2022 年 59 巻 5 号 p. 338-347
血友病患者の医療は,新たな治療製剤の開発により著しく進歩している.従来の血漿由来凝固因子濃縮製剤に代わり,1990年代に誕生した遺伝子組換え型凝固因子製剤が主流となり,2000年代には,遺伝子組換え型凝固因子に化学的修飾や改変を加えた半減期延長型製剤が次々と開発されている.さらに,2018年には,血友病A患者に対して,皮下投与による新規抗体製剤が使用できるようになり,今日,血友病患者の治療選択は拡大している.一方,血友病患者におけるインヒビター発生や新生児期の頭蓋内出血などの重要な未解決課題が依然として存在しており,特に日本の血友病患者における実態については不明点が多いのが実状であった.そこで,2008年から2020年にかけて,日本全国の新規に診断された血友病患者のうち417人(血友病A:340人,血友病B:77人)を対象として,インヒビター発生要因に関する多施設共同前方視的追跡調査研究(Japan Hemophilia Inhibitor Study 2; J-HIS2)が実施された.この中では,インヒビターの発生とともに,輸注の記録や出血状況を含めた治療に関する情報に加え,第VIII因子(FVIII)または第IX因子(FIX)遺伝子変異を含む患者背景が詳細に調査された.本研究を通じて初めて明らかとなった日本における血友病A患者のFVIII遺伝子変異については,先行する国際研究と同様に,null変異が有意にインヒビター発生リスク因子となることを我々は報告している(文献26).本稿では,10余年に及ぶJ-HIS 2研究の最終結果に基づき,日本の血友病医療の現状課題を報告するとともに,次の10年に求められる小児血友病医療の展望について考察する.