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Palliative Care Research
Vol. 11 (2016) No. 4 p. 248-253

記事言語:

http://doi.org/10.2512/jspm.11.248

原著

終末期抗がん治療の現状と緩和ケア病棟の意義

Abstract

終末期における抗がん治療の現状を知り緩和ケア病棟(PCU)の意義を検討する目的で,2013年10月からの2年間に当院で死亡したがん患者414例(PCU 219例,一般病棟195例)を対象に,抗がん治療歴や緩和ケア状況を検討した.その結果,一般病棟ではPCUに比べ高齢で,診断が遅く,病勢進行が速い患者が多く,これらが標準的な抗がん治療や緩和ケアの機会を妨げる要因となった可能性が示唆された.一方,化学療法施行例においては,最終治療日から死亡までの中央値がPCU 110日に対し一般病棟は55日と有意に短く,死亡前1カ月間の化学療法施行率もPCU 2%に対し一般病棟は32%と高率であった.終末期の抗がん治療を適正化する上でPCUの意義は大きいと考えられたが,診断時期や病勢進行速度にかかわらず早期からの緩和ケアを実践するには,社会全体に向けた緩和ケアやアドバンスケアプランニングの普及啓発が大切である.

緒言

がん診療の領域では日々新しい治療法が開発され,科学的なエビデンスに基づいた診療指針が普及しつつある1).また,本邦では,がん対策基本法が施行され,診断時からの緩和ケアの大切さが謳われている.しかし,終末期患者に対する抗がん治療については明確な指針がなく,治療の限界を受け入れて適切な時期に終了すべきであるという考え方2)が広まりつつある一方で,最期まで抗がん治療に希望を求めようとする患者も少なくない3).終末期の抗がん治療のあり方については,個々の患者・家族の理解度や死生観とともに医療者の考え方や患者との向き合い方などによって大きく左右されているのが現状で,実際にどの程度の終末期まで抗がん治療が実施されているかの報告も少ない.

当院は大阪府指定のがん診療拠点病院で,2013年10月に緩和ケア病棟(PCU)を開設し,院外からも含めて積極的に終末期患者を受け入れるようになった.そこで今回,PCUと一般病棟で死亡したがん患者を対象に,終末期における抗がん治療の現状を比較検討し,PCUへの入院を含めた緩和ケアの意義について考察した.

方法

2013年10月から2015年9月までの2年間に当院に入院し,その入院中に死亡したがん患者414例(PCU 219例,一般病棟195例)を対象に,診療録や診療情報提供書から,抗がん治療歴や緩和ケアの関わり状況を中心とした臨床経過を比較検討した. 

当院は大阪市南部に位置する329床の急性期病院で,がんを扱う主な診療科は消化器内科,呼吸器内科,消化器外科,呼吸器外科,脳外科,整形外科で,泌尿器科や婦人科は有していない.2013年10月に院内改装により14床のPCUを開設した.入棟までの手順としては,院内入院患者については主治医が入棟申込書を提出しPCUスタッフによる患者および家族の面談を行い,院外患者については患者もしくは家族が緩和ケア外来を受診し病棟見学した後に,入棟判定会議において入棟適応や順序を判断した.

統計学的解析にはStatMateV®を用い,2群間の有意差検定にはMann-Whitney U testもしくはχ2テスト,多群間の比較にはKruskal-Wallis testとDann test,相関関係はSpearmanの順位相関分析を用い,p<0.05をもって有意とした.

結果

1 患者背景

PCUでの死亡219例中,緩和ケア外来を経ない院内転棟は83例(38%)で,他院から緩和ケア外来を経由した入院が136例(62%)であった.後者において,外来紹介時に他院入院中であったのが44名(32%),外来通院中もしくは在宅診療中が92名(68%)で,これらの患者の中で早期転院(入院)希望者は48名(35%),外来もしくは在宅緩和ケアを継続しつつ必要になった際に入院を希望したのが88名(65%)で,化学療法継続中の患者も含まれていた.早期入院希望者の待機期間は0〜23(平均6)日で,待機患者における入院希望表出までの期間は1〜425(平均44)日であった.

一方,一般病棟での死亡195例中にはPCUへの転棟待機中の患者が7名含まれ,他の7名についても当院の緩和ケアチーム(PCT)が関わっていた.これら14例を除く181例において,PCTへのコンサルテーションやPCU入棟申し込みが行われなかった主な理由を診療録から推測したところ,「とくに緩和すべき症状に乏しいか主治医や在宅医により適切な緩和ケアが提供されていた」のが93例(51%),「急速な病勢進行のため緩和ケアを考慮する余裕がなかった」のが74例(41%),「抗がん治療への強いこだわりがあったため」が9例(5%),「がんに直接関係のない合併症の治療が優先されていた」のが5例(3%)であった.

全患者の背景を表1に示した.年齢はPCUで若く,原発臓器では両病棟ともに肺や消化器系が大半を占めていたが,PCUでは一般病棟に比べて肝癌が少なく,泌尿器や婦人科系のがん患者が多かった.また,PCUでは初回治療(無治療患者では診断)が他施設で行われていた患者が多かった.

表1 患者背景

2 抗がん治療歴の比較

原発巣の切除が行われていたのはPCU 219例中84例(38%),一般病棟195例中36例(18%)で,放射線治療はそれぞれ60例(27%),8例(4%),化学療法はそれぞれ137例(63%),88例(45%)と,いずれの治療もPCUで多かったのに対し,抗がん治療歴の全くない患者はそれぞれ58例(26%),87例(45%)と,一般病棟で有意に多かった.

3 診断から死亡までの期間

がんとの診断から死亡までの期間は2日〜32年(平均24カ月,中央値11カ月)で,PCUに比べて一般病棟で有意に短かった.抗がん治療歴別に比較すると,化学療法施行群と抗がん治療歴のない群において両病棟間に有意差が認められた(図1).一方,原発臓器別に比較すると,乳癌が明らかに長く,肺や胃,胆膵癌に比べて有意差を認めた.また,大腸癌,肝癌も胃,胆膵癌に比べて有意に長かった.さらに,原発臓器別に両病棟を比較すると,肺,食道,胃癌において,一般病棟がPCUに比べて有意に短かった(表2).


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図1 抗がん治療歴別の診断から死亡までの期間

*Mann-Whitney U test


表2 診断から死亡までの期間(疾患別に病棟間を比較)

4 終末期における化学療法の実際

化学療法が施行された225例(PCU 137例,一般病棟88例)について最終化学療法施行日から死亡までの期間を検討したところ,PCUでは中央値が110日,一般病棟では55日と,一般病棟で有意に短く,PCUでは1カ月未満,1〜2カ月の施行率が,それぞれ2%,15%であったのに対し,一般病棟ではそれぞれ32%,22%と,半数以上の症例で死亡2カ月前まで抗がん化学療法が施行されていた(図2).最終治療日から死亡までの期間を年代別に比較すると,いずれの年代でも一般病棟の方が有意に短かった(図3)が,年齢との相関をみると,全症例(n=225)ではRs=–0.010, p=0.877,PCU(n=137)ではRs=0.172, p=0.045,一般病棟(n=88)ではRs=0.168, p=0.118で,PCUのみで有意な正の相関が認められた.さらに,最終化学療法日から死亡までの期間を原発臓器別に比較すると,肺癌と胃癌が大腸癌や肝癌に比べて短く,胆膵癌が肝臓に比べて有意に短かった.また,原発臓器別に病棟間を比較すると,肺癌,胃癌,胆膵癌において,PCUに比べて一般病棟で有意に短かった.


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図2 化学療法施行例における最終治療日から死亡まで期間(病棟間の比較)


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図3 化学療法施行例における最終治療日から死亡まで期間(年代別による比較)

*Mann-Whitney U test


一方,死亡前1カ月以内に抗がん化学療法が施行されていた32例における緩和ケアの関与について検討すると,当院PCUへの入院もしくはPCTが関与していたのは4例で,それ以外の28例について当院PCUやPCTが関与しなかった理由を診療録から推定すると,「とくに緩和すべき症状に乏しいか主治医や在宅医により適切な緩和ケアが提供されていた」のが5例(18%),「急速な病勢進行のため緩和ケアを考慮する余裕がなかった」のが14例(50%),「抗がん治療への強いこだわりがあったため」が9例(32%)であった.

考察

当院は周囲に大学病院などのhigh volume centerが多数存在しているという立地条件から,以前からもこれら施設の終末期患者を受け入れてきたが,PCU開設とともに緩和ケア外来を経由してより積極的に受け入れるようになった結果,PCUでは一般病棟に比べて院外からの患者比率が有意に高くなり,疾患構成も両病棟で若干の違いが生じた.患者背景は両病棟間で大きく異なり,PCUに比べて一般病棟群が高齢で,抗癌治療歴のない患者が多く,診断から死亡までの期間も短いことが明らかになった.また,診断から死亡までの期間の差は,病勢進行の比較的速い肺,胃,胆膵癌や,切除や放射線治療の適応とならなかった症例で顕著であった.これらの結果は,一般病棟では診断が遅れた患者や病勢進行が速い患者が多かったことを示しており,このことが一般病棟の約4割の患者で,緩和ケアを考慮する余裕がなかった原因と考えられた.これは,緩和ケア外来を経由してPCU入院となった約2/3の患者で平均1.5カ月(最長1年2カ月)という比較的時間的余裕のある緩和ケアを受けていたのとは対照的であった.したがって,診断時期や病勢進行速度にかかわらず全ての患者に早期からの緩和ケアを実践するためには,社会全体に向けた緩和ケアやアドバンスケアプランニングの普及啓発が大切であると考えられた.

一方,一般的に局所治療の適応を超えた進行がんに対する抗がん治療としては化学療法に限られるが,当院の一般病棟で死亡した化学療法施行88例中29例(32%)で死亡前1カ月以内に化学療法を受けており,PCUでは2%にすぎなかったことと比較して著明に高率であった.また,PCUでは高齢になるとともに死亡前の化学療法が控えられる傾向があったが,一般病棟では年齢による死亡前化学療法実施期間への影響は認めなかった.同様の結果は他施設からも報告されており,中野ら4)は,死亡1カ月前の化学療法施行例は,造血器腫瘍で67%,肺癌39%,乳癌37%,胃癌26%,大腸癌17%,婦人科癌6%であったと報告している.一方,佐藤ら5)による本邦のナショナルデータベースのサンプリングデータセットからの解析では,PCUを除く入院での死亡前2週間の化学療法施行率は3.5%で,死亡前1カ月に換算しても,実際にはわれわれや中野らの報告4)ほど高率ではない可能性もある.がん治療を積極的に行っている急性期病院と全国平均とは乖離がある可能性もあり,今回のわれわれの検討も単施設からの結果にすぎないことから,一般化して論じるには慎重である必要がある.

しかしながら,死亡前1カ月を過ぎると倦怠感や食欲不振,傾眠などが急速に増悪6)し,栄養状態も急激に悪化7)すると報告されており,Saitoら8)は,死の直前まで化学療法を継続することは緩和ケアを受ける機会を失うのみならず予後も縮めている可能性を指摘している.Temelら2)も,転移性非小細胞肺癌患者において,終末期まで標準的な化学療法を行うよりも緩和ケアに専念する方が生存期間は延長すると報告しており,適切な治療終了時期を見極めることは極めて大切である.がん専門医にとって抗がん治療の中止を患者に伝えることは非常に大きな負担であり9),ともすれば腫瘍医のバーンアウトにもつながるとの報告もある10)が,予後を告知したとしても決して関係性は悪化せず11),抗がん治療早期に緩和ケアについての情報を提供しておくことで死亡直前の化学療法を回避できる12)との報告もある.今回の検討でも早期からPCUという選択肢もあることを伝えることで,適切な時期で化学療法を終了できた症例も少なくなかったと思われた.したがって,早期からの緩和ケアを実施する過程で,化学療法の意味や限界も正確に理解してもらえるよう努めることで,過剰な化学療法を回避できる可能性があると考えられた.

結論

今回の検討の結果,PCUと一般病棟では,がんで死亡する患者背景に大きな違いがあり,一般病棟ではPCUに比べ高齢で,診断が遅れ,病勢の進行が速い患者が多く,このことが標準的な抗がん治療の適応や早期からの緩和ケア関与のみならず,適切な時期での抗がん治療終了の妨げともなっている可能性が示唆された.終末期の抗がん治療を適正化する上でPCUの意義は大きいと考えられたが,診断時期や病勢進行速度にかかわらず早期からの緩和ケアを実践するためには,社会全体に向けた緩和ケアやアドバンスケアプランニングの重要性を普及啓発することが大切であると考えられた.

Reference list

1)  日本癌治療学会編.「がん診療ガイドライン」. http://jsco-cpg.jp/top.html 2016年3月18日アクセス.
8)  Saito AM, Landrum MB, Neville BA, et al. The effect on survival of continuing chemotherapy to near death. BMC Palliat Care 2011; 10: 14.
11)  Enzinger AC, Zhang B, Schrag D, et al. Outcomes of prognostic disclosure: associations with prognostic understanding, distress, and relationship with physician among patients with advanced cancer. J Clin Oncol 2015; 33: 3809-16.
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