Palliative Care Research
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短報
緩和ケアの研修,自己研鑽に関する若手医師の考え:質問紙調査の自由記述の質的分析
野里 洵子垂見 明子松本 禎久西 智弘宮本 信吾木澤 義之森田 達也森 雅紀
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2018 年 13 巻 2 号 p. 175-179

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Abstract

日本における緩和ケアの研修制度は確立しておらず,若手医師の緩和ケア研修に関するニーズはほとんど満たされていない.そこで,緩和ケア医を志す若手医師を対象として,自由記述を含む質問紙調査を行い,緩和ケアの研修・自己研鑽に関するニーズと考えられる方策について意見を収集し,自由記述の質的分析を行った.対象者284名に対して,回答者は253名(89%)であった.初期研修医・緩和ケア専門医・卒後16年目以上を除く229名を解析対象とした.そのうち自由記述は,80名(35%)から回答を得た.自由記述合計162意味単位を分析対象とした.その結果,若手医師が考えるニーズや方策として,専門医になるための研修内容,認定施設,研究力の向上,学ぶ場やツール,資格や制度の見直し,ネットワーキングの強化などが抽出された.本研究の知見は,今後,緩和ケア医を志す若手医師に対する研修制度の変革を行う際に役立つと考えられる.

緒言

「がんと診断された時からの緩和ケアの推進」はがん対策推進基本計画の重点課題であり1),質の高い専門的緩和ケアを提供する医師の育成が急務である.しかし,日本のほとんどの認定研修施設で標準化された研修プログラムはなく,また研修の外的評価も行われておらず,研修の質・内容などは施設によって多様である.

そこで,われわれは,2012年日本緩和医療学会学術集会にて,緩和ケアの研修・自己研鑽に関するニーズと方策について,緩和ケアを志す若手医師40名によるフォーカスグループディスカッションを行った.その結果,研修の時間確保と質の向上,専門医としてのキャリア形成,ネットワーク形成など,多数のまた多領域にまたがるニーズを認めた2).日本で研修システムを効果的に発展させるためには,研修に関するニーズの定量化と考えられる方策に関する必要度を評価することが重要であると考え,量的研究となる全国調査を2014年度に実施した.その結果,研修・自己研鑽に関するほとんどの項目についてニーズは満たされていなかった3).若手医師が考える最も重要な方策としては「多様な研修ができるプログラムを作ること」(74%),「現場の声を吸い上げて研修プログラムに反映させるシステムを作ること」(71%),「研修できる施設を増やすこと」(69%)が挙げられた.

本研究は,上記量的研究の知見を補足するために,若手医師が考える緩和ケアの研修,自己研鑽に関するニーズや方策について質的に意見を収集することを目的として,実施した.

方法

本研究は「緩和ケア医を志す若手医師が感じる研修・自己研鑽のニーズと改善策:全国大規模調査」の質問紙調査の二次解析である.川崎市立井田病院の倫理委員会の承認を得た.2013年10月時点で,がん診療連携拠点病院,緩和ケア病棟または日本緩和医療学会の研修認定施設46)に所属する,卒後15年目以下の緩和ケアを志す医師を調査対象とした.2013年10~11月に二重封筒法による調査を行った.「緩和ケアの研修や自己研鑽に関してあなたの感じるニーズやそれを満たすための方策についてご自由にご記載ください」に回答された記述結果について,内容分析を行った.緩和ケアの研修や自己研鑽に関するニーズやそれを満たすための方策についての記載を分析対象とした.自由記述より意味単位(ユニット)として抽出した.ユニットごとにコードをつけ,意味内容の類似性・相違性からサブカテゴリーを作成した.次に,サブカテゴリーの類似性・相違性からカテゴリーを作成した.以下,サブカテゴリーを[],データを「」で示す.分析は1名の緩和ケア医(JN),1名の心理士(AT)が独立して行い,お互いのカテゴリーが一致するまで議論をした.その後,緩和ケアの質的研究・臨床研究の豊富な共同研究者1名(TM)によるスーパービジョンを受け,カテゴリーの分類を確定した.サブカテゴリーに相当するユニット数を計算した.

結果

対象者284名に対し253名(89%)から回答を得た.上記目的より,初期研修医・日本緩和医療学会専門医・卒後16年目以上を除き229名を解析対象とした.そのうち自由記述の回答があった80名(35%)の記載から計162意味単位を分析対象とし,9つのカテゴリーと24つのサブカテゴリーが抽出された(表1).9件はいずれにも該当しなかった.

表1 緩和ケアの研修,自己研鑽に関する若手医師の意見:カテゴリー一覧

1. 専門医になるための研修内容や認定施設に改善が必要である

専門医になるための研修内容や認定施設の改善策として[多領域での研修が必要である][専門医になるために,医師としての基本的スキルを身につける必要がある][研修を行う施設は診療の質向上が必要である][複数の施設での研修が必要である][研修プログラムの質の改善を図る必要がある][研修を行う施設に対する評価が必要である]の必要性が抽出された.

多領域での研修に関しては「緩和ケアだけしか研修していない緩和ケア医をつくることには反対」,専門医になるための基本的スキルについては「悪性腫瘍の診断・治療・看取りまで経験することが必要」と述べられていた.また,研修施設の診療の質向上,評価,複数の施設における研修については「緩和ケアの本髄を指導できる施設の確保」「経験すべき症例を診療できているか評価」「ニーズに合わせた研修を複数の施設で行える体制」が必要と述べられていた.がんの終末期ケアのみにとどまらない緩和ケアの幅広い領域に対して,ニーズに応じてプログラムを組むこと,そのプログラムや研修施設を評価し一定の質を保つことが求められていた.

2. 研究力の向上が必要である

研究力の向上に関するニーズとして[研究を学ぶ体制を整えていくことが必要である][研究を学ぶ環境を整えていくことが必要である]が抽出された.

研究を学ぶ体制としては「研究できる施設への短期留学ができる」「学会主導で,臨床研究の実行の仕方,論文の書き方などについて,包括的かつ実践的に講義を行う」と述べられ,各施設というよりも特定の施設または学会で学ぶ体制を整えることが求められていた.研究を学ぶ環境については「各病院で臨床研究を支援するResearch Infrastructureの確立が必要」など研究を支援するシステムを各施設で整えるニーズが示されていた.

3. 学ぶ場やツールが必要である

学ぶ場やツールに関するニーズとして[勉強会,ワークショップ,セミナーが必要である][e-learning,教科書などどこにいても学ぶツールが必要である]が抽出された.

「知識をupdateできる場」「e-learningなど生涯教育の場」が必要など,エビデンスに基づくupdateした知識を学ぶ場やツールが学会に求められていた.

4. 専門医の資格や制度を見直す必要がある

専門医の資格や制度の見直しのニーズや方策については[専門医を申請する条件に改善が必要である][専門医の質を維持する仕組みの改善が必要である][専門医のメリットを増やす必要がある][専門医は2段階制にするべきである]が抽出された.

申請条件については「最初から緩和ケア専門医を目指す仕組みは不必要である」など緩和ケアのみを専門としない背景を求める声が聞かれた.専門医の質維持については「目標設定やその評価」「緩和の知識チェック」を定期的に行うなど専門医に対する評価を行い質を維持する仕組みが求められていた.専門医のメリット,2段階制の案として「専門医資格の標榜を求める」「専門医の前に認定医を設ける」といった声も聞かれた.

5. ネットワーキングの強化が必要である

ネットワーキングの強化については[研修している医師同士のネットワーキングの強化が必要である][医師のみの学会の枠組みが必要である][指導医間のネットワーキングの強化が必要である]が抽出された.

研修中の医師・指導医のネットワーキングでは「顔の見える関係」「交流の場が必要」といった有機的な同志のつながりが求められていた.

6. 指導医の質の向上が必要である

指導医の質の向上については[優れた指導医が必要である][指導医が評価されることが必要である]が抽出された.

「指導医の自己研鑽が図れるよう定期的な評価が必要」といった声が聞かれており,指導医の研鑽・評価と質の向上が求められていた.

7. キャリアモデルの共有が必要である

キャリアモデルの共有については[様々なキャリアモデルが必要である]が抽出された.

「将来の展望や学び方がつかめる」「背景に合わせたキャリアパスを描ける」ような方策が必要など,各々の背景を活かし専門医として今後の方向性を見出せるキャリアモデルの共有が求められていた.

8. マンパワーや時間の確保が必要である

マンパワーや時間の確保については[マンパワーの確保が必要である][現場における時間の確保が必要である]が抽出された.

マンパワーの確保については「今働く緩和医師が減らないような対策」「人材の補充システム」が必要など人材不足を懸念した対策が求められていた.「診療を通して実践値が向上するような」時間の確保が必要など,診療を通して実力をつけるような研修の時間が求められていた.

9. 学会の改革が必要である

学会の改革を求める声として[学会に現場の声が届く体制が必要である][学会同士のコラボが必要である]が抽出された.

「若手の声を体制に活かせるよう学会が改革すべき」など現場の率直な意見を体制に活かすシステムが求められていたほか,学会同士の連携については「各種がんの知識(治療も)をupdateするために日本臨床腫瘍学会とのコラボが必要である」と述べられ,各種学会と連携して学びを深める基盤を求める声が聞かれた.

考察

本研究では,若手医師が緩和ケアの研修,自己研鑽について抱いている意見を収集した.最も重要な結果は,緩和ケアを志す若手医師が感じるニーズや方策について,研修の内容・制度などへの課題が具体的に挙げられたことである.これまでに同様の研究はなく,初の全国調査にて得られた課題として意義があるものと考える.解析対象者のうち35%と限られた意見ではあるものの,これらの課題は,量的研究に加えて内容分析を行ったことで更なる洞察が可能となった.本研究を行ってから現在までに,学会では,2017年度より認定医制度が設けられ,2018年3月からは研修指導者講習会が行われた経緯もあり,現時点でのニーズや方策とは若干異なっている可能性もある.今後の研修・自己研鑽に対する方策については,個々の医師の状況のみならず,施設・地域・学会・国レベルのニーズや因子も影響してくるため,包括的かつ継時的に検討していく必要がある.本研究は,今後日本における緩和ケア専門医研修制度の変革に向けて1つの手掛かりとして寄与すると考える.

謝辞

本研究は,笹川記念保健協力財団からの2013年度研究助成のもと進めることができたことを感謝申し上げます.また,質問紙調査に協力してくださった緩和ケアを志す若手医師の皆様,Palliative Care Research and Education Group (P-CREG)の若手医療者の皆様に感謝申し上げます.

利益相反

森田達也:講演料(塩野義製薬株式会社,協和発酵キリン株式会社)その他:該当なし

著者貢献

野里は,研究の構想もしくはデザイン,研究データの収集,分析,研究データの解釈,原稿の起草,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献;垂見は,研究データの収集,分析,研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献;松本,西,宮本,木澤,森田,森は,研究の構想もしくはデザイン,研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は,投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
© 2018日本緩和医療学会
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