Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
原著
緩和ケアチームセルフチェックプログラムの実施可能性に関する多施設調査
秋月 晶子秋月 伸哉中澤 葉宇子安保 博文伊勢 雄也岡本 禎晃海津 未希子品田 雄市山代 亜紀子坂下 明大加藤 雅志
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2018 年 13 巻 2 号 p. 195-200

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Abstract

【緒言】緩和ケアチーム数は年々増加しているが,活動実態にはばらつきがある.緩和ケアチームの質を評価,向上する方法として開発した「緩和ケアチームセルフチェックプログラム」の実施可能性を評価した多施設調査の結果を報告する.【方法】2016年2月,7施設で試験的にプログラムを施行し,施行後にチームリーダー,参加者にアンケートを行い,実施可能性について評価した.【結果】実施できたのは6施設,参加者は52人であった.実施時の困難として,時間的制約,スケジュール管理,意見集約の困難さなどが挙げられた.チームリーダーの全員,参加者の87.8%がプログラムはチームの課題抽出と改善に有用と答えた.また,改善計画立案プロセスと計画に83.3%がリーダーとして満足と答えた.【結論】いくつかの困難感はあるものの,参加者の大半が有用と評価しており,本プログラムは実施可能であった.

緒言

緩和ケアチームは一般病棟に入院しているがん患者に緩和ケア専門家が関わるための重要なシステムである.緩和ケアチームのような多職種の専門家が介入することにより,がん患者のQOLが改善することが報告されている18)

本邦では2002年に緩和ケアチームの活動が診療報酬で算定されるようになり,2007年にはすべてのがん診療連携拠点病院に緩和ケアチームの設置が義務づけられた.これらを背景に緩和ケアチーム数は増加し,日本緩和医療学会の緩和ケアチーム登録数は2010年度の371施設から2015年度には521施設と年々増加している9)

緩和ケアチーム活動への期待が高まる一方で,緩和ケアチーム活動の質について十分な評価はなされていない.緩和ケアチームへの年間依頼件数は活動における質の評価指標となりうるが10),2015年度緩和ケアチーム登録では依頼件数が0件のチームが全体の0.6%,1~50件のチームが18.8%,301件以上のチームが11.9%と大きくばらついている9).日本緩和医療学会では「緩和ケアチーム活動の手引き」11)を作成し,各施設が適切な緩和ケアを提供できるよう,各職種の役割,具体的な介入方法などを提示している.一方で緩和ケアチームの活動内容は,各施設の背景が異なり,求められる役割も異なるなど個別性が高く,一律の基準で評価,改善することが困難である.緩和ケアチーム登録においても活動内容の質的な評価は行われていない.そこで,日本緩和医療学会専門的・横断的緩和ケア推進委員会は,各緩和ケアチームが活動を自己評価し,質の改善を目指す「緩和ケアチームセルフチェックプログラム」を開発した12)

本調査は,「緩和ケアチームセルフチェックプログラム」の実施可能性,有用性を明らかにすることを目的として実施した.

方法

緩和ケアチームセルフチェックプログラム

緩和ケアチームセルフチェックプログラムでは,緩和ケアチームのメンバーがPDCAサイクルにそってチーム全体の活動の見直しを行う.なお,PDCAサイクルは,事業管理を行う方法の一つでPlan(計画),Do(実行),Check(評価),Act(改善)の4段階を繰り返し,業務を改善する手法である.「緩和ケアチームの基準2015年度版」13)をもとに作成された39項目からなるCheckシートに緩和ケアチームメンバーそれぞれがチーム全体の活動内容をそれぞれの視点で評価し,その結果をもとにメンバーカンファレンスで改善点,今後の計画を立案しAct,Planシートに記入する.セルフチェックプログラムの詳細については日本緩和医療学会のホームページ9)に記載されている.

日本緩和医療学会事務局(以下,学会事務局)から各施設に電子メールでプログラムを配布後,全4週間で完了し,各施設で取りまとめた結果を電子メールで返送するプログラムであった.参加にあたり,「緩和ケアチームセルフチェックプログラム」の実行可能性を検討する研究目的と,匿名化された情報を研究発表することを書面で説明し,同意した対象のみがアンケートに回答した.またアンケートには個人を特定する情報を含まなかった.参加施設の緩和ケアチームメンバーにCheckシートを配布してから1週間後に,各施設で参加メンバー全員による1回目カンファレンスを実施して重点的に取り組むべき課題の抽出を行う.チームリーダーを中心に改善計画素案を立案し,1回目カンファレンスの2週間後までに2回目カンファレンスを実施し改善計画を確定する.チームとしての活動Checkシート,立案したAct,Planシートを2回目カンファレンスの1週間後に学会事務局に提出する.

実施可能性,有用性の検討

プログラムの実施可能性,有用性を評価するための調査は日本緩和医療学会専門的・横断的緩和ケア推進委員会が主体となり,2016年2〜3月にかけてプログラム開発者が関与する7施設(一般病院2施設,大学病院4施設,がん専門病院1施設)で実施した.各施設で緩和ケアチームセルフチェックプログラム実施後に参加者を対象にアンケートを行い,Checkシート,Act,Planシートとともに学会事務局に電子メールで送付した.

プログラムの妥当性,有用性は,参加者対象のアンケートで,「本プログラムが自施設の緩和ケアチームの課題を見出し,改善につなげるために有用だと思うか」「チームメンバーカンファレンスで十分な話し合いができたか」「チームの改善計画に自分の意見が反映されていると思うか」を「そう思わない」「あまりそう思わない」「まあそう思う」「そう思う」の4件法で質問した.また,チームリーダーのアンケートでは「改善計画とその立案プロセスにどの程度満足しているか」を「非常に不満」「やや不満」「やや満足」「非常に満足」の4件法で質問した.

また「プログラムの実施プロセスに関する困難や問題」「困難や問題の解決方法と事務局の工夫」「改善計画について良かった点,改善すべき点」「その他気づいた点」について自由記載で回答を求めた.自由記載についてはプログラムに対する評価を意味単位として抽出し(中澤),2名の研究者が独立して意味内容の類似性,相違性からカテゴリー,サブカテゴリーを形成し,相違点は議論し一致させた(秋月晶子,秋月伸哉).カテゴリーを〈 〉,サブカテゴリーを[ ],発言を「 」で示した.

なお,本研究は施設名を匿名化したうえでの公表を前提とすることを書面で説明して実施した.アンケートでは個人を特定する情報は扱わず,個人ではなく施設として取りまとめた結果を回収した.匿名化された情報のみを扱う研究であり「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針(厚生労働省)」の適用範囲外であるため,各施設での倫理審査は受けずに実施した.

結果

調査対象7施設のうち,期限内に回答を得られたのは6施設(一般病院2施設,大学病院3施設,がん専門病院1施設)であった.6施設のうちがん診療連携拠点病院は4施設であった.緩和ケアチームに関与する52名が参加し,49名(94.2%)がアンケートに回答した(表1).

表1 アンケート参加者背景(n=49)

参加者対象のアンケート(n=49)では,「プログラムは緩和ケアチームの課題抽出と改善に有用だと思うか」の質問に43人(87.7%)が「そう思う」「まあそう思う」と回答した.「カンファレンスで十分な話し合いができたと思うか」には,44人(89.8%)が「そう思う」「まあそう思う」,「改善計画に自分の意見がどのくらい反映されていると思うか」には,41人(83.7%)が「反映されている」「まあ反映されている」と回答した(表2).

表2 アンケート結果(n=49)

チームリーダーへのアンケート(n=6,身体症状担当医師5名,精神症状担当医師1名)では,「改善計画立案プロセスと計画にリーダーとして満足しているか」の質問には「非常に満足」が1人(16.7%),「やや満足」が4人(66.7%),「やや不満」が1人(16.7%)であった.

プログラムに対する自由記述内容のカテゴリー,サブカテゴリーを表3に示す.また,具体的な自由記載内容を抜粋し以下に示す.

〈改善計画立案の良い点〉

[意識していない問題に気づき,問題解決への意欲につながった]こととして「緩和ケアチームの活動が依頼者にとって必ずしも有益なことだけではないことに気づき,なぜ不利益が起きるのかをチームメンバーで話し合う貴重な時間であった」という意見があった.また,[メンバーの合意形成や情報共有ができた]では「メンバーが均等に発言できた.これまで包括的に自己評価する機会がなかったが,課題を共有し改善点を話し合うことで意外な気づきがあった」という意見があった.

〈カンファレンスでの工夫〉

[メンバーの意見を尊重するように心がけた]では「支持的な態度でメンバーの話を聞くように心がけた」「メンバー全員の意見が出せるよう気をつけた」などの工夫により,「コメディカルからの情報発信も可能であることを確認でき,情報共有の場としてカンファレンスへ参加する士気が高まった」などが挙げられた.

[1年後に評価可能な具体案とした]「内容が漠然として論点が具体的にまとまらなかったため,1年後に評価可能な具体案にするようにした」や[検討テーマを絞った]「限られた時間で議論するには項目数が多かったため,複数メンバーが問題視している項目のみに絞ってディスカッションを行った」など,限られた時間内に具体的な計画を立てるべく,各施設の工夫が感じられた.

〈プログラム実施上の困難や問題〉

[話し合いのための時間的負担が大きい]「短時間での話し合いは困難で,日常業務外の時間が多く兼任メンバーへの負担が大きい」や[スケジュール管理が困難] 「非常勤スタッフもいるため,どの話し合いにも全員は集まれなかった.規模が大きい病院でより困難になると思う」といった時間・スケジュール管理の負担が挙げられた.また,[メンバーの意見集約が困難]「メンバーの職種・経験などの背景が様々であるため,各々の意見をチームとして集約することは比較的困難であった」も挙げられた.

[課題・目標の設定は,どの範囲で検討するか不明瞭]「チームの課題と目標を話し合う際に,Checkシートの内容に関係したものにしなくてはいけないのか迷った」という意見もあった.

〈プログラム全体への意見〉

[チームのレベル差があることで一律の指標で評価は困難]では「緩和ケアチームのレベルは施設により差があるため,一律のCheckシートで評価するのは困難であるとの意見があった」など,いくつか挙げられた.

表3 アンケート結果 自由記載内容

考察

今回の調査で緩和ケアチームセルフチェックプログラムの実施可能性,有用性を確認した.参加者の87.7%がプログラムを有用と評価し,チームリーダーの満足度も高かった.また,「チームメンバーで1つの課題に取り組むプロセスが,メンバー間の相互理解を深めるのに役立った」「検証システムについてチームメンバーで話し合う貴重な時間ができて有益」「自チームのレビューに役立った」など,通常業務では行わない作業を通して相互理解が深まり,チーム活動の質向上につながったと評価する意見もあったことから,本プログラムは緩和ケアチームの質の改善に有用である可能性が示唆された.

一方,実施にあたりいくつかの課題も抽出された.4週間の実施期間で結果を報告できたのは7施設のうち6施設であった.予定期間後に残る1施設も結果を報告することができたことから,プログラム内容ではなく,期間の短さが実施可能性を下げたと考えられた.参加者アンケートからも「スケジュール管理が困難」「話し合いのための時間的負担が大きい」「メンバー変更がある年度末始を避ける」との意見が出ていた.セルフチェックプログラムには実施時期に配慮し1カ月以上の余裕を持ったスケジュールで行うことが必要と考えられ,2016年度から行われている本登録では6月から実施し結果の登録までの期間が4カ月と余裕を持ったスケジュールに修正されている.

また,「異なった立場,考え方を持つスタッフの意見の集約が困難」「議論にCheckシートをどの程度反映させるべきか不明」「Act,Planの具体例があると議論しやすい」といった意見もあり,カンファレンスを通じて問題点を把握し改善計画をたてるプロセスの難しさも指摘された.兼務で活動への関与が少ないチームメンバーの参加をどうするかや,具体的な改善計画の例示,話し合いの進め方など,より丁寧な説明が必要である可能性が示唆された.

今回の調査限界として,がん診療連携拠点病院が4施設(66.7%)と比較的アクティビティが高いと思われるチームを対象としていることが挙げられる.自由記載で活動の程度が違うチームでの実施可能性について否定的なコメントも出ており,全国で実施した際の課題は引き続き検討する必要がある.また,セルフチェックプログラム作成に関わった日本緩和医療学会専門的・横断的緩和ケア推進委員会委員の関与する施設を対象としており,アンケート結果が好意的になった可能性がある.チームリーダーへのアンケートでは6人全員が「プログラムは緩和ケアチームの課題抽出と改善に有用だと思う」と回答しているが,プログラム作成に関わった委員のうち2名がチームリーダーとして回答している.今回の調査は実施可能性,計画立案までの有用性を評価したにすぎず,1年後の活動評価,その後のPDCAサイクルを通してチーム全体の質の向上が図れたかまでは評価できていない.プログラムの有用性評価のためには長期的に調査を継続していくことも必要である.

今回の調査の結果を受け,2016年度に「第1回緩和ケアチームセルフチェックプログラム」が希望施設で全国的に実施された.

結論

緩和ケアチーム活動の改善を目指し,作成されたセルフチェックプログラムの実施可能性を検討するための調査を施行した.実施上での困難感はあるものの,緩和ケアチームリーダー,参加者ともに有用と評価しており,本プログラムは緩和ケアチーム活動の質の改善に有用かつ実施可能であることが示唆された.

利益相反

著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

秋月晶子,秋月伸哉は研究の構想・デザイン,研究データの収集・分析・解釈,原稿の起草に貢献;海津,坂下は研究の構想・デザイン,研究データの収集・分析・解釈に貢献;中澤,安保,伊勢,岡本は研究データの収集・分析に貢献;品田は研究の構想・デザイン,研究データの解釈に貢献;山代,加藤は研究の構想・デザインに貢献した.すべての著者は原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献し,投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
© 2018日本緩和医療学会
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