2019 年 14 巻 1 号 p. 39-42
今回モルヒネ塩酸塩4%注射液(高濃度モルヒネ注)の持続皮下注で皮下硬結をきたし,留置針の交換を余儀なくされた患者において,ヒドロモルフォン塩酸塩1%注射液(高濃度ヒドロモルフォン注)へのスイッチが有効であったので報告する.患者は66歳男性,原発不明がんの頸部リンパ節転移による頸部痛があった.高濃度モルヒネ注の持続皮下注では皮下の硬結出現に伴う鎮痛効果の減弱により,およそ3日に1回の留置針の交換が必要であった.高濃度ヒドロモルフォン注の生理食塩水による40%希釈へのスイッチにより,皮下硬結は出現しなくなった.要因としては浸透圧,薬液自体の皮下刺激性の少なさ,希釈によりpHが中性に近づいたことなどが考えられた.高用量のオピオイド鎮痛薬の持続皮下注が必要な終末期がん患者では,より合併症の少ない薬液として高濃度ヒドロモルフォン注は有用な選択肢と思われた.
WHOではオピオイド鎮痛薬は経口投与が推奨されている.しかし,迅速なタイトレーションが必要な場合,経口摂取が不可能な場合などは非経口投与が選択される.緩和ケア病棟においては血管確保が困難な患者も多く,持続皮下注が唯一可能な投与経路であることも多い.オピオイド鎮痛薬の持続皮下注は1980年代からその有用性が報告されてきた1).しかし,持続皮下注では薬液の吸収に一定の上限があり,オピオイド鎮痛薬の大量投与を要する患者では高濃度のオピオイド鎮痛薬が必要である.
今回,モルヒネ塩酸塩4%注射液(高濃度モルヒネ注)を持続皮下注し,皮下硬結により留置針の刺し替えを余儀なくされた症例において,ヒドロモルフォン塩酸塩1%注射液(高濃度ヒドロモルフォン注)にスイッチを行った.皮下硬結は出現しなくなり,痛みの緩和も改善し,患者の苦痛緩和に有用であった.
【患 者】66歳,男性,身長175 cm,体重48 kg
【主 訴】頸部痛
【既往歴】30歳時十二指腸潰瘍で胃切除
【生活歴】無職,喫煙は64歳まで30本×44年,飲酒なし
【家族歴】特記事項なし
【現病歴】2016年,右頸部腫脹を主訴に本院耳鼻咽喉科を受診した.原発不明がんの右頸部リンパ節転移と診断され,放射線化学療法が行われた.一時期奏効したが,2018年になって頸部腫瘤が増大したため入院した.頸部照射が行われたが病勢はコントロールできなかった.照射による喉頭浮腫と腫瘍浸潤の両者により呼吸困難を生じ,緊急で気管切開術が行われた.気管切開後の状態安定後に緩和ケア病棟に入院となった.
【検査結果】Hb 8.4 g/dl,CRP 3.17 mg/dl,BUN 20.0 mg/dl,Cr 0.5 mg/dl,Alb 2.5 g/dl
【経 過】緩和ケア病棟入院の3週間前からオキシコドン塩酸塩水和物注射液(オキシコドン注)の持続皮下注が行われていた.緩和ケア病棟入院時にはオキシコドン注100 mg/10 ml(10 mg/ml)が0.5 ml/h(120 mg/日)で投与されていたが,1時間量の早送りによるレスキュー回数は7〜8回/日と,痛みの緩和は不良であった.皮下硬結の出現はなかった.緩和ケア病棟入院第一病日に高濃度モルヒネ注200 mg/5 ml+生理食塩水5 ml(20 mg/ml)の0.3 ml/h(144 mg/日)持続皮下注にスイッチした(図1).皮下留置針は24Gのプラスチック留置針が使用されており,使用を継続した.第2病日にはNRSは1,レスキュー回数は1回/日となった.
第3病日に持続皮下注部の硬結が生じた.皮下硬結は5 mm程度で,軽度発赤を伴った.局所の痛みはなかった.頸部痛のNRSは6〜7程度となり,レスキューを使用してもあまり変わらず,この日はレスキューを6回/日使用した.留置針の刺し替えを行った.第5病日には0.4 ml/h(192 mg/日)へと増量した.以後,硬結が形成されるとレスキューが効きにくく,レスキュー回数が増える傾向がみられ,その都度皮下留置針の刺し替えを行った.硬結形成時に留置針周囲からの薬液漏れが起こる場合もあった.およそ3日に1回の皮下留置針の刺し替えを余儀なくされた .患者はやせており,皮下脂肪が薄かった.留置部位は前胸部または腹部とし,少しでも皮下組織の厚い部位を選択しながら留置部位を移動させた.時間流量を減らすことによる硬結の予防を期待し,第9病日からは高濃度モルヒネ注の原液400 mg/10 ml(40 mg/ml)を0.2 ml/h(192 mg/日)での投与としたが改善はみられなかった.
皮下留置針の刺し替え回数の減少,痛みの緩和の改善をはかるため,第16病日に高濃度ヒドロモルフォン注40 mg/4 ml+生理食塩水6 ml の4 mg/mlにスイッチし,0.2 ml/h(19.2 mg/日)で開始した.スイッチ後皮下硬結はみられなくなり,レスキュー回数は減少した.持続痛と倦怠感の増強に従い,第19病日には0.3 ml/h(28.8 mg/日),第22病日には0.4 ml/h(38.4 mg/日)へと増量したが,皮下硬結はみられなかった.
第22病日には全身倦怠感がさらに増強し,本人と家族の希望を考慮し,チームでの同意を経てミダゾラムの持続皮下注による鎮静を開始した.その後はレスキューの使用はなくなった.
持続皮下注の留置針は通常週1回の交換としていたが,本患者では予後の短さを考慮し,第23病日でもそのまま使用した.第30病日においても硬結は認めなかったが,この時点で一度刺し替えを行った.結局ヒドロモルフォン塩酸塩のスイッチ後21日間において硬結の発生は全くなかった.第36病日に死亡した.
オピオイド鎮痛薬の持続皮下注の安全性は確立されているが,皮下硬結などにより留置針の刺し替えを必要とする場合がある.硬結部の痛み,硬結部での薬液吸収遅延による痛みの緩和の悪化,留置針の刺し替え自体の苦痛など患者にとっての不利益があり,その発生を抑えることが求められる.皮下の硬結を起こす要因としては時間流量,薬液そのものの刺激性,浸透圧,pHなどが考えられる.
時間流量についてはヒドロモルフォン10 mg/mlの流量,0.07 ml/hから2.9 ml/hまでの症例を比較し,硬結の発生の有無を比較した報告がある.おおむね0.9 ml/h以上で硬結が出現しやすいことが示された2).さらに各種薬剤持続皮下注の0.05 ml/hから0.8 ml/hでの硬結の頻度を検討した結果,流量の多いほど頻度が増える傾向がみられた3).本症例でもモルヒネ塩酸塩の濃度を濃くして流量を下げてみたが,硬結の予防には効果がなかった.
pH,浸透圧については,医薬品インタビューフォーム4,5)によると表1のように記載されている.pHに関しては4製剤ともpH4前後でほぼ同等といえる.浸透圧に関してはモルヒネ塩酸塩1%注射液がもっとも1から離れており,次いでモルヒネ塩酸塩4%注射液,ヒドロモルフォン塩酸塩0.2%および1.0%注射液の順であった.浸透圧からみればモルヒネ塩酸塩1%製剤がもっとも皮下組織への刺激性が強いことが予想された.しかし荒木らはモルヒネ塩酸塩の持続皮下注(希釈の有無は不明)による発赤・硬結出現頻度(発赤・硬結の認められた日数/持続皮下注施行日数)を比較し,1%製剤で10.6%,4%製剤で23.5%と,4%製剤の方に硬結が多かったと報告している3).その原因として,モルヒネ塩酸塩そのものの濃度が硬結に影響していると考察している.モルヒネ塩酸塩に関しては浸透圧の影響よりも薬液そのものの影響が大きいといえる.ヒドロモルフォン塩酸塩に関しては浸透圧が1に近いことも皮下への影響が少ない理由と思われた.さらに薬液そのものの刺激性がモルヒネ塩酸塩よりも少ない可能性も考えられた.荒木らは持続皮下注の発赤・硬結に対するデキサメサゾンの効果を報告しているが,高濃度モルヒネ注例ではデキサメサゾンの効果もなかったとしている.
寺田らはオキシコドン注(pH 4.5〜5.5)の皮下注を検討し,オピオイド鎮痛薬の原液投与よりも,生理食塩水で希釈してpHを7.4に近づけることが皮下への炎症を軽減させる可能性について言及している6).今回,ヒドロモルフォンは40%に希釈して用いており,これによるpHの改善も硬結の予防に影響した可能性があった.
ヒドロモルフォン塩酸塩の注射液は本邦では2018年5月に販売開始された.モルヒネ塩酸塩よりもさらに高用量の製剤がある.医薬品インタビューフォーム5)によればヒドロモルフォン塩酸塩はモルヒネ注射剤1日用量の1/8量を目安とするとされている.本症例ではやや少なめの1/10量で使用を開始したが,痛みの緩和に改善がみられた.高濃度モルヒネ注の40 mg(1 ml)の1/8量は高濃度ヒドロモルフォン注であれば5 mg(0.5 ml)となり,同量を2倍希釈で投与が可能,あるいは同じ流量で倍量投与が可能である.吸収速度に限界のある皮下投与において高用量のオピオイド鎮痛薬を投与するには,以前は高濃度モルヒネ注しか選択肢がなかった.より濃度の高い高濃度ヒドロモルフォン注で今回示したように皮下硬結の発生頻度が高濃度モルヒネ注よりも少ないのであれば,有用な選択肢となりうる.今後さらに症例を積み重ねての検討が必要と思われた.
高濃度モルヒネ注から高濃度ヒドロモルフォン注へのスイッチで皮下硬結の発生が抑制され,痛みの緩和も改善された症例を経験した.浸透圧,薬液の刺激性の少なさ,希釈することによるpHの改善などがその要因と考えられた.緩和ケア病棟における高用量オピオイド鎮痛薬持続皮下注においては,高濃度ヒドロモルフォン注は有用な選択肢になりうると思われた.
著者の申告すべき利益相反なし
加藤は研究の構想,デザイン,研究データの収集,分析,解釈,原稿の起草に貢献;久須美は研究データの解釈,原稿の内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.