有効な方法であった.

  • 内原 嘉仁, 梅田 雄嗣, 三上 真充, 山下 純英, 西田 南海子, 高木 雄久, 高橋 潤, 滝田 順子, 秦 大資, 塩田 光隆
    2021 年58 巻3 号 p. 311-314
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/13
    ジャーナル フリー

    強力な集学的治療の導入により頭蓋内非胚腫性胚細胞腫瘍(NGGCT)の治療成績は飛躍的に向上しているが,長期生存例の治療関連二次がんの報告は限られている.症例は14歳女性,NGGCT高リスク群と診断され,多剤併用化学療法と放射線治療(全脳全脊髄照射22.4 Gy/14分割,局所照射27.2 Gy/17分割)を実施し,原疾患の再燃は認めていない.25歳時に骨盤MRIで第5腰椎脊柱管内に造影効果のある2 cm大の腫瘤を指摘された.翌年脊髄腫瘍摘出術を施行し,組織学的に神経鞘腫と診断された.過去に報告された神経鞘腫と比較して,照射から二次がん発症までの期間が短かった(10.3年vs 24.6年).多剤併用化学療法と放射線を併用し治療を強化したこと,または遺伝的素因が神経鞘腫の早期発症に関与している可能性が示唆された.

  • 山瀬 聡一, 平井 麻衣子, 谷ケ崎 博, 伊東 正剛, 中原 衣里菜, 金澤 剛二, 大熊 啓嗣, 高橋 桃子, 森岡 一朗
    2021 年58 巻3 号 p. 315-319
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/13
    ジャーナル フリー

    終末期医療では,きょうだい面会は家族が患児と過ごす貴重な時間を提供し,患児の入院により生じる家族関係の変化に対応する目的で大切である.その一方できょうだいには,面会により患児の外見の変化や死に直面することは強いストレスとなる可能性がある.今回,急性骨髄性白血病(AML)の終末期にいた患児の著しい外見の変化により,きょうだいの面会を行うことによる,きょうだい達への心理的影響が懸念された1例を経験した.症例は2歳10ヶ月でAMLを発症した女児.家族をドナーとして計4回の造血幹細胞移植を行うも,6歳3ヶ月時に亡くなった.終末期の患児は人工呼吸器管理下にあり,顔面に広範囲の血腫と治療の副作用による浮腫で外見が著しく変わっていた.そのため,患児の2人の姉によるきょうだい面会に際し,彼女らが受ける心理的影響が懸念され,多職種間で面会の方法や事前準備などが議論された.本症例は,終末期のグリーフケアのあり方を見直す契機となり,多職種チームとして家族を援助する方法を整備する機会となった.

  • 宮城島 沙織, 笹川 古都音, 竹林 晃, 家里 琴絵, 五十嵐 敬太, 山本 雅樹, 堀 司, 石合 純夫
    2021 年58 巻3 号 p. 320-324
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/13
    ジャーナル フリー

    【はじめに】小児がんのリハビリテーション(以下,リハ)では,治療中により生じる諸症状やリスクを考慮した関わりが重要となる.【症例】若年性骨髄単球性白血病の双胎症例.症例A,双胎第1子,男児,診断時0歳6ヶ月.生後1歳3ヶ月時に非血縁間骨髄移植施行された.寝返り以降の発達が停滞しており,9ヶ月時よりリハを行った.症例B,双胎第2子,男児,診断時0歳5ヶ月.生後7ヶ月時に非血縁間臍帯血移植施行となった.生後1歳1ヶ月時つかまり立ち以降の発達が停滞し,リハを行った.歩行獲得に難渋したが歩行練習を行い,退院後それぞれ1歳10ヶ月時,1歳6ヶ月時に立ち上がり,独歩を獲得した.【考察】本症例ではリスク管理上,床動作は狭いベッド上に限られたことで十分な粗大運動の経験を得られず,独歩獲得が遅れた原因となったと考えられた.患者個人を詳細に評価し,それぞれの状態に合わせたリハの提供が重要であった.

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