2023 年 60 巻 2 号 p. 125-129
悪性卵巣胚細胞腫瘍は原始胚細胞から発生する稀な腫瘍である.2019年の日本産科婦人科学会の患者年報によると,悪性卵巣胚細胞腫瘍は216例で全悪性卵巣腫瘍の2.8%であったが,小児期の診断・治療例は含まれておらず,全数把握が難しい.代表的な悪性卵巣胚細胞腫瘍として,未熟奇形腫,未分化胚細胞腫,卵黄嚢腫瘍などが挙げられるが,胎児性癌や非妊娠性絨毛癌は年間数例にも満たない極めて稀な腫瘍である.悪性卵巣胚細胞腫瘍は若年発症が最大の特徴であり,本疾患に対する治療では,進行期にかかわらず妊孕性温存治療を考慮すべき点が,通常の悪性卵巣腫瘍とは異なる.当院で経験した妊孕性温存治療を行った悪性卵巣胚細胞腫瘍25例について,その内訳,迅速病理診断の正診率,分娩転帰,予後などを提示する.また,化学療法としてはブレオマイシン,エトポシド,シスプラチンを用いたBEP療法が標準治療として確立されているが,稀な続発症であるGrowing teratoma syndromeについても症例を提示する.婦人科が実践する悪性卵巣胚細胞腫瘍に対する治療・管理戦略について,本稿を通して小児科・小児外科領域と共有できれば幸いである.