2021 年 58 巻 5 号 p. 340-345
東日本大震災に引き続いて発生した福島第一原子力発電所事故により,特にチェルノブイリ原子力発電所事故後に発生した小児甲状腺癌が心配されたため,福島県民健康調査「甲状腺検査」が震災の約半年後に開始された.本検査は,甲状腺超音波検査による一次検査と,5.1 mm以上の充実性結節等を指摘された受診者に対する二次検査から構成されている.一巡目検査にあたる「先行検査」は,過去の知見から放射線被ばくによる甲状腺癌発症の潜伏期間と考えられている期間に実施され,また,2014年度からは2年毎に実施される「本格検査」が開始されている.二巡目の検査までの評価では,放射線の影響は考えにくいとされている.現在,2020年度から開始した5巡目の検査を実施している.甲状腺癌にはリスクが極めて低いものが多く含まれていることが知られており,小児~若年者の甲状腺癌も一般的に予後良好とされているが,成人と比較して癌の自然歴に関する知見に乏しく,より慎重な対応が求められている.本検査では,関係学会のガイドラインに従い,甲状腺癌のリスクに応じた検査を行い,2020年度末時点において260例が細胞診診断にて悪性ないし悪性疑いと診断されている.本稿においては,これまでの甲状腺検査の経過と現在の課題を報告するとともに,これまで得られた小児・若年者の甲状腺癌に関するエビデンスについて概説する.