2017 年 12 巻 3 号 p. 709-715
【目的】がん治療を受ける患者への外見変化に対するケアについて明らかにすることである.【方法】がん専門病院2施設の看護師にフォーカス・グループインタビューを実施し,質的に分析した.本研究は,研究代表者および共同研究者所属の研究倫理委員会の承認を得て実施した.【結果・考察】6グループ21名に実施した.平均年齢39.2±6.0歳,看護師経験16.3±5.8年であり,16名は専門・認定看護師,面接は平均42分であった.がん治療を受ける患者の外見変化に対するケアは[外見変化のリスクを見越して備えるための情報提供][外見変化に対応した生活を送るためのセルフケア支援],[患者の意思に寄り添いその人らしい生活を支える外見ケア],[多職種連携による専門性を活かした外見ケア]の4つの大カテゴリーで構成された.今後は,外見ケアを治療方法別や部位別,時期別等に系統立てて分類した研究が求められる.
がんの治療は多様な外見の変化が生じ1),治療を受けたがん患者にとって,髪の脱毛,乳房切除,眉毛・睫毛の脱毛,体表の傷,爪割れ,二枚爪など外見の変化を伴う症状が苦痛であることが報告されている2).とくに脱毛は,周囲からもわかり,自分でも目にすることで常に病気やがん治療を思い出させることとなり3),患者のボディイメージやQOLが損なわれ,自己概念や自尊心に影響すると報告されている4〜6).また,外見の変化は,日常生活に及ぼす影響が大きく7),治療に伴う外見の変化は急激に生じるため,身体的,心理的,社会的に困難を感じ,女性の社会的な活動に影響を与え,社会的孤立を生じることが報告されている8).
近年,治療と仕事の継続,社会的な役割を担うがん患者が増加し,外見を整えるケアとともに,外見の変化に伴う患者の心理社会的な側面を踏まえたケアが重要となっている.がん専門病院において外見変化に対するケアのためのアピアランスケアセンターが設置されるようになり,専門的なケアが期待されている.
本研究グループは,看護師,ソーシャルワーカーより構成され,他の研究グループの研究成果も活用しながら,がん治療を受ける患者の外見変化を有する患者の意欲やQOLの向上をめざすプログラム開発と標準化を計画した.
そこで,本研究は,がん治療を受ける患者への外見変化に対するケアを明らかにすることを目的とした.そのことにより,がん治療による外見変化を有する患者の意欲やQOLの向上をめざすプログラム開発と標準化への示唆を得られると考えた.
フォーカス・グループインタビューによる質的記述的研究.
研究参加者関東圏のがん専門病院2施設において,がん治療を受ける患者のケアに関わった経験を3年以上有する病棟および外来に勤務する看護師とした.
データ収集方法本研究は,プログラム開発の根拠となるように,患者のニーズにそったケアの実態を具体的かつ網羅的に明らかにするために,フォーカス・グループインタビューを計画した.フォーカス・グループインタビューは,質的研究の中でも,「慎重に計画された討議であり,グループダイナミックスをうまく利用して,効率的な方法で豊かな情報を入手する」と定義されている9).
参加者は,施設名の研究参加の勧誘文章を見たうえで任意に,研究者と連絡をとり,内容および方法について文書と口頭にて説明を受け,文書にて同意をした者とした.
研究者は,参加者に対し,インタビューガイドの内容にそって,がん治療を受ける患者への外見変化に対して行っているケアについて,フォーカス・グループインタビューを実施した.
インタビューガイドの内容は以下の通りである.
・患者や家族から相談された内容
・治療前,治療後,外見の変化出現時に,患者・家族に行っているケアの内容・方法
・ケアにおいて注意している点
・インタビューの注意点:インタビュー内容がグループ間で異ならないように,導入で自由に語ってもらうこと,次いでガイドの内容にそって注意している点などについて聞き出すこと.
インタビューは具体的には以下の手順で実施した.
(1)4名程度のグループを設定し,研究者は,司会者として意見を活発に促す役割を果たすために参加した.
(2)フォーカス・グループインタビューの場所は,プライバシーが守れる静かなところを設定した.
(3)時間は,参加者の都合のよい時間を調整し,1グループは1回40分程度とした.
(4)フォーカス・グループインタビューは,相互作用を通しての進行が重要であり,司会者は,参加者に自由に語ってもらえるようにした.なお,グループで話し合った内容については,互いに口外しないよう,フォーカス・グループインタビューの終了時に確認しあった.
データ分析方法発言内容をICレコーダーに録音し,逐語録を作成した.文脈を繰り返し読み,外見変化に対するケアに着目して意味内容ごとに区切りコード化した.コードの類似性および相違性を比較しながらカテゴリー化した.
全般を通じて,共同研究者間(がん看護の専門家および看護研究者)で討議することで先入観・主観的なバイアスを排除し,真実性を担保した.分析はその都度データに戻って行い,分析の全てのプロセスを記録に残し明確になるように進めた.
研究は,研究参加者に書面にて同意を得たうえで,個人が特定されないように分析するなど倫理的配慮を行った.本研究は,研究代表者および共同研究者の所属の研究倫理委員会の承認を得て実施した.
調査は,2016年1~3月に実施した.
対象者は,関東圏のがん専門病院2施設に所属する計21名,平均年齢39.2±6.0歳,看護師経験16.3±5.8年であり,看護師長・副看護師長9名,がん看護専門看護師2名,認定看護師14名であった(表1).フォーカス・グループは合計6グループ(3~5名),面接時間は平均42 (30~54)分間 であった.なお,研究倫理委員会では,個人が特定されないようにとの条件で承認を得たため施設名は伏せた.
本研究で語られたがん治療に伴う外見変化薬物療法による脱毛および皮膚・爪の変化,放射線療法による脱毛および皮膚炎,造血幹細胞移植後の移植片対宿主病(graft versus host disease: GVHD)等が語られていた.手術療法では,食道がんの頸部創,乳房切除術の形態変化等が語られていた(表2).
がん治療を受ける患者への外見変化に対するケア以下,大カテゴリーを[ ],中カテゴリーを《 》,小カテゴリーを〈 〉,語りを「斜字」で示す.
本研究における,がん治療を受ける患者への外見変化に対するケアは,以下の4つの大カテゴリーから構成された(表3).
看護師は,治療方法毎に異なる外見変化の様相について予測を立て,治療のプロセスにおいて[外見変化のリスクを見越して備えるための情報提供]を行い,悪化予防の可能性を見極め,患者の困りごとや工夫を理解したうえで[外見変化に対応した生活を送るためのセルフケア支援]を実施していた.また,患者ひとりひとりの生活や価値観に合わせ,時には命も左右する治療と向き合う[患者の意思に寄り添いその人らしい生活を支える外見ケア]を行い,[多職種連携による専門性を活かした外見ケア]に努めていた.
1.[外見変化のリスクを見越して備えるための情報提供]
これは,治療内容から,外見変化のリスクや成り行きを予測し,成り行きに応じて提供する情報を判断したうえで,患者が事前に備えることができるように情報提供することであった.
看護師は,疾患・治療の特徴を理解し,経過により外見ケアの必要な時期やケア内容を判断するために〈治療により生じる外見変化の部位を予測する〉こと,〈治療方法により異なる外見変化の発生率・程度・時期を予測する〉ことを行っていた.外見変化の回復の見通しは,患者の重要な関心の一つであり〈外見の変化が戻るか否か予後を予測する〉ようにしていた.そして,これら多様な〈外見変化の悪化や回復の過程を予測する〉ことで,その結果をケアに活用していた.その経過の中で,患者の不安がいつ強くなるかなど〈治療方法による外見変化に応じた心理的プロセスを予測する〉など,《治療方法毎に異なる外見変化の様相の予測》に努めていた.
「わかっていることとか,改善していくのが明らかなこととか,脱毛とかで,戻ってくるだろう薬を使っている人だったら,いつくらいになったら髪の毛が生えてくるかとか,皮膚のケアとかも,GVHDさえ落ち着いてくれば基本的なケアを継続していれば,必ず皮膚はもとに戻るよというのを伝えて,よくなるのがわかるならそれを保障してあげて,そこまで頑張れるようにサポートしてあげるように気をつけています.」
また,看護師は,予測した外見変化の様相を踏まえ,〈治療経過に合わせて外見ケアの必要性を判断する〉ことや,〈治療方法を理解して外見ケアの必要な時期を判断する〉ことで,《外見変化のプロセスにおける必要なケアの判断》に努めていた.
そして,外見の変化に関して〈患者が入手している情報を把握する〉ことで,患者の理解に応じて〈予測した外見変化の見通しを伝える〉ようにしていた.また,初回の化学療法である場合や,脱毛のリスクが高い場合には,準備期間が必要で費用もかかるかつらの情報や,眉毛や睫毛も脱毛することなどを伝え,患者が〈外見変化へ事前に準備ができるよう治療前に情報提供する〉ことや,〈外見変化への患者の心理的準備を整えるために情報提供する〉など《予測した外見変化に備えることができるような治療前の情報提供》に努めていた.
2.[外見変化に対応した生活を送るためのセルフケア支援]
これは,外見変化の悪化予防の可能性について見極め,生活上の困りごとや患者の行っている工夫を把握し,外見変化に関する性差による認識の違いを踏まえて患者のセルフケアを支援することであった.
看護師は,患者に〈外見変化の見通しを伝え悪化の徴候を自己観察できるようにする〉ことで,患者が日々の悪化や改善に気付くことができるよう支援していた.患者は,それまでの生活を変化させる必要があり,セルフケアの継続のためには,〈外見変化の悪化を防ぐ具体的方法を日々の生活で実施できるよう指導する〉ことが重要であった.また,外来時に声をかけるなど,〈長期的に機会を捉えてセルフケアを続けられるよう支援する〉ことや,〈外見変化の悪化予防ケアが適切に継続できているか評価する〉ことで,《悪化予防できる外見変化を見極め確実にセルフケアするための支援》に努めていた.
看護師は,外出や職場復帰の際の〈外見変化に伴う社会生活で生じる支障を理解する〉ことや,患者が〈社会生活を送るうえで装うために工夫していることを活用する〉ように支援していた.外見の変化は多様な成り行きがあるために,外来通院時などで常に〈外見変化について患者が相談しやすい状況をつくる〉ことを心がけるなど,《外見変化による生活上の困りごとや工夫を把握した支援》に努めていた.
また看護師は,男性が眉毛や睫毛,爪のケアに慣れていないことや,名刺交換時に爪の黒ずみが気になるという〈整容について馴染みのない男性患者の特徴を理解して支援する〉こと,頭髪の脱毛など〈女性がとくに気にする外見変化を理解して支援する〉ことが重要であると認識し,《外見変化とケアに対する男女による認識の違いを理解した支援》に努めていた.
3.[患者の意思に寄り添いその人らしい生活を支える外見ケア]
これは,外見変化に対する患者の気持ちを見極め,患者の好みや趣味,優先したいことなど価値観に合わせたケア方法を模索しながら,患者がその人らしい生活を過ごすためのケアであった.
看護師は,手術により目立つ外見変化が予測される場合など,治療前に〈外見変化に対する気持ちを引き出す〉ように関わり,患者の治療への不安が強い場合には,〈外見ケアができる精神状態か見極める〉,〈外見変化を生じる治療の意思決定に寄り添う〉などしていた.また,不可逆的な外見変化が退院後に進行することが考えられる場合には,〈戻らない外見変化を受け止めていく気持ちの変化を予測する〉など《外見変化に対する患者の気持ちの見極め》に努めていた.
看護師は,患者の〈外見よりも治療を優先したい思いを支える〉とともに,治療を優先しながらも可能なケアとしてかつらなどを勧めることで,〈患者の意向に合わせて可能な外見ケアを判断する〉など,〈患者の優先したいことを尊重しケア方法を工夫する〉ようにしていた.外見変化が生じる前からかつらの準備など〈患者の生活に合わせた事前準備の必要性を判断する〉ことや,患者が〈外見変化を受け入れ新たな価値を見出せるよう支える〉ことなど,《価値観に合わせたケア方法の模索》に努めていた.
「お子さんが小さいとか,家族背景をみて,どのくらいをどこまでお話しされてるかとか,そういうのはみんなオリエンテーションする者が意識して情報収集して,家族には何も言っていないとか,近所のママ達には知られたくないとか.」
看護師は,患者が化粧や爪を整えるなど〈整容することで日々の生活を大切にする〉,ことや,治療中であっても,子どもの行事のような,患者にとって〈今しかない大事な場に臨めるよう外見を整える〉ことなど,《その人らしい日々の生活を過ごすためのケア》に努めていた.
「化粧をしたり,爪のケアをすることによって,心理的にすごく明るくなったりして,『面会に来た人にほめられたの.私.』,みたいな形で,すごく明るくなったりする.それを通して,コミュニケーションが進んでいる.」
4.[多職種連携による専門性を活かした外見ケア]
これは,外見変化に対して継続的で専門的なケアを提供できるように多職種・他部門と連携することであった.
看護師は,治療室担当の看護師を決めて患者の情報を引き継ぐことや外来化学療法患者の状態やケアについて記録で共有すること,医師や診療放射線技師と連携し,治療経過でケアが必要な場合に連絡をもらうなどの〈外見ケアが必要な患者の情報を逃さない体制を構築する〉,〈継続した外見ケアのために多職種・他部門と連携する〉など,《多職種と連携した継続的な外見ケア》に努めていた.
また看護師は,症状のアセスメントから放射線照射による皮膚炎について医師に悪化予防の処方を依頼するなど〈専門的治療の必要性を判断して専門家と協働する〉,整容の詳しい情報が必要な場合は,専門家を紹介するなど,〈外見ケアに関する整容の専門家を紹介する〉など,《より専門的な外見ケアの提供》に努めていた.
本研究の対象者は,専門看護師もしくは認定看護師が大半を占め,管理職も複数含まれ,看護師経験も10年以上あり,看護師として豊かな知識と経験を有するエキスパートから語られたデータと考えられる.また,いずれもがん専門病院におけるがん医療,がん看護の高度専門的な実践から語られた内容という特性をもつ.
外見変化のリスクを予測し,その人らしい生活を支えるケア本研究で示された[外見変化のリスクを見越して備えるための情報提供]は,外見変化の生じる前からの心の準備も含み,疾患や治療経過を理解し患者に身近な存在として関わる看護師の役割として不可欠である.がん患者は,治療に伴う外見変化に対して無力感を感じると,恐怖,不安,うつを増加させる.そのため,事前に「予期される事柄に備えて準備すること」,すなわち,Anticipatory Coping を高めることが重要である10).
本研究でみられた《治療方法毎に異なる外見変化の様相の予測》,《予測した外見変化に備えることができるような治療前の情報提供》は,予期される事柄に備えて準備するためのケアとなる.
さらに,患者が外見のセルフケアを日常生活の中で継続していくため,予測した情報を提供するのみでなく,〈外見変化の見通しを伝え悪化の徴候を自己観察できるようにする〉ことや,患者に〈外見変化の悪化を防ぐ具体的方法を日々の生活で実施できるよう指導する〉というセルフモニタリングできるよう支援することが重要である.看護師は,《外見変化による生活上の困りごとや工夫を把握した支援》として,当事者である患者の実際の悩みと合わせて〈社会生活を送るうえで装うために工夫していることを活用する〉などしていた.看護師が,セルフケアを支援することは,患者のコントロール感を高め11),治療に向かう気持ちや日々の生活の支えにもなると考えられる.
そして,外見変化は,患者が社会生活の場に出たのちに,困りごとが浮き彫りになるという特徴があり,患者の日常生活に及ぼす影響が大きい7).患者は社会生活において,家族や職場での役割や,学業,地域活動など,さまざまな立場で活動している.そのような患者個々の〈外見変化に伴う社会生活で生じる支障を理解する〉ことや,患者の価値観や優先度を踏まえて,最善の外見ケアをともに考え支援していくことが求められる.そのため,患者の価値観を優先するために《外見変化に対する患者の気持ちの見極め》,《価値観に合わせたケア方法の模索》を行うことで,《その人らしい日々の生活を過ごすためのケア》につながる.
連携したケア体制看護師は,外見ケアが必要な患者の情報を逃さず把握し,タイムリーに継続して対応するため,医師や放射線技師等の《多職種と連携した継続的な外見ケア》を行うための体制を組んでいた.
がん治療に伴う外見変化は多様にあるが,それらに対するケアには日常整容の要素も含み,医療以外の情報も不可欠である.しかし,藤間ら12)は,全国のがん診療連携拠点病院の理美容室に勤務する理美容師に対して,がん患者への脱毛に関する対応を調査した.その結果から,患者から質問を受ける機会は多い一方で,副作用に関連した医療的な知識には偏りがあること,医師・看護師との連携が不足していることを指摘している.本研究では,整容や美容の方法も含む,医療以外の専門性も導入し,個別性の高い《より専門的な外見ケアの提供》を行っていた.このように,これまでの医療チームの枠組みを越え,多様な専門職によるケア体制の構築が必要であることが示された.
本研究の限界と今後の課題研究参加者の所属が,がん専門病院であるため専門的なケアについて示されたと考えるが,2施設のみであり,一般化するためには,今後施設数を増やし,より多様な施設での調査が必要になると考える.
また,本研究では,外見ケアについて自由に語られたデータから,治療方法により判断されたケア内容も明らかになったが,今後は,外見ケアを治療方法別や部位別,時期別等に系統立てて分類した研究が求められる.しかしながら,本研究の結果は,わが国のがん治療における外見変化に対する専門的ケアの基礎資料として意義があると考える.
がん治療を受ける患者への外見変化に対するケアを明らかにすることを目的として,がん専門病院2施設6グループ21名の看護師を対象としたフォーカス・グループインタビューを実施した.その結果,看護師は,治療内容からリスクや成り行きを予測し患者のセルフケアを支援する[外見変化のリスクを見越して備えるための情報提供],[外見変化に対応した生活を送るためのセルフケア支援]を,患者の生活や価値観に合わせて[患者の意思に寄り添いその人らしい生活を支える外見ケア]として実施していた.そのために[多職種連携による専門性を活かした外見ケア]の体制を組み対応していたことが明らかとなった.
調査に参加いただきました皆様には深く感謝申し上げます.
本研究は,平成27年度日本医療研究開発機構研究委託費革新的がん医療実用化研究事業(15ck0106061h0002)「がん治療に伴う皮膚変化の評価方法と標準的ケアの確立に関する研究」主任研究者:野澤桂子(国立がん研究センター中央病院アピアランス支援センター)により実施された.