Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
活動報告
早期からの緩和ケア外来の実践に関する後方視的研究
西 智弘小杉 和博柴田 泰洋有馬 聖永佐藤 恭子宮森 正
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2017 年 12 巻 1 号 p. 901-905

詳細
Abstract

2015年8月から,他院で化学療法中の患者を緩和ケアとして併診する目的で,早期からの緩和ケア外来(EPC外来)を開設.2015年8月~2016年1月に,EPC外来を受診した患者について,初診診察時間,診察の内容,入院・死亡までの期間などについて,診療録から後ろ向きに調査を行い,同時期に腫瘍内科を受診した患者と比較検討した.結果,EPC外来群19名,腫瘍内科外来群11名が,それぞれ延べ80回および117回外来受診.初診外来での診察時間中央値は各45分(10〜106),38分(23〜60)であった(p=0.17).診察の内容は,症状緩和,コーピングなどについてはEPC外来群が有意に多かった.EPC外来群では初診から60日以内死亡が5名(26%)であった.EPC外来で初診に要する時間は腫瘍内科外来と同程度であった.紹介されてくる時期が遅い患者も多く,今後の啓発と継続した実践が重要である.

緒言

早期からの緩和ケア(early palliative care: EPC)は,海外を中心にその有用性が報告されている.EPCを「進行がんと診断されてから,早期(概ね2カ月以内)に,専門的緩和ケアサービスの介入が行われること」と定義されるとき,その有用性を世界に印象付けたのはTemelらの無作為化比較試験であろう1).この試験では,EPCがQOLや抑うつの改善だけではなく生存期間を延長させる可能性も示した.その後も,多くの追試が行われ,結果は様々ではあるものの,世界的にはEPCが患者本人や家族にとって有用であるというコンセンサスができつつある26)

この結果を受けて川崎市立井田病院(以下,当院)では,他院で化学療法中の患者を緩和ケアとして併診する目的で,早期からの緩和ケア外来(以下,EPC外来)を2015年8月に開設した.本邦においては臨床試験を除き,EPCを目的とした専門外来を開設・運営した施設は筆者の知るかぎりほかに例はなく,今回,その1年間の実践の内容についての検討を行ったため報告する.

方法

2015年8月~2016年1月までの6カ月間に,EPC外来を受診した全患者および腫瘍内科外来を受診した全患者について,患者背景,初診時の診察時間,診察回数,診察の内容,初診から入院・死亡までの期間,について,2016年7月末までの診療録から後ろ向きに調査を行い,比較検討した.

EPC外来は毎週金曜午前に30分×6の予約枠を設定し,1名の腫瘍内科・緩和ケア兼任医師が担当し,再来については後述の腫瘍内科外来でフォローした.腫瘍内科外来は,月・火・木の午前に再来として15分枠を設定し,その枠内で初診も対応した.こちらは,腫瘍内科・緩和ケア兼任医師(EPC外来担当医と同一)およびレジデント2名の合計3名が担当した.

EPC外来の対象は,Stage IVまたは再発の,他院にて抗がん剤治療中の進行癌の方とした.進行癌と診断されてからの期間や予後,現在の治療内容については問わなかった.当院の緩和ケアコーディネーター3名が,他院からの緩和ケア科あての紹介について,上記基準に該当する患者をEPC外来に振り分けを行った.EPC外来初診にはソーシャルワーカーまたは看護師が必ず同席し,患者・家族のニーズに応じて支援を行った(再来は必要に応じて同席).

腫瘍内科外来の対象は,Stage IVまたは再発の,抗がん剤治療を目的に紹介された患者とした(紹介元が自院・他院かは問わない).補助化学療法目的の紹介や,入院中外来として紹介を受けた例については除外した.

EPC外来および腫瘍内科外来について,当院では緩和ケア科と腫瘍内科が統合されているため,基本的に科や担当医の変更は行われず,最期まで診療を継続した.

初診時の診察時間については,電子カルテの記録から「診療録を開いた時間」を診療開始時間と定義した.また,診療終了時間については「次回予約の取得時間」「処方箋発行時間」「次回検査発行時間」のうち,遅い方を終了時間と定義し,診療開始時間と診療終了時間の差を診察時間とした.診察時間についてWilcoxon検定を用いて比較検討した.

診察の内容については,先行文献7)を参考に,診療録から「1:症状緩和」「2:病状理解のレビュー」「3:精神的ケア・コーピング」「4:治療への意思決定支援」「5:治療プランについての相談」「6:End-of-Life Discussion(EOLd)」「7:ラポール形成」「8:家族ケア」「9:医療的問題のマネジメント」に当てはまるものを,全観察期間において抽出した.各外来で構造化された面談内容は設定されていないが,EPC外来では先行文献7)を参考に,EOLd を重視した介入が意識された.EPC外来および腫瘍内科外来において,各項目が実施された頻度について,χ2検定を用いて比較した.

入院までの期間については,初診から,病状進行の結果としての初回入院までの期間と定義し,放射線治療などによる予定入院は除いた.生存期間については,各外来の初診から死亡までの期間について生存曲線の推定をKaplan-Meier 法を用いて行い,中央値を算出のうえ,標準誤差からその両側95%信頼区間(CI: confidence interval)を算出した(使用統計演算ソフトJMP®8,SAS Institute Inc. USA).

本研究で用いるデータは,患者本人または家族からその使用について文書で同意を得ており,研究内容について当院における倫理委員会による承認を受けた.

結果

EPC外来群19名,腫瘍内科外来群11名が,それぞれ延べ80回および117回外来受診した.患者背景について表1に示す.進行癌と診断されてからEPC外来または腫瘍内科外来までに紹介されるまでの期間は,それぞれ12カ月(3〜113),2カ月(1〜10)であった.EPC外来群で初診時まで抗がん治療を継続できていた例は12例(63%)であった.観察期間中央値は,EPC外来群が100日(1〜293),腫瘍内科外来群が195日(24〜356)であった.

表1 患者背景

初診外来での診察時間について図1に示す.診察時間の中央値はEPC外来群45分(10〜106),腫瘍内科外来群38分(23〜60)であった(p=0.17).

図1 初診における診察時間(分)

診察の内容について図2に示す.有意差をもってEPC外来で頻度が高かった項目は,1:44% vs. 14%, p<0.001,3:30% vs. 4%, p<0.001,6:25% vs. 7%, p<0.001,7:25% vs. 9%, p=0.002,であった.意思決定支援と家族ケアについては,有意差はないがEPC外来で行われている頻度が高い傾向にあった(4:29% vs. 18%, p=0.052,8:13% vs. 6%, p=0.08).一方,腫瘍内科外来で有意に高い頻度で行われた項目としては,5: 10% vs. 29%, p=0.002,9:6% vs. 64%, p<0.001,であった.

図2 各外来において行われた内容の頻度(%)

1:症状緩和,2:病状理解のレビュー,3:精神的ケア・コーピング,4:治療への意思決定支援,5:治療プランについての相談,6:End-of-Life Discussion,7:ラポール形成,8:家族ケア,9:医療的問題のマネジメント

EPC外来群において,初診から60日以内に病状の悪化により緊急入院が必要となった例は7例(37%)であり,そのうち死亡については5例(26%)であった.腫瘍内科外来では,初診から60日以内の入院および死亡は1例(9%)であった.生存期間中央値は,EPC外来群で119日(95%CI: 57〜217),腫瘍内科外来群はイベント数が少なく中央値の算出はできなかった(95%CI: 67-not available [NA]).両生存期間に有意な差は認められなかった(p=0.138).

考察

EPC外来で行われている実際の診療について報告した.

本報告において判明したこととして,EPC外来の初診に要する時間は腫瘍内科外来と同程度であった点がある.EPC外来に受診する患者は比較的予後が長く全身状態もよい傾向にあり,症状緩和について長い時間を割かれず,また一度の外来で全てを評価する必然性がないことから話題を計画的に次回外来へまわすなど,時間のコントロールが図りやすいことなどが要因として考えられる.腫瘍内科の初診が,多くの病院で一般診察枠の中で滞りなく運営されている現状から,EPC外来についても一般的な外来枠内で実施することは可能と考える.ただし,腫瘍内科外来と比較して,診察に要する時間はばらつきも多く,当院のように別枠を準備するなど,余裕をもった体制の構築が無難である.

EPC外来で行われている診療の内容は,End-of-Life Discussionなどを中心とした介入が行われた.Temelらによる早期からの緩和ケアにおける無作為化比較試験1)について,実際に行われた診療について質的分析をした報告7)では,症状緩和だけではなく,患者・家族とのラポール構築,EOLd,予後を含めた病気の理解を強化するなど心理社会的要素に焦点を当てることが行われたとされており,本研究でも同様の介入が可能であった.

また,初診から60日以内の入院や死亡が3~4例に1例の割合で発生していることからは,紹介されてくる時期が遅い患者も多く,今後の啓発と継続した実践が重要であるともいえる.このことは一方で,診断から紹介までの期間や,残された予後などによる制限を撤廃したEPC外来を開設し広報したとしても,何らかのシステム化をしないかぎりは,実際に紹介されてくる患者は,Temelらの試験1)の対象とは異なるということを意味している.Temelらの手法は,そのまま実臨床で実施していくことは困難である可能性が指摘されており8),何らかの形でmodifyされる必要があると考えられるが,日本においては自然とmodifyされてしまうというのが現状ということである.

本研究の限界としては,単施設における後方視的研究であることから,患者群や診療の内容に偏りがある可能性や,実際の面談の内容および前医での専門的緩和ケアサービスの有無や詳細な治療内容が漏れている事項もある可能性があり,データの信頼性に問題点がある.EPC外来の担当医と腫瘍内科外来の担当医のうち1名は同一であり,その点について面談の内容に影響を与えている可能性も否定できない.また,症例数が少ないという問題や,観察期間がやや短く,イベント数が不足しているといった点もあり,今後症例数をより増やして,観察期間を長くとった前向き研究を行っていく必要がある.

結論

以上から,日本においてもEPC外来と銘打って開設し,運営していくことは実施可能である.実際に紹介される患者は診断早期からとは言い難い方も多いが,EPCを実践していくためにまずはこの外来を開設し,啓発や地域内システムの構築に努めていくことは重要であると考える.

References
 
© 2017日本緩和医療学会
feedback
Top