2016 年 11 巻 1 号 p. 401-412
わが国で高齢者ケア施設は新たな看取りの場として期待されている.本研究の目的は,文献検討により日本の高齢者ケア施設における看取りの質の評価・改善に関する研究の動向を明らかにすることである.文献検索の結果抽出された23文献を介入研究4件,介入のための教育・質改善ツール開発3件,調査研究13件,質的研究3件に分類した.高齢者ケア施設でのケアの質に関する研究は微増傾向にあるが介入研究は少なかった.看取りの実施要因として施設長・看護管理者の方針や,医療機関との連携,家族の明確な意思決定などがあった.職員の抱える課題や教育ニーズ,介護職へのサポートの必要性が示されていた.以上より高齢者ケア施設での看取りに関する介入研究,施設長・看護管理者への支援,入居者・家族の意思決定支援や,職員対象の教育プログラムの開発などが高齢者ケア施設における看取りの質改善に有用と考えられた.
わが国の高齢者人口は,2013年に過去最多の3186万人となり,総人口に占める割合は25.0%に達した1).年間死亡者数も急増し,2025年には約160万人に達すると見込まれている2).急速な高齢化の進展と死亡者数の増加により,看取りの場の確保が問題となっている.
病院以外の看取りの場として期待されているのが,介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム:以下,特養) や介護老人保健施設(以下,老健)などの福祉施設と,有料老人ホームや認知症対応型医療施設(以下,グループホーム)といった「自宅でない居宅サービス」3)を合わせた高齢者ケア施設である.一般国民を対象とした看取りの場の希望に関する調査4)によれば,がんや認知症などにより,重度に介護を必要とする場合,看取りの場として医療機関や施設を望む人が過半数を占め,なかでも終末期において認知症が進行した場合には約6割の人が施設での看取りを望んでいた.また,本人や家族が自宅で終末期を迎えることを希望したとしても,核家族化による家族の介護力の限界から,最終的には入院・入所の道を選択せざるをえない場合も少なくない5).このような状況から,高齢者ケア施設での看取りは重視されており,2012年の介護報酬改定では,特養やグループホームに続き,有料老人ホームなどの特定施設でも「看取り介護加算」が新設され,高齢者ケア施設での看取りが推進されている6).
しかし,わが国の終末期ケアに関する議論は,主としてがん患者を中心に行われてきたこともあり7),高齢者ケア施設での看取りに対する現場の対応や研究の蓄積は不十分である.高齢者ケア施設では認知症などの非がんの疾患や老衰によって看取りに至る入居者が多く,予後予測が困難であることや,認知症によって看取りに対する本人の意思確認が困難で家族が代理意思決定を行うことが多いといった特徴がある3,7).今後,高齢者ケア施設での看取りについての研究を進め,その質の向上を図っていくことは急務であり,そのために現在の高齢者ケア施設の看取りの質の評価・改善に関する研究の動向をまとめ,今後の課題を検討していく必要があると考えた.
(1)高齢者ケア施設: 看護職員や介護職員の配置が必要である,特養や老健,介護療養型医療施設の介護保険施設と,グループホーム,養護老人ホーム,有料老人ホームと定義する.
(2)終末期: 「高齢者の終末期の医療およびケア」に関する日本老年医学会の「立場表明」8)に基づき,「病状が不可逆的かつ進行性で,その時代に可能な限りの治療によっても病状の好転や進行の阻止が期待できなくなり,近い将来の死が不可避となった状態」と定義する.
(3)看取り(End-of-life care): 看取りとEnd-of-life careを同義とし,上記の「終末期」の定義における,終末期医療及びケアの一連の過程として定義する.
2 文献検索文献データベースPubMed,CINAHL,医学中央雑誌WEB 版(以下,医中誌)を用いて文献検索を行った.
PubMedでは,検索対象年を1983~2015年とし,検索式を(("Palliative Care"[Mesh] OR "Terminal Care"[Mesh] OR "Hospice Care"[Mesh]) AND ("Nursing Homes"[Mesh] OR "Insurance,Long-Term Care"[Mesh] OR "Assisted Living Facilities"[Mesh] OR "Skilled Nursing Facilities"[Mesh])) AND ("Quality Indicators,Health Care"[Mesh] OR "Quality of Health Care"[Mesh])として,780件が検索された.
CINAHLでは,検索対象年を1983~2015年とし,検索式を(MH "Terminal Care") OR (MH "Hospice Care") OR (MH "Palliative Care") AND (MH "Nursing Homes") OR (MH "Skilled Nursing Facilities") OR (MH "Assisted Living") OR (MH "Long Term Care") AND (MH "Quality of Health Care") OR (MH "Clinical Indicators")として,151件が検索された.
医中誌では,検索対象年を2000〜2015年とし,検索式を((介護保険施設/TH or 介護保険施設/AL) or (特別養護老人ホーム/TH or 特別養護老人ホーム/AL) or (介護老人保健施設/TH or 介護老人保健施設/AL) or (介護療養型医療施設/TH or 介護療養型医療施設/AL) or (グループホーム/TH or グループホーム/AL) or 有料老人ホーム/AL) and (評価/AL or 改善/AL or 介入/AL or (ガイドライン/TH or ガイドライン/AL) or (クリティカルパス/TH or クリティカルパス/AL)) and (看取り/AL or 終末期/AL or ターミナルケア/AL or 緩和ケア/AL or エンドオブライフケア/AL)として,原著論文に限定し,60件が検索された.
上記論文のタイトルと抄録,重複を確認し,最終的に分析対象とした文献は3つの基準(①日本の高齢者ケア施設を対象としていること,②実証データを収集していること,③高齢者の看取り(End-of-life care)を主要なテーマとしていること)をみたす23件(医中誌18件,PubMed・CINAHL5件)とした.上記の基準のうち③は主観的な判断と考えられたため,日本老年医学会のEnd-of-life careの操作的定義に沿い,タイトルと抄録の内容から各共著者が独自に判断し内容を照合した.照合の結果,判断が分かれた文献はなかった(図1).
検討対象となったのは23文献であった.そのうち22件が2007年以降のものであり,論文数は近年微増傾向にあった.対象論文を研究デザインと内容別に以下の4つに分類し論文数を集計した.
利用者あるいは医療職や介護・福祉職を対象に介入を行い,それらを何らかの実証データで評価した「介入研究」4件,介入のためのツールの開発と,その評価を行っていた「介入のための教育・質改善ツール開発」3件,診療録や質問紙調査などから収集したデータを統計的に分析した「調査研究」13件,半構成的面接などから収集したデータを質的に分析した「質的研究」3件であった.
2 対象文献の検討(表2)(1)介入研究
介入研究4件は,教育プログラムやワークショップ,講義などによる教育介入を行い,その効果の検証をしたものであった.
島田ら9)は,特養の多職種職員を対象に,海外の研究を参考に独自に開発した「看取りケア確認シート」などにより,自己と他者の経験を照らし合わせて内省を促す「反照的習熟プログラム」を行った.その後,実施されたプログラムの参加者らを対象としたインタビューから,参加者らがシートの記入やプログラムを通じて自分では経験できなかったケアを学び,実施したケア内容の評価について相互に点検する機会になっていたことや看取りケアの振り返りが,現在の入居者のケアの改善を動機づけ,組織的な課題の確認につながっていたことが示唆されていた.
特養の看護職を対象に,自身らが考案した看取りケア教育プログラムを実施した山地ら10)は,その効果をアンケート調査とグループワークでの発言内容によって評価した.プログラムへの参加は,自施設の看取りケアについて新たな気づきや,課題に向けた取り組みの方向性を見出すきっかけとなっていたことが評価結果から示唆された.
平川ら11)は,高齢者介護施設の介護職員を対象に終末期ケアに関するワークショップの前後で質問紙調査を実施し,その結果,高齢者の終末期に関する知識や意識,死生観について,望ましい方向への意識や行動の変容がみられたことを報告している.さらに,平川ら12)は,老健の介護職員を対象に終末期ケアに関する全7回の連続講義を実施し,その効果を質問紙調査によって検証した.講義の前後で,終末期ケアにやりがいを感じる,終末期ケアを提供したいと考える職員の割合が増加したが,終末期ケアの提供や医療との連携に関する自信は増加しなかった.
(2)介入のための教育・質改善ツール開発
介入のための教育・質改善ツール開発3件のうち2件は,高齢者ケア施設での看取りの質の評価・改善を目的に海外の既存のガイドラインやアセスメントツールの評価と検証を行ったもので,1件は独自に看取りの評価・改善ツールを開発し,妥当性の検証を行ったものだった.
中西ら13)は,カナダで開発された認知症高齢者への終末期ケアのガイドに対する特養職員の評価を調査し,緩和ケアに対する職員の考え方を把握した.その結果,職員は,医療処置をしないことや中止することに関する項目に対して受け入れにくいと感じていることや特に高齢者ケアの経験年数が長い職員にはこのガイドが受け入れられにくいことが示された.杉本ら14)は,病院,緩和ケア病棟,老健,特養,在宅において,米国で開発された緩和ケア用のアセスメントツールMinimum Data Set-Palliative Care(以下,MDS─緩和ケア)の日本語版について,余命が6カ月未満と推定される利用者71例を対象として評価を行い,その信頼性と有用性を主張していた.
看護職の自己評価に焦点を当てた老健における終末期ケアの質評価指標を開発した横矢ら15)は,質問紙調査により妥当性の検討を行った.その結果,指標の適切性および重要性が高いことを確認し,質評価指標項目の実施状況と施設の管理態勢には高い正の相関が認められた.項目の実施頻度は入居者の意思確認に関する項目で低く,医療機関との連携などの項目は高かった.また施設の管理態勢として,終末期ケアに関する方針やマニュアルなどは整備されているが,スタッフのメンタルケアや家族ケアはあまり整備されていないことが明らかになった.
(3)調査研究
調査研究13件は,高齢者ケア施設での看取りの現状と実態に関する調査研究であった.職員の看取り教育や研修の必要性,多職種連携など看取りを支える医療体制の整備,施設長や看護管理者の看取りに関する方針の有無,看取りの意向確認が,高齢者ケア施設での看取りの実施に影響することが示されていた.
職員の看取り教育や研修の必要性に関して,久山ら16)は,グループホーム職員の看取り体験と死生観の関係について調査を行い,看取りに関する教育や死の体験の有無は死生観尺度得点と関連があることを示し,職員に対する看取りや死に関する研修の必要性を主張していた.また看取りの経験に関する調査によると,高齢者ケア施設において終末期ケアの経験のある職員は,経験のない職員より職務効力感が高く,施設でのケア継続期間も長かったことが報告されていた17).また,教育の効果について,老人保健施設の看護管理者を対象に行われたHirakawaら18)の調査によると,終末期介護に対し積極的な施設では,スタッフへの教育が頻繁に行われており,看護管理者が現場での終末期介護と家族のケアに高い自信を示したことが明らかにされた.
多職種連携など看取りを支える医療体制に関して,Fukahoriら19)は,調査対象の約半数の施設長が,緩和ケアの専門職によるサポートがあれば,施設においてがん患者のエンドオブライフケアを提供することが可能と考えていることを明らかにした.平野ら20)は,実際に高齢者ケア施設で看取りを実施している施設の診療録などを調査し,特養で最後を迎えた入居者を施設内死亡群とその他の2群に分けて分析を行った結果,施設内死亡群ではカンファレンスの実施回数が多いことや入院回数が少ないことなどを示した.Hirakawaらの高齢者ケア施設の施設長への調査21)によると,回答した約半数の施設が,終末期ケアに対して進歩的な施策を実施しており,その施策は施設内外での医療的介入の有用性,スタッフ教育,入居者と家族による終末ケア施策に関する話合いと関連があったことが示された.特養の看護職リーダーを対象にした調査22)により,島田らは,夜間死亡時の医師の往診や終末期ケアの本人あるいは家族への意向確認の実施が,看取りケアの実施に関連していることを示した.さらにIkegamiら23)は,高齢者ケア施設への調査から,看取りを行う施設の特徴として,エンドオブライフケアを提供するという方針と,嘱託医の支援があることを明らかにした.一方で,坪らの老健職員に対する意識調査24)では,ターミナルケアを老健で実施することに関して肯定的であった人の割合は10%であった.ターミナルケアの実施に「現在ではかなり問題がある」と回答した人は 改善点として看護・介護等の人材不足などを挙げていた.
看取りの意向確認に関する調査23)では,施設で亡くなった居住者のうち,88.3%の家族が最期の場所として施設を希望しており,84.1%は家族間で居住者の死の場所に関して同意していることが示されていた.またTakezakoら25)は,高齢者ケア施設における事前指示について質問紙調査により,58.4%の施設で事前指示(Advanced directives)が導入されていること,事前指示の使用には介護報酬における看取り介護加算が関連していたことを報告していた.さらに,事前指示を導入している施設のうち39.9%はPersonal choice directiveを用いていたものの,その施設の中で入居者本人の署名を求めていたのは48.3%だった.
その他,池上ら26)は,病院で1年以上介護を要した患者,特養から病院に入院して死亡した患者,特養の施設内で死亡した患者の遺族を対象に終末期ケアに関する質問紙調査を実施した結果,居住者が特養施設内で死亡した場合は,他の施設に比べケアの質が最も高く評価されたことを明らかにした.梶井ら27)は,特養を対象にした質問紙調査により,多職種が実施する終末期における栄養ケア・マネジメント内容の妥当性・信頼性の検討をし,項目について一定水準以上の内容妥当性および評定者間の一致を確認した.認知症に対する治療に関する調査28)では,一般住民はネガティブな印象を持っていたが,高齢者ケア施設の看護・介護職員は,治療に成功の可能性がある場合延命治療(active treatments and life-sustaining treatment)に対してポジティブであることを報告した.
(4)質的研究
質的研究3件は,主に施設職員の看取りに対する認識に関する研究であった.施設における看取りの実施に関して職員は,医療機関との連携や医師・看護師・介護職などの職員間連携を整えていることが示されていた.また,職員の看取りに関する教育ニーズや介護スタッフへのサポートの必要性が示唆されていた.
千葉ら29)は,グループホームの管理者や看護職へのインタビュー調査を行い,[アセスメント][ケアと医療の実施][教育・相談][調整]の4つの看護実践は,グループホームが医療機関と良好な連携体制を取り医療を実施する過程に相互に関わっていることを示した.グループホームの終末期ケアにおける連携体制と課題について,職員へのフォーカスグループインタビューを行った平木ら30)は,「話し合いながら看取りの計画が立案できる」「ガイドラインの作成や学習会を通しての情報共有ができる」「連携看護師の役割を明確にする」など看護職と介護職が連携体制を整えていたことを明らかにした.また看護連携の課題としては,「24時間の情報共有」「終末期ケアの事例検討会や研修会」などを挙げていた.北島ら31)は,認知症末期にある特養入居者に対する介護スタッフのケアプロセスに関するインタビュー調査から,介護スタッフへのサポートとして,入居者の微妙なサインをとらえられるような体制(例: 同僚とのディスカッション,家族との関係構築など),倫理的ジレンマを抱えざるを得ないような背景(例: 人員や時間不足など)を改善することの必要性を考察していた.
文献検討の結果,高齢者ケア施設における看取りの質に関する研究は徐々に増加しているが,介入研究は教育介入の効果を検証した研究のみであり,少ないことが示された.また調査研究の結果からは,施設における看取りについて,職員の教育や研修,多職種連携など看取りを支える医療体制の整備,施設長や看護管理者の看取りに関する方針,看取りの意向確認の必要性が示されていた.さらに質的研究の結果からは,施設における看取りに関して職員は,医療機関との連携や医師・看護師・介護職などの職員間連携を整えていることが明らかにされており,職員の看取りに関する教育ニーズや介護スタッフへのサポートの必要性が示されていた.以下,結果に示した文献の分類に沿って考察する.
1 介入研究介入研究4件は,いずれも看取りの質改善のための教育介入の効果を検証したものであった.教育プログラムやワークショップなどへの参加は,自己の看取りに関する知識や意識,ケアを振り返り,他者の考えや経験を知る機会となり,施設における看取りの課題を提示し共有する機会になっていた.看取りに関する教育や研修の必要性は,他の調査研究や質的研究においても多く挙げられており,ニーズの高さがうかがえた.特養を含めた介護保険施設の看護職を対象とした研修ニーズに関する調査32)でも,今後修得が必要な能力及び施設外研修受講を希望する内容として「看取りケアへの対応」と答えた者が最も多くなっており,看取りに関する教育ニーズの高さが示されている.施設における看取りに対する職員の不安や困難感を払拭し,さらに教育背景や経験年数の違いに関わらず,終末期ケアの標準化や質の担保を実現するためにも,多職種,医療機関との連携を含めた教育体制を整えることは重要である.しかし,高齢者ケア施設において終末期ケアの教育プログラムを用いた介入研究は少数であり,教育体制は確立されていない.今後,職員の教育ニーズに合わせた教育プログラムの開発と,それらを用いた介入研究を進めていくことが望ましいと考える.また,教育にとどまらない,入居者や家族を対象とした介入の開発の必要性もあるだろう.
2 介入のための教育・質改善ツール開発介入のための教育・質改善ツール開発3件は,いずれも多職種で連携して必要な医療を提供し,「質の高い」看取りを行う目的で,終末期ケアのガイドラインやアセスメントツール,質評価指標を取り上げており,終末期ケアの標準化や質の向上において,その有用性を主張していた.
高齢者ケア施設で働く職員は介護職が主であり,看護職は少ない.夜間に看護職が配置されていない施設もある.医師の体制についても,特養やグループホームでは常勤医がいる施設は1割にも満たない33).さらに,介護保険法に位置づけられる有料老人ホームなどの「指定特定施設」にいたっては,介護・看護職員の配置基準が存在するのみで,医師の配置については特段の規定がない34).このような状況においては,多職種連携および医療機関等との連携が特に重要であり,その連携を円滑に行うためにも,施設としての看取りの方針やガイドラインを定めることは重要である.高齢者ケア施設の看護職を対象にした調査33)では,各施設での看取りのケアに関する方針の有無やその活用の有無が,看取りケアにおける困難感の影響要因となっており,ここで述べた方針の重要性を支持するものと考える.
また,介入のための教育・質改善ツール開発のうち2件は海外のガイドラインを活用しているものだった.しかし,海外と日本では医療・介護制度の違いや看取りに対する文化の違いもあり海外のガイドラインやツールをそのまま日本に導入することは難しいだろう.例えば山田ら35)はQuality Indicatorsについて,日本には行政による監査体制はなく,施設は入居待ちが一般的であるため,質の向上を求める外圧が乏しく,米国と同様の活用方法は期待できないと述べている.今後,諸外国において作成された看取りに関するツールなどの導入を検討する場合には日本に適用可能か十分に学術的検討を行う必要だろう.あるいは日本の状況に即した高齢者ケア施設におけるツールや看取りガイドラインなどを開発し,その有用性について検証していくことも有益であろう.
3 調査研究調査研究13件は,高齢者ケア施設での看取りの現状と実態に関する調査研究であり,施設における看取りを可能にする要因に関して明らかにしていた.ここでは,看取りを行う施設の施設長や看護管理者への支援と,看取りの意思確認・意思決定について考察する.
(1)施設長・看護管理者への支援の必要性
調査研究に分類された文献(久山ら16),Abeら17),Hirakawaら18,21),Fukahoriら19),平野ら20),島田ら22),Ikegamiら23),坪ら24))から,職員の看取り教育や研修,看取りを支える医療体制整備の必要性などが明らかになり,高齢者ケア施設における看取りを進める上で,施設長・看護管理者の看取りに対する方針の明確化を支援する必要性が示された.看取りを積極的に行う施設では,職員の教育が頻繁に行われていた.つまり,適切な支援のもと施設長・看護管理者が医療・介護体制を整え,連携し,施設の方針として看取りを行うことを定め,職員への看取りに関する教育を行うことが,施設における看取りを推進する上で重要であると考えられた.また施設長・看護管理者は,嘱託医や緩和ケアの専門職などによる適切な支援があれば,高齢者ケア施設において看取りを行うことができると考えていた.高齢者ケア施設の職員が,緩和ケアを専門とする医療者からのサポートが得られるような体制を整えることも必要となるだろう.
高齢者ケア施設での「質の高い」看取りのためには,施設長・看護管理者の役割が重要であり,彼らへのアプローチが有効であることを示唆する結果といえる.今後,高齢者ケア施設の施設長・看護管理者への教育介入的な研究の効果検証や,看取りに積極的に取り組んでいる施設の施設長や看護管理者を対象としたケーススタディなどで成功事例を記述することなどに取り組んでいく必要があるだろう.
(2)看取りにおける意思確認・意思決定
Ikegamiら23),Takezakoら25)の研究では,看取りの意向確認に関しては,約6割の施設で事前指示(Advanced directive,以下AD)が導入されていたが,認知症などによる入居者本人の看取りに関する意思確認の難しさが示唆された.
入居者本人に代わり事前代理意思決定を行うのは,多くの場合その家族となるが,家族の意向は必ずしも入居者本人の意思を代弁しているとは限らない.「高齢者の終末期の医療及びケア」に関する日本老年医学会の立場表明8)では,いかなる要介護状態や認知症であっても,高齢者には,本人にとって「最善の医療およびケア」を受ける権利があり,「認知機能の低下や意識障害などのために本人の意思の確認が困難な場合であっても,以前の本人の言動などを家族などから聴取し,十分な話し合いのもと,本人の意思を可能な限り推定し尊重することが重要」であるとしている.また厚生労働省の「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」36)では患者の意思の確認ができない場合には,家族による患者の意思の推定の尊重や家族との十分な話し合いなどにより患者にとっての最善の治療方針をとることを基本として,医療・ケアチームの中で慎重な判断を行う必要があるとしている.入居者本人の意思を尊重しつつ,家族の意向との調整を図り,看取りに関する情報提供など適切な意思決定支援を行うことは,高齢者ケア施設における医師や看護職の重要な役割であり,入居者本人の権利擁護につながるものである.
そのためには入居者本人の意思の把握の手法を検討していくことも必要であろう.Molloyら37)によると,ADにより患者の意向を確認するだけでは,満足度の変化は得られないとの結果が明らかにされており,ADの活用には限界がある.そこで近年注目されているのがアドバンスケアプランニング(Advance Care Planning,以下ACP)である.ACPはADを含み,「将来意思決定能力がなくなったときに備えて,あらかじめ自分が大切にしていること,治療や医療に関する意向,代理意思決定者などについて専門職者と話し合うプロセス」38)とされている.Deteringら39)は,オーストラリアの病院においてACPが,看取りにおける本人と家族の満足度の上昇や,遺族のストレスや不安,抑うつの軽減につながったと報告している.日本の高齢者ケア施設においてもACPの導入を進めることは,看取りの質の向上に有効であると考えられる.Lundら40)によるACPの阻害・促進要因についてのシステマティックレビューでは,特別な教育を受けたスタッフによる構造的なアプローチが ACPの促進要因としてあげられている.わが国においても高齢者ケア施設におけるACPを促進する方法に関する研究の必要があるだろう.高齢者ケア施設の入居者の多くは入居時にすでに複数の治療・療養の場を移行してきており,重度の認知症となっている.したがって入居の時点で入居者本人の意思確認は困難であることも多い.そのことを踏まえると,できるだけ早期よりACPのプロセスを開始することができ,そのプロセスの中で確認された本人の意思を,場や施設の枠組みを超えて共有していくための方法を検討していくことが必要といえる.
4 質的研究施設職員の看取りに対する認識に関する質的研究では,高齢者ケア施設での看取りについて,職員の抱える課題や教育ニーズ,介護職へのサポートの必要性が明らかとなった.
高齢者ケア施設では,看護職と介護職が協同し,主に介護職が日常生活を支えるケアを行っている.北島ら31)は,入居者の生活の質を高く保つには,介護スタッフが個々の入居者を理解しケアの工夫を行っていこうとする意欲を持つことが必要であると述べている.つまり高齢者ケア施設における看取りの質の向上のためには,介護職に対する看取り教育や多職種連携および医療機関等との連携を通し,看取りに関わる介護職の負担を軽減し,やりがいを感じながら働ける環境を整えていくことが求められる.介護職に焦点を当てた研究も今後進めていく必要があるだろう.
文献データベースを用いた文献検索の結果,抽出された23文献を,介入研究4件,介入のための教育・質改善ツール開発3件,調査研究13件,質的研究3件に分類した.高齢者ケア施設における研究は微増傾向にあるが介入研究は少ないこと,看取りの実施の関連要因として施設長・看護管理者の方針や,家族の明確な意思決定などがあること,施設職員の抱える課題や教育ニーズ,介護職へのサポートの必要性が示されていた.高齢者ケア施設での看取りに関する介入研究,施設長・看護管理者への支援,入居者・家族の意思決定支援や,職員を対象とした教育プログラムの開発などが高齢者ケア施設における看取りの質の改善に有用であろう.
本研究は科学研究費補助金 挑戦的萌芽研究(25670941) 「終末期ケアに関わる看護師主導型の各種クリニカル・パスの評価」の一部として実施した.