2025 年 62 巻 5 号 p. 266-271
小児がん治療では凝血学的異常によって生ずる有害事象にしばしば遭遇する.凝固/線溶に関する止血機構に焦点を絞ると,凝固優位であれば血栓症を,逆であれば出血症状を呈し重篤な場合は致命的となり速やかな対応が求められる.我々は,包括的な凝固能と線溶能を同時に評価できるトロンビン・プラスミン生成試験(T/P-GA)を確立し,急性リンパ性白血病のキードラッグであるL-アスパラギナーゼ(L-ASP)治療に関連する凝固障害では,線溶抑制を基盤とした相対的凝固優位状態が生じるため血栓症を引き起こすのではないかということを見出した.T/P-GAを駆使することでL-ASP治療関連の凝固障害に対する支持療法を最適化するための基盤データを検証する素地が作られ,現在,日本小児がん研究グループ(JCCG)では前向き観察研究として症例集積を進めている.また,本邦で入手可能なL-ASP製剤が従来の大腸菌(E.coli)由来のnative L-ASP以外に,2023年にErwinia菌由来のL-ASPとE.coli由来のポリエチレングリコール(PEG)化製剤(PEG-ASP)が登場しL-ASP治療の最適化が喫緊の課題となった.PEG化製剤は半減期が延長し投与回数が減る一方で,血栓止血領域ではPEG化血友病製剤の使用例において,抗PEG抗体によるクリアランス増加に伴う薬効低下が報告されており,同様の事象がPEG-ASPでも起こる可能性がある.血栓止血学の知見は小児がん診療にも有用であることも念頭に,血栓止血学の専門家との連携が進むことで,新たな知見の創出につながることが期待される.