Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
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原著
高齢者ケア施設におけるエンド・オブ・ライフケアのIntegrated Care Pathwayに関する介入・実装研究:スコーピングレビュー
山縣 千尋廣岡 佳代菅野 雄介田口 敦子松本 佐知子宮下 光令深堀 浩樹
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2018 年 13 巻 4 号 p. 313-327

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Abstract

Integrated Care Pathway(ICP)はEnd-of-Life(EOL)ケアの質向上の目的で用いられるケア計画で高齢者ケア施設のEOLケアに有用と考えられる。しかしICPによる介入のアウトカム指標や構成要素は明らかになっていない.PubMed,CINAHL,Cochrane Library,PsycINFO,医学中央雑誌とハンドサーチによるスコーピングレビューを行った.高齢者ケア施設でのEOLケアのICPに関する介入・実装研究の文献検索を行い13件が選定基準を満たした.構成要素は書式,EOLケア/ICPの教育,エキスパートによるサポート,定期的なカンファレンスだった.介入の結果,病院搬送の減少や医療・介護従事者のEOLケアの自信向上が示された.特定された構成要素を参考に施設特性を踏まえてICPを開発し,より厳密なデザインの介入・実装研究により効果を検討することが望ましい.

緒言

高齢者人口の増加により看取りの場の確保は世界的な課題となっている.欧米の高齢者ケア施設での看取りは全死亡の約20%13)であり,日本においても高齢者ケア施設での看取りの増加が予測され,今後高齢者ケア施設における看取りのケアの質の維持向上を図る必要がある.

高齢者ケア施設の看取りのためのエンド・オブ・ライフ(End-of-Life,以下EOL)ケア提供には,いくつか課題が挙げられている.まず入居者の多くは循環器・呼吸器疾患等の慢性疾患を抱えており,疾患の進行や症状の変化は長期的で緩慢46)であり予後予測を行うことは困難7)である.また,看護職や介護職のEOLケアの知識・技術不足8)も指摘されている.さらに入居者の多くが認知症を有することから9),入居者の医療やケアの希望や,EOLに関する意向の把握が難しく,認知症を有する入居者の意思を代弁する役割を担う家族とスタッフとのコミュニケーションが不足していること10)も指摘されている.

EOLケアの質の向上のためにIntegrated Care Pathway(ICP)が欧米を中心に活用されてきた.ICPとはケアの標準化やケア計画の改善,多職種間や医療者・患者間コミュニケーションの改善,患者満足度の向上といった目的で用いられるケア計画11)である.ICPは複合的な取り組みであり,対象者の1日のスケジュールやケア内容等を含む記録様式を用いて,スタッフ教育や意思決定支援をチームで行う12).その効果として,医療者の専門家としての行動の変化や医療者と患者・家族のコミュニケーションの改善等が報告されている12)

EOLケア領域におけるICPとして,Liverpool Care Pathway(LCP)があり,EOLケアを開始するための判断基準やケア目標,多職種で共通して用いる記録用紙等を含み13),欧州の病院を中心に活用されている.LCPは,スタッフの症状緩和に関する知識の習得14)や医療者間コミュニケーションの改善15)に有用で,適切な使用によりEOLケアの手助けとなり16),スタッフにとってEOLケアの有用なツール17)であると考えられている.一方で,高齢者ケア施設でLCPを用いた研究では,症状緩和やQuality of Life(QOL)等の患者アウトカムを検証した研究が少なく18),LCPの効果は実証されていない.また,高齢者ケア施設では月単位・年単位で症状変化へのケア提供が必要とされる一方で,LCPは最期の数日に焦点を当てて作成13)されているため,長期的な症状管理や希望に沿ったケアには不十分である可能性がある.日本では緩和ケア病棟や在宅においてLCP日本語版が開発され,効果が検証されている19,20)が,高齢者ケア施設を対象とした研究はされていない.

そのため,日本の高齢者ケア施設におけるEOLケアのICPを開発していく必要がある.高齢者ケア施設のEOLケア領域のICPによる介入の構成要素(以下,ICP介入の構成要素)は明らかになっておらず,研究の蓄積も乏しい.したがって本研究は,高齢者ケア施設におけるICPの介入・実装研究で用いられている,ICP介入の構成要素と,アウトカム指標と介入による効果を明らかにすることを目的とした.本研究は今後施設でのICPの開発や介入・実装研究を行っていくうえでの示唆を与えることが期待される.

高齢者ケア施設とは,高齢者へ昼夜を問わず24時間の看護や介護が提供され,医療アクセスが可能な施設21)とされ,日本では特別養護老人ホーム,介護保険施設,有料老人ホーム等が該当し22),英国では24時間の看護や介護ケアを提供するnursing homes,生活支援のための介護を提供するresidential care homes等がある21).本研究ではこれらの施設を高齢者ケア施設と総称する.

また,本研究では,国内外の老年医学,緩和ケアに関する学術団体による文書23,24)を参照し,EOLケアを「入居者,家族およびケア・医療提供者が,入居者の近い将来の死あるいは入居者に残された期間が数カ月・数年単位で死に向かいつつあると予期した後に,多職種により提供されるケア」と操作的に定義する.この操作的定義においては,EOLケアは入居者の疾患にかかわらず提供され,年単位で提供されうるものとする.

研究方法

研究領域の基盤となる主要な概念や利用可能なエビデンスを概説(mapping)することを目的とする方法であるスコーピングレビュー25)を実施した.

高齢者ケア施設におけるEOLケアの課題を解決するためには,臨床現場で起こる出来事に対応する取り組みが必要であると考える.そのため本研究では,臨床現場の状況を踏まえた問題の解決策を検討し,維持させていくための取り組みとされている実装研究(implementation research)26)も含めた介入研究を研究の対象とする.

文献検索方法

文献データベースとして,PubMed,CINAHL,Cochrane Library,PsycINFO,医学中央雑誌WEB版(医中誌)を用いて検索を行った.併せて,EOLケアに関連する雑誌のハンドサーチを行った.検索対象期間は,文献を広範囲に検索するため開始期間の設定は行わず,PubMed,CINAHL,Cochrane Library,医中誌は2016 年8月まで,PsycINFOは2016 年9月までとした.

文献データベースによる検索では,各データベースの統制語と,統制語ではないが検索が必要と考えられた用語(ICP,LCP,リバプールケアパスウェイ)を用いて検索した.

PubMed,CINAHL,Cochrane Library,PsycINFOの検索には,高齢者ケア施設(“nursing homes” “assisted living facilities” “long term care facilities” “aged residential care facilities” “skilled nursing facilities” “residential facilities” “residential care institutions”)とEOLケア(“end of life care” “palliative care” “terminal care” “hospice care” “long term care”)とパスウェイ(“integrated care pathway” “ICP” “critical pathway” “pathway” “liverpool care pathway” “LCP”)に関する3つの用語をANDで組み合わせて検索した.検索の結果,PubMedは27件,CINAHLは34件,Cochrane Libraryは8件,PsycINFOは6件が検索された.

医中誌の検索式には,高齢者ケア施設(介護療養型医療施設,老人福祉施設,特別養護老人ホーム,介護老人保健施設)とEOLケア(エンド・オブ・ライフケア,ターミナルケア,終末期ケア)とパスウェイ(クリティカルパス,リバプールケアパスウェイ,pathway,integrated care pathway,liverpool care pathway)に関する3つの用語をANDで組み合わせて検索し,検索結果は0件だった.

選定方法

選定基準は(1)高齢者ケア施設のEOLケアに関する研究,(2)Integrated Care Pathway(パスウェイ等)の介入・実装研究であり実証データを含んでいるもの,(3)日本語,もしくは英語で書かれているもの,とした.(2)の基準は質が担保された研究から介入・実装研究の示唆を得るために設定した.文献選定のフローチャートはPreferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-Analyses(PRISMA)27)に基づいて作成した(図1).検索した文献は,選定基準に従いタイトルと抄録の内容の確認を3名の研究者で行った.タイトルと抄録で除外できなかったものは全文を確認し,判断に迷ったものは研究者3名で検討した.全文を確認した結果,査読付きの論文でない1文献,介入・実装研究でない10文献,高齢者ケア施設のEOLケアに関する研究でない6文献,薬剤のみに焦点を当てている1文献,病院からの搬送に関する調査である1文献,論説である2文献を除外し13文献を分析対象とした.

図1 PRISMA フローチャート(文献27を基に作成)

結果

レビュー対象文献の要約(表1

レビュー対象となった13件のうち英国の研究は7件2834),ニュージーランドの研究は1件35),オランダの研究は2件36,37),オーストラリアの研究は2件38,39),スウェーデンの研究は1件40),アジアで行われた研究はなかった.3件が,英国のEOLケアの質向上を目的とした医療戦略の一つであるGold Stand Framework for Care HomesとLCP を組み合わせた介入によりナーシングホームにおけるEOLケアの効果を検証3234)していた.

デザインはCreswell41)に基づき分類し,質的研究が2件28,29),量的研究が8件3033,3638,40),ミックスメソッド・トライアンギュレーションが3件34,35,39)であった.質的研究ではアクションリサーチデザイン28,29),量的研究では前実験デザイン3032,36,37)と準実験デザイン33,38,40)が用いられ,ミックスメソッド・トライアンギュレーションを用いた研究はデザインの指定がなかった.また,対照群を設定していたのは1件40),ミックスメソッド・トライアンギュレーションのうち1件34)は量的研究の箇所でランダム化を行っていた.介入対象はすべて高齢者ケア施設であった.研究対象は施設の管理者/看護管理者28,29,34),看護職28,29,32,33,35,38,39),介護職28,29,32,33,35,38,39),医師28,29,35,37,39),家族・遺族29,3638,40)が含まれていた.

アウトカム指標・介入による効果(表1

アウトカム指標は,施設の管理する入居者データやICPに直接あるいは間接的に関わった対象者の認識が用いられていた.

表1 レビュー対象文献の要約

1.アウトカム指標

アウトカム指標には,病院搬送・死亡場所,ACPや心肺蘇生に関する記録,医療・介護従事者や遺族の認識等があった.

(1)病院搬送・死亡場所

ICPの介入前後の一定期間で死亡した入居者の死亡場所の割合3134,38,39)や病院搬送の割合を指標32,38,39)としていた.

(2)ACP・心肺蘇生に関する記録・入居者へのICPの使用

ICPの介入前後の一定期間でのACPに関する記録の記載割合3234),心肺蘇生に関する記録の記載割合3034)を指標としていた.入居者へのICPの使用3134,39)はICPの書式を用いたケアを開始した入居者の割合を用いていた.

(3)医療・介護従事者のEOLケアやICPに関する認識

EOLケアやICPに対する医療・介護従事者の認識について調査2830,32,35,38,39)が行われていた.EOLケアへの自信やケア提供の変化,ケア提供に対するICPの影響や有用性,実装プロセスの課題等の認識について,質問紙調査30,32,38),インタビュー39),質的データと量的データの両方を用いた調査34,35,39)を行っていた.

(4)遺族のEOLケアやサービスに関する認識

入居者の最期の数カ月間に患者およびその家族が受けたケアとサービスの認識は,Views of Informal Carers’ Evaluation of Services(VOICES)36),遺族の死別後の適応状況にはLeiden Detachment Scale(LDS)36),最期3カ月間の医療の意思決定に関する患者と家族の経験はEuropean Organization for the Research and Treatment of Cancer Quality of Life Questionnaire-C30(EORTC QLQ-C30)37)で測定されていた.最後3日間の入居者の症状はEdmonton Symptom Assessment System(ESAS)やVOICESを使用して遺族による測定40)が行われていた.質の高いケアの提供や悲嘆支援の提供等,入居者や家族が受けたケアに対する家族の満足度について,研究者らが作成した調査票を用いて評価されていた38)

2.介入による効果

介入による効果についてアウトカム指標ごとにまとめる.

(1)病院搬送・死亡場所

病院搬送について,Hockleyら32)やHoreyら39)の研究では介入後に3~7%減少したが,統計学的有意差はなかった.Reymondら38)の研究では介入後に約10%減少した.入居者にICPを使用した群はしなかった群よりも病院搬送の割合が低かった38)

死亡場所について,Kinleyら34)の研究では,ナーシングホームでの死亡が介入後に増加が認められたが統計学的有意差はなく,介入群と対照群の比較においても統計学的有意差は認められなかった34).Reymondら38)の研究では,高齢者ケア施設での死亡がICPを使用した群は使用しなかった群よりも有意に高かった(p<0.001).Hockleyら32)の研究では,病院での死亡が介入後に7%減少したが,Horeyら39)やGillianら31)の研究では,病院での死亡が1~4%増加していた.Finucaneら33)の研究では,病院での死亡が増加したが,認知症を有する虚弱高齢入居者の不適切と判断される病院死は減少した.不適切な死は「認知症のある高齢者が肺炎・脱水の疑いにより入院して入院3日以内に死亡した者」と定義していた.

(2)ACP・心肺蘇生に関する記録,入居者へのICPの使用

ACPに関する記録について,Kinleyら34)の研究では,介入後に記載率の増加が認められたが統計学的有意差はなく,介入群と対照群の比較においても統計学的有意差は認められなかった.Hockleyら32)の研究では,介入後の記載率は統計学的に有意に増加した(p<0.001).Finucaneら33)の研究では,記載率が43%増加した.

心肺蘇生に関する記録について,Kinleyら34)の研究では,介入後に増加が認められたが統計学的有意差はなく,介入群と対照群の比較においても統計学的有意差は認められなかった.Hockleyら32)の研究では,ICPの介入後に記載率が有意に増加し(p<0.001),Gillianら31)やFinucaneら33)の研究では,記載率が12~34%増加した.

入居者へのICPの使用については,Kinleyら34)の研究では,介入後に使用率が有意に増加していたが(p=0.036),介入群と対照群の比較において統計学的有意差はなかった.Hockleyら32)の研究では,介入後に使用率が統計学的に有意に増加し(p<0.001),Gillianら31)やFinucaneら33)の研究では,使用率が27~28%増加した.

(3)医療・介護従事者のEOLケアやICPに関する認識

EOLケアの提供について,Hockleyら32)の研究では,入居者への精神的ケアの改善やスタッフ間でのコミュニケーション,チームワークの改善,入居者の死期が近いことに気付く自信について約60~80%のスタッフがICPによる影響があったと回答していたが,急変時の救急車要請や入居者の施設での死亡に影響しなかったと約60%が回答した.Clossら30)の研究では,ケアの自信の向上,チームワークや症状管理,入居者・家族とのコミュニケーションの改善があったと約60%が回答した.Reymondら38)の研究では,質の高いEOLケアの提供や,入居者や家族への緩和ケア等に関する情報提供を行っている等の認識が継時的に増加していた.混合研究法を用いたClarkら35)の研究では,症状アセスメントの増加や多職種チームワークの改善,死にゆく人へのケア全体の改善に対してICPが有用であると約80~90%が回答していた.インタビュー調査では,ケアに対する自信の改善28,35),ケアの質改善39),タイムリーなケア提供やEOLケアへの焦点の増加39),コミュニケーションの促進28,35)等が示された.

Watson ら29)の研究では,「緩和ケアの薬剤の知識や症状管理の知識不足」「死にゆくプロセスの理解不足」等のICP実装プロセスにおける課題が記述されていた.

(4)遺族のEOLケアやサービスに関する認識

医療者からの患者の状況に関する説明について,約90%の遺族は適切であると認識37)していた.また,最期の段階の医療処置への希望に関する話し合いについて,入居者が医師,看護師,家族,友人いずれかと話し合ったと,遺族の約70%が認識していた37).治療やケアへの意思決定の話し合いに遺族も関与したと約70%が評価した37).遺族は提供されたケアを肯定的に評価し,提供された情報に対する理解のしやすさを認識していた割合は介入後の方が高かった36).ただしVeerbeekら36)の研究は,病院・ナーシングホーム・在宅すべての遺族を対象とした包括的な結果であり,各々の結果は不明だった.入居者の死亡3カ月後に行われた遺族調査では,遺族の死別後の適応状況として,介入前後でLDSの得点が有意に低く(p=0.04),介入によって入居者との死別後の遺族の喪失や悲嘆の受け入れ等の改善がみられた36).入居者の最期3日間の症状のうち,嘔気,呼吸困難で介入後に有意な改善(p=0.016)がみられたと遺族は評価していた38)

ICPによる介入の構成要素(表2

高齢者ケア施設で用いられたICPには,独自に開発したICP27,29,30),LCP3136,39),修正版LCP28,37,38)があった.ICP介入の構成要素は主に「書式」「EOLケア/ICPに関する教育」「エキスパートによるサポート」「定期的なカンファレンス」にまとめられた.

表2 ICPによる介入の構成要素

1.書式

ケア記録等を記載する書式が用いられ,独自に開発したICPを使用していた研究28,30,31)では,開発過程は詳述されていなかった.書式には,疼痛,不穏,悪心・嘔吐等の身体的症状に関する内容,口腔ケアや移動等ケアに関する内容,コミュニケーションや宗教に関する内容等が含まれていた.修正版LCPを行った研究29,38,39)では,ワーキンググループやスタッフがLCPの施設での使用に向けて修正し用いていた.

2.EOLケアやICPに関する教育

教育対象

看護職や介護職28,29,33,34,38,40),医師38,40),新人スタッフ34)を対象に教育が行われていた.ICP介入の円滑な遂行のために,管理者や中心的役割を担う看護師28,29,32,34,38,40)にも教育が行われていた.中心的役割を担う看護師は,キーチャンピオン28,29,32)等の名称で呼ばれ,自身が受けた教育内容をスタッフに伝える役割32,34,40),ICP実施のサポート等ICP運用の中心的な役割28,38),スタッフのケア提供のサポート,入居者の予後予測やACP等に関するカンファレンスへの定期的な参加32,33)を行っていた.

教育内容

教育は主にEOLケアに関する教育31,3234,38,40),ICPに関する教育28,29,3133,38,40)が実施されていた.

EOLケアに関する教育では,EOLケアにおける症状管理に関する教育38),EOLケアに関するケア技術の訓練や入居者の死後の振り返り31),ACPを入居時から行うようなスタッフ指導33)を行っていた.プログラムを用いた研究では,英国のケアホームのケア提供者のための緩和ケアの学習プログラムである「マクミランの緩和ケアの基礎」が用いられ33,34),コミュニケーションスキルの訓練では,スタッフが1日Clinical Nurse Specialist(CNS)やホスピススタッフのシャドーイングを行っていた.

ICPに関する教育では,介入の開始前に,個々の入居者にICPの使用を開始する時期や使用方法に関する教育や訓練29,31,33,38,40),シナリオを用いたICPの書式を記載する訓練28,32)のほか,死亡後のICPの書式の振り返り32),入居者の死が近づいた時にICPを使用するように訓練33)をしていた.

3.エキスパートによるサポート

CNS28,29,3234),Nurse Practitioner38)が緩和ケアのエキスパートとしてスタッフをサポートした.CNSは定期的にナーシングホームでのサポートを行っており28,29,3234),施設外からの訪問によるサポートも行われていた3234).また,CNSは中心的役割を担う看護師へICP実施のサポート28,32,34),事例のケアに関するサポート38),電話による相談33),カンファレンスへの参加32,33),スタッフや中心的役割を担う看護師を対象とした勉強会の開催32,33),死後の振り返りのサポート32)や複雑なケア場面におけるスタッフのロールモデルとして模範的なケア提供34)等を行っていた.

また,医師または看護師がICP開始を判断していた39).施設外の緩和ケア医が施設の勤務医に電話によるサポート38)を行っていた.

4.定期的なカンファレンス

カンファレンスは数カ月に1回,定期的に開催29,30,33,40)していた.カンファレンスではCNSや医師,中心的役割を担う看護師による入居者の予後予測の評価カンファレンスとスタッフのサポート32,33),プロジェクト責任者や自治体の主任看護師,ケアの開発担当の看護師によるEOLケアの問題を検討するカンファレンスが実施されていた.Watsonら29)の研究ではカンファレンスは月1回実施されていたが内容は詳述されていなかった.

考察

本研究により,高齢者ケア施設におけるEOLケアのICP介入の構成要素,アウトカム指標,効果等が明らかになった.今後この領域で介入・実装研究を開発し,介入・実装する際の示唆を与えると考える.

今回の文献検討で抽出された研究における研究デザインは多岐にわたっていた.さらにアウトカム指標にインタビュー等の質的データと質問紙調査等の量的データ両方を用いた研究が複数あった.介入や実装のアウトカム評価(介入や実装が良好に機能しているか),プロセス評価(機能している理由,提供プロセス)を理解するためには質的データや量的データ両方を用いた混合研究法は重要42)である.医療・介護従事者や入居者・家族に対するICP介入の各構成要素の影響について,混合研究法を用いて主観的かつ客観的に明らかにすることで,重点的に行うべきことや改善点が明らかになり,より効果的なICP介入の構成要素を検討していくことにつながると考えられる.また,ICPの介入・実装により病院搬送や病院での死亡の減少,ACPや心肺蘇生に関する記録割合の増加等の効果が示されたが,ランダム化を行った研究は1件のみであり,エビデンスレベルの高いデザインによる報告は少なかった.今後エビデンスを構築していくためには,RCT等のより厳密なデザインによる研究の蓄積も必要である.

また,入居者による介入の評価も必要であると考える.レビュー対象の研究ではアウトカム指標に,ACPや心肺蘇生に関する記録の割合,ICPの使用割合等の客観的な指標や,医療・介護従事者の認識,遺族の認識が用いられていたが,入居者による主観的な指標は用いられていなかった.この背景には,入居者の認知症の進行等により意思疎通が難しくなることや,入居者の状況によっては調査への回答が容易ではないことが推測される.しかし,ICPの目的はケアの標準化やコミュニケーションの改善のほかに,入居者の満足度を向上させることも含む12).したがって今後の研究では,入居者の意識レベルや認知機能の低下によるデータ収集の困難や,死に関連する話題に触れることによる入居者への悪影響等がありえることを踏まえたうえで,ICPの介入・実装研究で用いるアウトカム指標として,ケア満足度やQOL等の入居者による主観的なアウトカム指標を用いることが望ましい.

複合的な取り組みであるICPによる介入の効果を測るためには,話し合いの回数等の実装プロセスの評価も必要である.今回,医療・介護従事者のEOLケアに対する自信の向上やケアの質改善の認識を報告した研究が複数あり,医療・介護従事者のEOLケアに関する認識の向上にICPは寄与する可能性があると考えられる.今後の研究では,ケアの質についての入居者や家族の認識や,職種間や入居者・家族との話し合いの回数,心理社会的なサポートに関する記録数等のアウトカム指標を用いた効果の検討が必要と考える.

今回特定されたICP介入の構成要素をもとに,今後高齢者ケア施設におけるEOLケアのICPを開発するうえで重視すべきことが挙げられる.

まず,施設のEOLケアにおいては,LCP以外のICPの開発が必要と考える.レビュー対象となった研究では,LCPや修正版LCPによる研究がほとんどであった.LCP は症状や治療等の医療に関する評価43)が中心であり,焦点を当てているのは最期の数日間である13).一方で,施設入居者の多くが認知症を有する9)ことから,高齢者ケア施設では早い段階から意向の確認をすることが重要と考えられる.さらに日本では「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」が改定され,本人の意思が変化しうることを踏まえて,繰り返し話し合いをすることの重要性が示されている44).したがって,ICPの開発の際には早期から入居者や家族の意向を把握し,その変化に対応できるようにACPを促進する要素を含むことが重要と考えられる.

第2に,構成要素の一つである書式の内容については,施設入居者の生活支援等について記載できる項目を含めるべきであろう.レビュー対象となった研究では医療的な内容が中心であるLCPや修正版LCPが多く用いられていた.施設は入居者にとって生活の場であり医療職以外の介護職が多く勤務することから,医療的な内容に限らず生活支援や介護,他者との関係性等の項目を含めた書式の開発が必要であると考える.

第3に,EOLケアに関する教育の重要性である.ICP介入の構成要素にEOLケアに関する教育が含まれていなかった研究では,緩和ケアに関する知識不足等のICP介入における障壁が示されていた.先行研究においても,医療・介護従事者がEOLケアに関する適切な知識を持つことや職種間のコミュニケーションの必要性が指摘45)されている.したがって,高齢者ケア施設におけるICP介入の構成要素に,終末期の症状等のEOLケアや職種間コミュニケーションに関する教育を含める必要がある.その際には対象となる職種に適した内容とすることが望ましいだろう.

第4に,CNS等の高度実践家による支援の重要性である.複数の研究で,医療・介護従事者へのEOLケアやICPに関する教育やエキスパートによるサポートが行われていた.エキスパートのサポートの有効性を明示したものはなかったが,エキスパートによる臨床現場での継続的な支援が,スタッフの不安の軽減や自信向上に影響した可能性がある.施設の医療・介護従事者が教育で得た知識を高齢者へのEOLケア実践に反映させるためには,教育役割や高度な実践の経験を有するCNS等のエキスパート46)によるサポートが有効であると考える.今後行われる高齢者ケア施設でのICPの研究でも,医療・介護従事者を対象とした教育とエキスパートによる実践場面での継続的なサポートを含むよう検討する必要がある.

本研究では,文献の選定基準を「介入・実装研究であり実証データを含んでいるもの」に限定しており活動報告等は含めていない.そのため,本研究で特定されなかったICP介入の構成要素やアウトカム指標が用いられている可能性がある.

結論

本研究では,高齢者ケア施設におけるEOLケアのICPの介入・実装研究を要約し,高齢者ケア施設におけるEOLケアのICP介入のアウトカム指標や構成要素等についてまとめた.

また,ICP介入により,病院搬送の減少,ACPや心肺蘇生に関する記録の増加や入居者へのICPの使用割合の増加,EOLケアに対する医療・介護従事者の自信や,遺族の認識の改善等の効果が示唆された.

今後,高齢者ケア施設の特性を踏まえてEOLケアのICPの開発,介入・実装を行ううえで,早期から入居者や家族の意向を確認し,その変化に対応していくこと,書式に医療だけでなく高齢者の生活背景を含めること等を重視していくことが望ましい.

また,新たに開発されたICPについて,質の高い研究デザインにより効果を検討し,エビデンスを蓄積していく必要がある.さらにアウトカム指標の中に,ケア対象者である入居者によるケア満足度やQOL等の主観的なアウトカム指標を用いる必要があると考える.

謝辞

本研究はJSPS科研費 16K15956の助成を受けたものである.また,東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科5年一貫制博士課程における博士論文基礎力審査の課題研究報告書として提出した論文に加筆,修正を加えたものである.

利益相反

宮下光令:企業の職員・顧問職(NPO 法人日本ホスピス緩和ケア協会理事),原稿料(株式会社メディカ出版)その他:該当なし

著者貢献

山縣,廣岡および深堀は研究の着想およびデザイン,研究データの収集,分析,解釈,原稿の起草と作成,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲;菅野,田口および宮下は研究の着想,研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲;松本は研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
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