2024 年 61 巻 3 号 p. 229-233
先天代謝異常に対する造血幹細胞移植(HSCT)は1980年代より始まり,当初の20年間は様々な疾患に対して試みられてきた.その後疾患別の有効性が検証され,近年,HSCTの対象疾患はムコ多糖症の一部(MPS-I,MPS-II,MPS-IVA),副腎白質ジストロフィー(ALD),異染性白質ジストロフィー(MLD),クラッベ病,I-cell病にほぼ絞られてきた. 先天代謝異常のHSCTは生着不全の頻度が高く,GVHDを始めとした移植関連合併症による死亡があり得るため,リスクの高い治療と考えられてきた.しかし,HLA検査法の進歩による適切なドナー・細胞源の選択,世界標準の前処置薬剤である静注用ブスルファンの開発,感染症のモニタリングや種々の感染症治療薬の開発で,HSCTの成績は飛躍的に向上した.先天代謝異常のHSCTは早期診断,早期移植でより有効となるが,今後は新生児マススクリーニングに一部の先天代謝異常も含まれるようになり,早期移植に対応可能な移植施設ネットワークの構築が必要となる.しかし,先天代謝異常に対するHSCTの経験が豊富な移植施設や移植医は限られており,移植施設の拡大とともに,代謝異常専門医から移植専門医への連携を確立することが求められている.