2024 年 61 巻 5 号 p. 327-333
本邦における小児脳腫瘍診療は大きな変革の時期を迎えている.従来,脳腫瘍の治療は放射線治療が中心であり,化学療法は補助的な役割であった.しかし,放射線治療による治療強化の限界や晩期合併症の問題に直面したことで,小児脳腫瘍の治療は化学療法を組み込んだ集学的治療にシフトすることとなり,現在も治療最適化のための多くの臨床試験が国内外で行われている.集学的治療の最適化のためには,多診療科連携が極めて重要となるが,日本小児がん研究グループが設立されたことで,All Japanでの高度な集学的治療の実施体制が整った.これを受けて,上衣腫に対するEPN1501試験,髄芽腫に対するMB19,ATRTに対するAT20試験,中枢神経系胚細胞腫瘍に対するCNSGCT2021試験が相次いで開始された.いずれの試験においても,治療強度を保ちつつ放射線治療による晩期合併症を軽減するための治療最適化が試みられている.一方,分子標的薬はグリオーマを中心に開発が進んでいる.NTRK阻害剤に続き,BRAF阻害剤・MEK阻害剤が承認されたことで,治療の選択肢が広がると同時に,早期からの積極的な遺伝子検査の実施が重要となっている.今後は,新規標的治療薬をいかに従来治療に組み込むかという最適化が求められる.
本稿では小児脳腫瘍に対する集学的治療の最適化に向けた薬物療法の現状と展望について概説する.