2024 年 61 巻 3 号 p. 271-277
小児血液悪性腫瘍患者における治療薬のうち,L-asparaginaseとGlucocorticoidは,高トリグリセリド(TG)血症を引き起こすことが知られている.急性リンパ性白血病(ALL)治療中の高TG血症は血栓症や骨壊死との関連が報告されているが,その発症要因や個別の合併症との関連性は不明な点も多い.今回,当科における血液悪性腫瘍であるALLおよびリンパ芽球性リンパ腫(LBL)治療中の高TG血症について,その発症要因と患児に与える治療中ならびに治療終了後の影響について,後方視的に解析した.
対象患者138名のうち,38名(27.5%)が治療経過中にCTCAE ver 5 Grade 4の高TG血症を呈した.診断時の高年齢は高TG血症の発症要因であったが,Glucocorticoidの種類やL-asparaginaseの使用量と高TG血症の間には相関は認めなかった.観察期間中央値6年2か月で,骨壊死14例,薬剤性糖尿病10例,膵炎3例,血栓症が1例認められ,全例が治療中Grade 3以上の高TG血症を経験していた.診断後の合併症発症までの中央値は,骨壊死で28か月,薬剤性糖尿病が11か月,膵炎1か月,血栓症6か月であった.高TG血症の際のTGのピーク値は,発症者数が少なかったため,膵炎,血栓症との相関性については評価できなかったが,骨壊死と薬剤性糖尿病に対しては多変量解析で有意な独立性を持つリスク因子であった.
本研究結果から,高TG血症が骨壊死と薬剤性糖尿病の病態に直接的に関与していると同時に,高TG血症を示した患者において密なフォローアップを行うことで,骨壊死と薬剤性糖尿病の早期発見・治療に役立つ可能性があることが示唆された.