Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
11 巻, 4 号
選択された号の論文の14件中1~14を表示しています
原著
  • 林 優美, 小早川 誠, 岡村 仁, 山脇 成人
    2016 年 11 巻 4 号 p. 234-240
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/17
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    がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会が,効果的であることを示す報告は多くない.受講者の知識や満足感に加え緩和ケアの実践に近い評価項目を用いた検討を行うため,広島県で1年間に行われた緩和ケア研修会(PEACEを利用)の受講者323名を対象とした調査を行った.研修会で扱う内容を踏まえ,緩和ケアの専門家ではなくても自分から実践しようとする姿勢に変化があるかを問う形式の質問票を作成した.26項目につき,「ほとんど自分で行う」から「ほとんど緩和ケアの専門家にまかせる」まで5段階のLikartスケールを用い,受講前後の変化について解析した.結果,有効回答を得た206名では,せん妄および気持ちのつらさに対する薬剤の調整をのぞき,ほとんどの項目について有意に緩和ケアの実践を自ら行う方向に傾向が移っていた.緩和ケア研修会は受講者の緩和ケア実践の姿勢についても良い変化を生じる可能性が示唆された.

  • 森岡 慎一郎, 森 雅紀, 鈴木 知美, 横道 麻理佳, 森田 達也
    2016 年 11 巻 4 号 p. 241-247
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/25
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    終末期がん患者が発熱を呈した際,どのような検査や治療を重視するかという意向は医療者間で異なり,葛藤を引き起こしうる.本研究は,感染症診療に関する医療者間の意向の差異に繫がる要因や葛藤が生じる状況を同定することを目的に,終末期がん患者の診療に携わる医師,看護師20名を対象に半構造化面接を行った.意向の差異に繫がる要因としては,「予測される予後による」「検査・治療が患者の苦痛を伴うか否か」「医師の指示内容を受け入れられるか否か」などの要因のほか,「患者・家族が検査・治療を望んでいるか否か」「検査・治療による患者のメリットがあるか否か」などのカテゴリーが得られた.また,医師・看護師ともにお互いの認識のズレがある時や,相手の意図・指示が理解できない際に葛藤を感じていた.感染症診療に関する意向の差異がなぜ生じるのかを認識することで,終末期がん患者に対するチーム医療の質の向上に繫げられると考えられる.

  • 田中 宏, 江口 由紀, 松本 明子, 杉井 健祐, 坂口 智香, 丹後 ゆかり, 丸濱 勉, 藪嶒 恒夫
    2016 年 11 巻 4 号 p. 248-253
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/02
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    終末期における抗がん治療の現状を知り緩和ケア病棟(PCU)の意義を検討する目的で,2013年10月からの2年間に当院で死亡したがん患者414例(PCU 219例,一般病棟195例)を対象に,抗がん治療歴や緩和ケア状況を検討した.その結果,一般病棟ではPCUに比べ高齢で,診断が遅く,病勢進行が速い患者が多く,これらが標準的な抗がん治療や緩和ケアの機会を妨げる要因となった可能性が示唆された.一方,化学療法施行例においては,最終治療日から死亡までの中央値がPCU 110日に対し一般病棟は55日と有意に短く,死亡前1カ月間の化学療法施行率もPCU 2%に対し一般病棟は32%と高率であった.終末期の抗がん治療を適正化する上でPCUの意義は大きいと考えられたが,診断時期や病勢進行速度にかかわらず早期からの緩和ケアを実践するには,社会全体に向けた緩和ケアやアドバンスケアプランニングの普及啓発が大切である.

  • 清水 恵, 青山 真帆, 森田 達也, 恒藤 暁, 志真 泰夫, 宮下 光令
    2016 年 11 巻 4 号 p. 254-264
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/09
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    終末期がん患者が受けた緩和ケアの質の維持向上のために,定期的な緩和ケアの質の評価は重要である.本研究では,我が国2回目の全国的遺族調査(J-HOPE2)を実施し,遺族の視点での緩和ケアの現状と前回J-HOPEからの変化の有無を検討した.日本ホスピス緩和ケア協会会員施設の一般病院25施設,緩和ケア病棟103施設,診療所14施設で死亡したがん患者の遺族への自己記入式質問紙により7,797名の回答を得た.ケアへの全般的満足度は高く維持されていた.しかし,改善の必要性のある側面として,一般病院では,医療者間の連携,看護師の知識技術,医師の対応,緩和ケア病棟では,入院しやすさ,診療所では,設備環境が示唆された.経時的には,J-HOPEの結果との臨床的に意味のある変化はなかった.我が国の緩和ケアの質を維持向上していくために,今後もこのような大規模遺族調査を定期的に実施していくことが重要である.

  • 古川 陽介
    2016 年 11 巻 4 号 p. 265-273
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/09
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    本研究は,造血器腫瘍疾患看護に携わる看護師が,日々のケアの中で感じる困難を測定する尺度を開発し,信頼性と妥当性を査定した.自記式質問紙調査を行い,探索的因子分析の結果,6下位尺度「長期にわたる患者・家族の心理的支援,意思決定支援」「多彩な造血器腫瘍の病態,治療の理解」「全身状態の悪化や化学療法による苦痛症状・有害事象の予防・緩和」「医師との連携」「造血幹細胞移植後に出現する合併症の緩和」「終末期の療養場所の選択,実現への支援」35項目からなる尺度を採択した.本尺度のCronbach’s αは.96で,各下位尺度は.84〜94であった.造血器腫瘍疾患看護の経験年数で2群に分けた比較により既知集団妥当性,外的基準とした看護師のがん看護に関する困難感尺度(NDCC)との合計得点間の相関により基準関連妥当性が確認できた.本尺度は一定の信頼性と妥当性を確保しており,院内教育プログラムの内容や評価を検討する際に活用できる尺度である.

  • 舩水 裕子, 安藤 秀明, 宮下 光令
    2016 年 11 巻 4 号 p. 274-281
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/28
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    【目的】①緩和ケア認定看護師の現在の活動状況・職務満足度・バーンアウトの実態を把握すること,②職務満足度とバーンアウトの関連要因の探索を目的に研究を行った.【方法】2008年に緩和ケア認定看護師362名を対象とし,その背景と活動状況,職務満足度,バーンアウト尺度からなる調査票を郵送した.【結果】有効回答を得た226名の調査票をロジスティック回帰分析をした.職務満足度の高い群と関連する項目は,「年齢が高い」「在職期間が長いこと」「目標を明確にしているもの」だった.バーンアウト群は44%で,関連する項目は,「職務満足度合計が低い」「勤務場所・形態が希望に沿っていない」「職業的地位」の満足度が低い,「婚姻してない」だった.【結論】年齢が高く,組織での意思疎通が図られていることが職務満足度を高くし,バーンアウトを回避していた.年齢が若く,組織での意思疎通が困難な者へのサポートが必要と示唆された.

  • 長島 渉, 崎山 奈津子, 鈴木 大吾, 渡邉 啓介, 水野 るみ子, 鈴木 利恵, 森本 優子, 望月 寿人, 會津 恵司
    2016 年 11 巻 4 号 p. 282-288
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/28
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    【目的】春日井市民病院では,症状緩和と療養場所の意向に関する意思決定支援を中心とした緩和ケアクリニカルパスを導入している.本研究では,自宅退院の意向を持つがん入院患者の自宅退院を困難にする要因をクリニカルパスの情報を基に探索した.【方法】2014年6月〜2015年8月の期間で緩和ケアチームが介入したがん入院患者のうち今後の療養先の意向が自宅である患者を対象とし,診療録を後方視的に調査した.自宅退院を困難にする要因についてロジスティック回帰分析を行った.【結果】解析対象43名の内,自宅退院された患者は25名(58.1%)であった.多変量解析の結果,せん妄の存在と独居が自宅退院に影響する因子として選択された.【結論】自宅退院の意向を持つがん患者の自宅退院を困難にする要因として,せん妄の存在と独居であることが示唆された.せん妄については早期発見・早期治療が,介護者の問題は早期から退院支援部門との連携が必要である.

短報
  • 赤司 雅子, 湯之原 絢, 春日 真由美
    2016 年 11 巻 4 号 p. 326-330
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/17
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    医療・介護関連肺炎(以下,NHCAP)の合併は,終末期がん患者にとって予測困難な症状の原因となる.本報告ではNHCAPの併存症状と臨床的に行われた治療に対する効果を探索するため,がん患者にNHCAPを合併した15例を対象に,併存症状の頻度と使用薬剤による症状緩和の効果を後ろ向きに調査した.NHCAPに関連した症状は,呼吸器関連症状以外に疼痛,不眠,発熱,倦怠感,経口摂取困難,口渇,嘔気,眠気,抑うつだった.同時に合併した症状の数は,4.6±1.8だった.オピオイドの投与(13人)とグルココルチコイドの投与(6人)で,疼痛と呼吸困難の軽減が得られた.抗菌薬は全例に投与され,喘鳴(3人)と発熱(4人)の軽減を認めたが,他の症状の軽減はなかった.がん患者のNHCAP合併時は呼吸器関連の症状以外にも,精神症状や疼痛,消化器症状を合併することを認識し,症状緩和を行う必要があることが示唆された.

  • 今井 堅吾, 森田 達也, 森 雅紀, 横道 直佑, 福田 かおり
    2016 年 11 巻 4 号 p. 331-336
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/25
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    苦痛緩和のための鎮静のモニタリングでは,modified Richmond Agitation-Sedation Scale (以下,緩和ケア用RASS)が有望な一つである.緩和ケア用RASSについて,言語的に妥当な翻訳版を作成する際に標準的に用いられる手順に従い,日本語への翻訳を行った.緩和ケア用RASSでは,RASSから,人工呼吸器に関する記述の削除,RASS+1の説明の追記の2点が緩和ケアで使用しやすいように修正されている.それに加え,今回,RASSの評価において「胸骨を圧迫する」の記述を削除したうえで翻訳を行った.翻訳者と研究チームで,言語として原作と同等であると合意できるまで繰り返し言語的妥当性を検討したうえで,緩和ケア用RASS日本語版を作成した.苦痛緩和のための鎮静のモニタリングに緩和ケア用RASS日本語版を使用することで,適切で安全な鎮静が実施されることが期待される.

  • 西 智弘, 小杉 和博, 柴田 泰洋, 有馬 聖永, 佐藤 恭子, 宮森 正
    2016 年 11 巻 4 号 p. 337-340
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/05
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    本邦における余命の告知が,内容まで含めてどの程度具体的に行われているのかを示した報告は少ない.2013年4月から2016年3月までに,緩和ケア科の初診に紹介された患者について,前医における余命の告知に関する記載について診療録から後方視的に抽出した.結果,248名が調査対象として抽出され,そのうちの43%が「数字断定」の告知を受けていることがわかった.一方,19%の患者・家族は,主治医から余命について「聞かされていない」という結果であった.本研究から,一定の割合で「数字断定」的な余命の告知が行われていることが示唆され,終末期の話し合いについての改善の必要性が改めて示された結果であると言える.

症例報告
  • 寺田 忠徳, 北村 典章, 中西 司
    2016 年 11 巻 4 号 p. 553-557
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/02
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    【緒言】ベンラファキシンを投与した結果,抑うつ症状や神経障害性疼痛の改善を認めた肺がんの骨転移の症例を経験した.【症例】84歳,女性.肺がんの右大腿骨転移による骨折で当科に転院した.転院時より疼痛並びに抑うつ状態を認めた.オキシコドン徐放剤を増量したが,骨痛,神経障害性疼痛の残存を認めた.さらに抑うつ状態は続いた.ベンラファキシンを投与し,抑うつ状態,骨痛,神経障害性疼痛が改善した.【考察】ベンラファキシンは低用量では主にセロトニン系に,高用量ではセロトニン系とともにノルアドレナリン系の作用が強まるというデュアルアクションを特徴としている.低用量で抑うつ状態の改善を認め,高用量で骨痛,神経障害性疼痛の軽減を認めた.本邦ではがん患者のみならず,抑うつ患者でもベンラファキシンを投与した報告例がまだ認められていない.ベンラファキシンは患者,家族に恩恵がある薬剤であることが本症例から示唆された.

  • 安江 敦, 志村 麻衣子, 杉浦 加奈, 吉川 朝子, 家田 秀明
    2016 年 11 巻 4 号 p. 558-561
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/16
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    子宮頸がん術後骨盤内再発に閉鎖孔ヘルニアを合併した1例を報告する.がん種によらず骨盤内再発がんでは神経障害性疼痛を合併することが多い.一方閉鎖孔ヘルニアでもHowship-Romberg徴候と言われる神経障害性疼痛を合併するが,比較的稀な疾患で診断が困難とされる.本症例では転院時すでに左大腿内側に神経障害性疼痛を認めていたが経過中に反対側にも同症状が出現した.鎮痛補助薬を追加したが右側の疼痛は改善されず大腿から膝までの広範な熱感と発赤も出現した.CT検査では皮下気腫像と膿瘍形成を認めた.以上から右側大腿については閉鎖孔ヘルニアを来し嵌頓した消化管が右下肢に穿破したものと診断した.閉鎖孔ヘルニアは鑑別困難であるが早期に診断し得れば用手的整復することで重症化を回避できる可能性がある.骨盤内再発がんで神経障害性疼痛を認めた場合,閉鎖孔ヘルニアの可能性も早期に考慮し,適切に評価することが重要である.

活動報告
  • 白木 照夫, 小谷 良江, 岡村 典子, 浅田 知香, 松本 久子, 坂田 恵美, 西藤 美恵子, 藤岡 邦子, 相田 保季, 平田 久美
    2016 年 11 巻 4 号 p. 916-920
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/20
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    【緒言】動物の訪問による動物介在療法や動物介在活動は,本邦の一般病院にも広く導入されてきている,一般病院の緩和ケア病棟(以下PCU)での活動に関する報告は少ない.【方法】当院PCUで,2013年6月より,NHO日本アニマルセラピー協会の協賛により,犬が病院訪問を開始した.今回われわれは,緩和ケアの一環としてこの活動の効果や問題点を検討した.【結果】3名のセラピストが,セラピー犬3頭をつれて月2回病院を訪問し,2016年9月末までに計73回の会に,のべ487名の患者が参加した.開催後には患者家族は癒しを感じ,医療者とのコミュニケーションの改善が得られた.安全衛生面でとくに有害事象は生じなかった.【考察】セラピー犬の訪問は,介入動物の調教や安全衛生が確保されれば,一般病院PCUにおいても支障なく導入できた.アニマルセラピーは患者や家族だけでなく,職員にとっても癒しを実感することができる.

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