2025 年 62 巻 3 号 p. 197-207
がんで高頻度に観察されるスプライシング異常の機能的標的として同定されたBRD9は,ブロモドメインを有するクロマチン再構成因子であり,その生理的役割は十分に解明されていなかった.マウス造血系を用いた網羅的解析により,BRD9がクロマチン構造の再編を介して,胎児期から成体期に至るまで,時期特異的かつ細胞系譜特異的に造血の恒常性を維持していることが明らかとなった.BRD9機能の喪失は,幹細胞性の低下やB細胞分化障害を引き起こす一方で,BRD9阻害は急性骨髄性白血病の分化誘導療法としての可能性が示唆された.そこで,我々は幹細胞の分化運命制御において重要な役割を担うBRD9がヒト白血病においてどのように機能しているかを検討した.KMT2A再構成を伴わない乳児B細胞性急性リンパ芽球性白血病で報告されたNUTM1再構成型白血病において,BRD9::NUTM1融合遺伝子が同定されており,BRD9の異常活性がB細胞性の白血化に寄与している可能性が示唆された.BRD9::NUTM1白血病モデルを用いた機能解析では,この融合遺伝子がBRD9依存的なクロマチン制御機構を変容させ,白血病関連遺伝子の異常な転写プログラムを活性化することが示された.これらの知見は,NUTM1融合型白血病の分子基盤の理解を深めるとともに,治療標的としてのBRD9の可能性を裏付ける分子基盤を提示するものである.