キメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor: CAR)は,単鎖抗体または生体内のリガンド/受容体結合を特異的抗原結合部位として利用した人工受容体である.CAR-T細胞療法は臨床試験で劇的な効果を発揮し,再発・難治性の造血器腫瘍の治療戦略を一変させつつある.一方で,固形腫瘍へのCAR-T細胞療法の導入は,造血器腫瘍に大きく後れを取っている.標的抗原の発現量の不均一性や腫瘍組織の微小環境による複数の免疫逃避機構の克服が鍵となると考えられている.本稿では,固形腫瘍のなかでも,血液脳関門の存在などにより特異な位置づけにある脳腫瘍に対するCAR-T細胞療法の臨床開発の動向を紹介した.成人においては膠芽腫,小児においてはびまん性橋神経膠腫や上衣腫を中心に臨床開発が進んでいる.脳室内や腫瘍切除腔に設置したカテーテルを介した腫瘍近傍への直接投与が臨床試験で活発に利用されていることは特筆すべき点である.特徴的な合併症としてtumor inflammation-associated neurotoxicity(TIAN)が提唱されている.一部では画像上の腫瘍縮小だけでなく神経障害の改善も報告されているが,効果の持続は必ずしも十分でない.標的抗原の選択,受容体構造やT細胞機能などについて,さらなる検討と改善が必要である.