日本小児血液・がん学会雑誌
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特別講演1
小児がん医療・研究の課題と展望
堀部 敬三
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2021 年 58 巻 5 号 p. 331-339

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抄録

近年,小児がんの治療成績は著明に改善し,5年生存率が80%以上に達している.しかし,がんは依然として小児期の疾病による主な死因であり,また,治療後長期にわたり合併症等によって命や生活の質が脅かされる懸念がある.しかし,ゲノム情報に基づいたバイオマーカーや治療薬の開発,遺伝子改変技術を用いた免疫細胞治療,さらに,再生医療等製品を用いた機能修復や治療開発が進んでおり,より安全で有効な治療法の確立が期待される.一方,わが国の小児がんの長期追跡データが存在しないため,小児がんレジストリに基づく長期コホート研究が望まれる.小児がんの多くで予後不良である思春期・若年成人(AYA)世代の標準治療の確立も課題であり,成人臨床試験グループと連携した治療開発が望まれる.研究体制については,日本小児がん研究グループ(JCCG)によりデータセンターや免疫・遺伝子,病理,画像の中央診断・試料保存のシステムが整備されており,試料・情報の効果的な利活用の推進が期待される.医療体制については,小児がん拠点病院を中心とした地域連携体制が整備されつつあるが,着実に進む少子化への対応も必要である.医療のゴールは,病気の治癒だけでなく,患者の健全な成長発達と自立を支援することである.患者・家族と意思決定の共有(Shared Decision Making)が大切であり,研究開発においても患者・市民参画の推進が望まれる.

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© 2021 日本小児血液・がん学会
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